MISSION 42. 無茶ぶりじゃね?


「リン! このプランB知ってたのか?」


 対空砲に捕捉されないよう至近距離での低空旋回を繰り返すも、レーダー追尾されている警告が鳴り止まないので割と冷や汗ダラダラだった。

 

「無論だ。むしろまだ猶予があったほうに驚いている」

「なら戦線離脱しても大丈夫じゃない?」


 なんたって原子力潜水艦による核攻撃だ。


 核の起爆は原子核反応なので化学爆薬では誘爆しないし、無人機ドローンによる高々度迎撃はそもそもそんな高度上がらないだろうし、大体、弾道弾の降下速度はマッハ20とも言われてるし、いやもしかしたら高々度爆発による電磁パルスで無人船団そのものを航行不能にするのを狙っているのか、いや対策されてたりしたら意味ないし、そのまま核爆発させたほうが確実だし、おれ完全に混乱してる?


「その場合、空軍の面子を潰すことになるから空中給油してくれなくなるよ」

「的確な説明ありがとう唐瞳タントンさん!」


 ならば作戦通りいくしかないのだが、その為には対空戦車の4輌を黙らせなければならない。


 こいつらはぶっちゃけ紙装甲だ。


 一端離れてから再度のアプローチで機関砲掃射したいところだが、距離を取ろうにも無人機即席近接防御火器システムDCIWSによる榴弾に阻止されている。


 ビターとハニーも頑張っているようだが、電波妨害のない中、下手に接近すれば自爆に巻き込まれる為、なかなか撃墜スコアを伸ばせていない。


「すまない。わたしも加わりたいところだが……」


 苦しそうに言うリディア大佐だが無理もない。

 なんたってプラージャとレジヴィがリディア大佐機を追い回しているのだから。


 なんか完全に支配権を奪われたらしく防戦一方な感じ。


 これ完全に詰んでね?


 何度もバッドエンディングに到達してしまう悪役令嬢レベルで詰んでいるのは間違いない。


 打開策を探りたいのに対空砲火が思考の邪魔をする。

 超至近距離での鋭い旋回なので当たりはしないが、そのGで結構身体にきているのは分かる。


「ドッグファイトがしたいのに、こんな低空での爆撃ミッションは管轄外なんだよ」


 こういうのはが得意なプレイヤーにやらせたほうがいいだろうに。


 ひたすら爆撃ミッションが大好き奇特プレイヤーだっていんだぞ?


 確かランキングもそこそこ高かったあの【閣下】と呼ばれたプレイヤー。


 そいつがいたおかげでクリアしたミッションもあったな。


 ん?

 

 そういや、あれって…………


 ふと脳裏を過ぎったクソミッション。


 完全にクリア不可能と言われていた『弾幕ミッション』クリアに多大な貢献をしたのは【閣下】だったのだが…………


「あ!」


 思わず声を発した時に、バイザーに点滅した文字。


『喫水線』


 なんだこりゃ?


 こっちの人工頭脳SBDが息を吹き替えし……てねえな。


 相変わらず反応はない。


 しかし――――


 おれはスロットルレバーを絞って愛機の速度を落とす。


 完全に自殺行為に見えるだろ?

 ところがどっこい、違うんだな。


 対空戦車は仕様上、俯角が取れない上、ほぼ固定砲台の役割をしている。

 そして自動車運搬船の喫水線は約10メートル。


 更に愛機はポストストール《失速》性能に優れている。


「安置発見!」


 馬鹿め、プレイヤーの可能性を舐めんなよ。

 無人機ドローンも誘爆を恐れてか寄ってくる気配はない。


 だが猶予はない。


 バイザー上のカウントダウンは残り2分を切っていた。


「みんな、【FAO・スカイズ・ウォー】覚えているか?」


 数多くのシリーズ作品がある【FAO】の中でも、屈指の難易度を誇ったそれは、ほとんどのミッションが空戦ではなく、爆撃ミッションばかりというピーキーな仕様だった。


 多くのプレイヤーが爆撃に適したセッティングにしていた為、とある大規模スコードロンミッション(最大72名)時に遭遇した弾幕射撃を避けられずに撃墜されるプレイヤーが続出したのだが……。


「もしかしてあれを最速突破したのって悪魔ちゃんのスコドロだったんだ」

「なるほど、やはりあれはきみのスコードロンだったのか」


 さも納得したような言うビターハニーコンビ。

 

瞳瞳トントン、本命は任せました」

「オーケー、ぶっ潰してやる」

 

 邵景シァオジンの信頼に唐瞳タントンが豪快に頷く。


「あの対空戦車はどうすんの? 別にチャイナ娘が蜂の巣になっても問題ないけど?」

「アゼル・ナガセが何とかする。カースト女に任せる仕事はない、帰れ」

「はいストップ、マジで今は時間ないから止めて」


 何かと険悪になるビターと唐瞳タントンを諫める。


「リンは、大丈夫か?」

「あの時も一緒のスコードロンにいたのを忘れたのか?」


 頼もしい返事だった。


 与えられた役割を承知したようだが、その大変な無茶ぶりにまったく動じていない。


 既に作戦は始まっている。


 ビターとハニー、それに唐瞳タントン邵景シァオジンは4機のフィンガーフォー編隊になり、無人機即席近接防御火器システムDCIWSの周囲を旋回する。


 近付きは離れを繰り返し、巧みに無人機ドローンを誘導し、それに呼応した対空砲16門が照準を絞っているようだ。

 

 ――――バイザーの残り時間はあと1分。

 

 おれは愛機を自動車運搬船を中心に、喫水線10メートル以下の楕円軌道旋回をしながらタイミングを見計らう。


 ビターとハニーの機が編隊を離れ、一気に防空網へ迫る。


 瞬時に反応する無人機ドローンは今までより濃密な陣形を保って迎え撃っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る