第41話 ポルタ―オの街炎上!


「まだ動きは無いですか?」


前を走る蒼い頭にマクレーンが問いかける。


「ああ、まだのようだ。」


先頭を走っていたアランが振り返りながら答えてきた。

夜明けまであと少し。

目の前には街の入り口が見える。


良かったまだ間に合った……。


マクレーンが胸中で呟きながら安堵していると、突然目の前が急に明るくなった。


否。


真っ赤になったのだった。


轟っと唸りを上げて目の前の稲穂から火が吹き上がる。

刈り入れ前の稲穂は程よく乾燥していてよく火が点く。

巨大な焚き火と化した麦畑は黄金から赤々とした色へと替わり、辺りに熱風と火の粉を撒き散らしていった。


「くそっ!間に合わなかったか!!」


炎の熱と勢いに先に進めなくなったアランが舌打ちする。


「くそ、どうするマクレーン。」


焦りも露に隣にいたマクレーンに声をかけたが返事が無かった。


「マクレーン?」


聞こえなかったのか?と隣を見下ろすと何故か麦畑を凝視しながら固まっているマクレーンの姿があった。


「マクレーン、間に合わなかったのは仕方が無いが……マクレーン?」


間に合わなかったことにショックを受けているのだと思ったアランはマクレーンを励まそうと声をかけたのだが、しかしいつもと違う様子に首を傾げた。

炎に染まる麦畑を見つめるマクレーンの顔が真っ青だったのだ。

しかも小刻みに震えてさえいる。

今まで見たことも無いマクレーンの反応にアランは驚いた。


「どうしたんだ?」


「あ、あ、みんな燃えてしまう……火が全部……なにもかも……。」


声をかけながらマクレーンの肩を掴もうとしていたアランはマクレーンの震える声に動きを止めた。

絞り出すようなその声にアランは何も言えなくなってしまった。


「マクレーン……お前もか?」


マクレーンを見下ろしながらアランが呟く。


もしかしてマクレーンも昔俺と同じ目に遭った事があるのかもしれない……。


昔の記憶を辿りながらアランはマクレーンを見下ろす。


あの時は赤の魔女に俺は助けられたがしかし今は……。


アランはそこまで考えて目の前の街を見た。

美しかったポルターオの麦畑は今や炎に包まれていた。

騒ぎに気づき街の住人達が麦畑へと走ってくる姿が畑の彼方で見え始めた このまま放って置く訳にはいかない、一足先に盗賊のことを伝えに行ったニコルの事も気になる。

アランは再度マクレーンへと向き直ると肩をがしっと掴んで激しく揺さぶった。


「おいっ、おいっ、マクレーン!」


がくがくと揺さぶられ我に返ったマクレーンは驚いた顔でアランを見上げる。


「あ、アランさん……。」


「何があったか知らないが今は街の人を助けるのが先だ!!」


アランの真剣な表情にマクレーンもはっと気づく。


「す、すみません。」


「そんな事は後だ!行くぞ!!」


申し訳なさそうに項垂れるマクレーンを叱咤すると、マクレーンの腕を引き強引に走り出すのだった。

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