第22話 北の大地は危険です1
「さて、マクレーンはどっちに行くんだ?」
ニコルと別れてから数刻後。
キャセロを出たあと、この国名物の雷列車――雷の力で動く巨大な列車――を何駅も乗り継ぎ着いた先は閑散とした駅であった。
首都キャセロと違い駅から出ると何も無く、目の前に続くのは長い長い田舎道だけ。
建物といえば駅のみで、しかも入り口に取り付けられたランプが一つ寂しく辺りを照らすのみであった。
マクレーンはそれを気にする風でもなく長い田舎道を進んでいく。
田舎道を歩く事数刻後、アランは目の前に現れた分かれ道を見つめながらマクレーンに聞いてきたのであった。
「こっちです。」
マクレーンは片方の道を指差すとすたすたと歩いていく。
アランはマクレーンの後をゆっくりと付いて行った。
「なあ、ここさっきから同じ景色な気がするんだけど……。」
分かれ道から暫く進んだときアランが顔色も悪く聞いてきた。
「大丈夫です道はわかっていますから。」
「そうか?でもな~。」
田舎道から雑木林に景色が変わったことでクリムゾンフォレスト(迷いの森)での事でも思い出したのかアランは不安そうな顔でマクレーンを見る。
マクレーンはやれやれといった風に溜息を吐くとこう答えた。
「ここはあの森じゃないですよ。」
「わかってるけどさぁ~さっきから来た道をぐるぐる回っているような気がするんだが。」
アランの言葉にふとマクレーンが立ち止まった。
居る。
誰かがこっちを見ている。
ピリピリと肌を刺すような視線にマクレーンは内心冷や汗を流す。
アランも何かを感じ取ったのか張り詰めた表情で無言になっていた。
平静を装い歩き続ける二人。
目的地までもう少しといった所で動きがあった。
ひゅんっ。
鋭く風を切る音と共に足元に何かが突き刺さる。
咄嗟に避けて先程まで立っていた場所を見ると矢が数本地面に突き刺さっていた。
盗賊か?
アランは慌てて周囲を見回す。
気配が無い。
かなりの使い手と瞬時に判断してアランは腰の剣に手をかけ構えた。
次の瞬間またしても鋭い音が聞こえてくる。
しかも今度は己のすぐ近くで。
アランは身を翻し剣を一閃させる。
バラバラと音を立てて折れた矢が足元に散らばった。
「アランさん!」
マクレーンはアランの足元を見て叫んだ。
「マクレーン木の陰に隠れてろ!」
アランはそう言うと走り出す。
どすっ どすっ。
アランが居なくなった地面にまたしても矢が突き刺さってきた。
しかも先程とは比べ物にならない早さで。
「ちっ。」
アランは相手の標的が自分だという事を理解し軽く舌打ちする。
剣を両手で構えすぐ横を一閃し数本の矢を叩き落した。
「へえ、やるねぇ。」
「どこだ!?」
アランは立ち止まり声のした方を振り返る。
と、またしても矢が飛んできて寸での所で薙ぎ払った。
「どこだ!隠れてないで出て来い!」
アランは見えない敵に向かって叫んだ。
すると林のほうからくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「そこか!?」
アランは声のした方に駆け出そうとした瞬間はっと立ち止まった。
「ちがうよ。」
声がしたのと、それが飛んできたのは同時だった。
無数の矢がアランの頭上から降り注いできたのだ。
そのおびただしい数に、アランは真っ青になる。
「なっ。」
聞こえてきた声は一人だった。
だが飛んできた矢はその十倍いや何百倍もの数だった。
どうやって飛ばしたのかその人間離れした無数の矢にアランの思考が止まる。
やられる!と思った瞬間わき腹に鈍い衝撃が走った。
どんと何かに押し飛ばされ数メートル先へ己の体が吹っ飛んでいく。
「お、おいっ!」
横に飛ばされながら己を突き飛ばした相手を見てアランは目を瞠った。
そこにはマクレーンが居た。
渾身の力だったのであろう両手を前に突き出した状態で足元には土煙まで上がっている。
スローモーションの映像のようにその動きがゆっくりと流れていく。
無数の矢はマクレーンの直前まで迫っていた。
「マクレーン!!!」
アランはありったけの声で叫ぶ。
それと同時に無数の矢が地面に突き刺さる音が響いた。
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