Vacation! 8. まるで修学旅行


「ここは…………、一体、何なんだ!?」


 リディア大佐のぽかーんとした表情は初めて見るかもしれない。

 ビーチからチョッパーが借りたどでかいキャンピングカーで移動した先。


 そう!


 なんとおれたちは、夢の国の総本山に来ているのです!!


「いやー、確かに日本の夢の国とは規模が違うわ」


 この超巨大パーク、まずは駐車場からチケットセンターでの行列にびびる。


 すっげえ行列なのだ。


 そして、チケットが買えても、今度はパークの入り口がめっちゃ遠いので、フェリーかモノレールで移動するようになっている。


 無難にモノレールで移動し、パーク入口での行列を越えて入園したら、その盛況ぶりにリディア大佐さんは驚いたのだった。


「リンは初めてなの? こういう遊園地?」

「初めてだ。存在は知っていたが……、まさかこれほどの規模とは……」

 

 いつの間にか愛称呼びするほどミルとリディア大佐が仲良くなっていた。

 女子同士のコミ力の高さ、恐るべし。


「おめえの希望を叶えてやったんだぜ、もっと喜んだ顔しろよ」

「ぐぬぬ……、フロリダ夢の国には行ってみたいと思っていたけど……」


 チョッパーが背中をばんばん叩いてくる。

 昨夜のホテル、就寝前の大宴会時にミッションの戦果話をせがまれて、ついつい鼻が高くなってドッグファイトを語っていたおれ。


 その時に、パークのリア充に爆弾落としてー、みたいなことを言っていた。


 だって、修学旅行がこのパークだったんだ。


 日本のね。


 でも、おれは引き籠もりで学校行ってなかったから、良い思い出は一切ない!


「今日は、祭りか何かなのか?」

「いや、リン。そんな田舎者みたいなセリフやめろ。ここは年中こんな感じだよ」

「毎日か? 飽きないのか?」

「ところが年パスを持ってるやつは毎日来るらしい」

「…………なるほど、それほどの魅力があるということか」


 深く考え込むリディア大佐を尻目に、他はさっそくパーク内の店へと入って行く。

 そしてすぐに飲み物や食べ物を調達するグループと分かれた。

 

 まあ、あれだ。

 どうせ頭に付けるものを買ってSNS映え狙ってんだろう。


「いまのは日本の話だけど、海外は違うのかもな」

「そうなのか?」

「簡単に非日常空間を味わえるからな、日本だと。雰囲気がっていう女子が多いし、これをテーマにしたソシャゲもある。なので、純粋にアトラクションを楽しむ女子は少ないと愚考する」


 本場だと同じ欧米文化だから、アトラクションメインかもしれんが。


 巨大な通用門には夢の国の象徴である大きな看板が掛かっており、大勢の人が入れるように幾つものゲートある。

 一度中に入れば、可愛らしい演奏が鳴り響き、通路の端では鮮やかな配色の家がずらりと並ぶ。

 

 ぶっちゃけ、おれも雰囲気に当てられ少しわくわくしている。


「リーン、これ付けよー!」

「なんだ、それは?」


 早速、コハルがあの有名な耳の付いたを買ってきており、リディア大佐に装着させる。


 もちろん、コハルの頭にも色違いで同じもの、ビターは赤いリボン付き、唐瞳タントンはラインストーン付きと、カオは派手なレオパード柄と、それぞれ色とりどりだった。


「おー、可愛いなみんな」

「目に楽しいですね」

「はいはーいこれハニー、んで邵景シァオジン、ミルはこれと、アゼルっちとチョッパーはこれね」


 飲み物を買ってきたハニーや邵景シァオジンはイヌやリスの耳、ミルには白ウサギ、おれとチョッパーは子豚の耳とゾウの耳だ。

 

 うん、ぜんぜん可愛くない。

 むしろ、おれは装着したくないが仕方ない。

 ここは雰囲気に呑まれてやろう。


「こういうのが、このパーク? とやらの正式な格好なのか?」

「うん、そうだねリン、慣れていこう」


 見当違いのリディア大佐。

 いつものキリッ、としている姿が、緊張と戸惑いに揺れているのが新鮮だった。

 たくさんいるおかしな着ぐるみに目を見張り、手品やミニショーをするキャストにいちいち驚き、手渡されたサービスの風船に微笑する。


「なるほど、つまりここはサーカスを楽しむところか!」

「いやいや、こんなの序の口でしょ」

「まだ何かあると?」

「色々ある」


 渡された風船を珍しげに眺めるリディア大佐が、首を斜めに傾げた。

 陰キャのおれでもアトラクションの数々は知っている。


 別の遊園地に行ったこともあるしな、家族と!


 友達と?


 あるわけねーだろ、友達いないし。


「チョッパー大先生、リディア大佐にパークでの遊び方を教えなさい」


 おれはいかにも遊んでそうなチョッパーにバトンを送る。

 こういうのは適材適所だからね。


「よし、じゃあ俺に任せろ」


 頼もしい返事でみんなを集め、パークの案内図を広げる。

 内部はいくつものエリアで分かれていた。


 まずは今いるメインストリート。

 レストランにショップ、パーク内を横断する鉄道、中央にはここを象徴するお城がでかでかとある。

 

 次にアドベンチャーランド。

 カリブの海賊とか、地球内部の探索とか、まあ文字通りだ。


 続いてフロンティアランド。

 代表的なスプラッシュやビッグサンダーなどのアトラクション、それらの雰囲気に合わせたショップがある。


 そしてリバティースクエア。

 あれだ、ホラーなやつがあるとこ。他にはステージや大河を渡るクルーズ船とか。ぶっちゃけレストランやショップのほうが多い?


 で、キッズの本命、ファンタジーランド!

 マジでキッズ向けのアトラクションばっかり。もうファミリーに大人気。食べ物も飲み物も全部、それ向け。


 最後にトゥモローランド。

 スペースなアトラクション、ゴーカートみたいなやつ。ちょっと近未来風?


 いやー、これはみんな遊びに夢中になるね。

 もうほら、女子全員、大人まで目をきらきらさせちゃって。

 ゲームの中の遊園地なのに、ヨダレを垂らさんばかりになっちゃってまー。


「大佐は遊園地経験もないってことだし、今日は全施設の制覇を目指すか!」

「ファンタジーランドいきたい!」

「私はアドベンチャーランドだな」

「派手にフロンティアランドっしょ」

「メインストリートの鉄道で回りましょうよ」


 チョッパーの提案に賛同するものの、ルートについては見事に意見が割れる。


 まあ、そうなるわな。


 どっから行っても変わりないだろうが、こんな言葉を口走ったら、それこそ女子グループから総スカンだ。


 ここは黙って流れに身を任そう。


「きみはどこから行きたい?」

「え、おれ? ウソでしょ?」


 くそ、リディア大佐め、いっつも難しい局面におれを立たせる。

 何か鬱陶しい人工頭脳SBDでも乗り移ったのか?


「あー、そーだな…………」


 そして、ほら見ろ。

 どいつもこいつもおれの選択に興味津々の目を向けてきやがる。

 おい、チョッパー、結局テメー何も役に立ってねえじゃねーか。


 おれの無言の非難をどう汲み取ったのか、チョッパーは歯を剥き出してにっこり笑い、サムズアップしてきた。


 決めた。

 今度こいつにフレンドリーファイアするわ。

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