第38話 意外な助っ人
「マクレーンさん!!」
ニコルが慌てて滝壷を見下ろすと、ぱしゃんと落ちる音が聞こえてきた。
がくりと項垂れるニコル。
背後でニヤニヤ笑う盗賊たち。
「マクレーン!くそっ。」
騒ぎに気づきアランが駆け寄ろうとするが先程まで相手をしていた盗賊の一人に行く手を阻まれる。
アランはその盗賊をぎろりと睨むと「邪魔だどけ!」と今まで聞いた事も無いような低い声で言い放ち一瞬にしてその盗賊を斬り倒してしまった。
その剣幕に怯む盗賊たち。
アランは盗賊たちを無視して崖に駆け寄る。
暗い滝壷はよく見えず人影が浮いているのかもわからない。
「待ってろマクレーン!」
アランがそう言って滝壷へと飛び込もうとしたとき異変は起きた。
背後から突然凄まじい突風が起こったのだ。
それは轟々と唸りを上げ目の前で竜巻になっている。
そして――。
その竜巻の中から赤い炎が現れた。
炎が現れたと同時に竜巻は消え、中から炎を纏った女が出てきた。
それは忘れもしない炎の化身――赤の魔女だった。
「な、なんだあいつは!?」
突然現れた女に盗賊たちはどよめきたつ。
目深に被ったローブのフードから覗く赤い瞳を見て盗賊の一人が叫んだ。
「赤の魔女だ!」
「なに?なんでヤツがこんな所に!?」
赤の魔女という言葉に盗賊たちは怯む。
しかしそこはゴロツキ、かなりの間合いを取って魔女を取り囲むように身構え始めた。
「へっ、魔女って言っても女一人だ、この人数を相手に勝てるわけねーぜ!」
威勢を取り戻し始めた盗賊たちは調子に乗って魔女に向かって挑発しだした。
ピクリと反応する赤の魔女。
盗賊たちが一斉に襲いかかろうとしたとき。
魔女の手に一振りの大剣が現れた。
その刃の大きさに盗賊たちが驚き固まる。
炎女帝ファイヤーエンプレス。
深紅の刀身を持つそれは赤の魔女の唯一にして無二の武器だ。
人前に滅多に現れる事の無い魔女の一生に一度拝めるかどうかという、その奇跡の代物に盗賊たちの目が釘付けになる。
その美しい刀身は魔女の身長程もあり、その細い片腕でどうやって持っているのかと首を傾げてしまうほど重厚な大剣だった。
魔女は己の武器に見惚れる盗賊たちを一瞥するとその大剣を軽々と持ち上げ一閃させた。
剣の軌跡を追うように生まれる炎の帯。
盗賊たちは突然出現した炎に巻かれ悲鳴を上げながら逃げていった。
あっという間に盗賊を退けてしまった魔女をアラン達は呆然と見ていた。
しかしアランは、はっと我に返り背後を振り返る。
アランは一度だけ魔女を振り返り、すぐに視線を崖へと戻すと迷い無く滝壷へと飛び込んでいった。
「アランさん!!」
アランの突然の行動に慌てるニコル。
しかし魔女の事が気になり視線をそちらへと向けると魔女はまだそこにいた。
「あ、あの……ありがとうございます。」
ニコルは魔女に向かって深々と頭を下げる。
「あ、あの!」
魔女に何かを言おうと顔を上げて見ると、一瞬赤の魔女が微笑んだように見えた。
そして目を見張るニコルの前で魔女は音も立てず、すっとその場から姿を消したのだった。
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