第21話 北の大地へ到着しました
「ニコルさんは、ここの出身だったんですか?」
マクレーンは転柱門の建物から出るとニコルに聞いてきた。
横に立つアランも興味津々といった感じでニコルを見おろしている。
ニコルは気恥ずかしそうに頷くと「ええ、離れて暮らしている祖母へ会いに行っていたんです」と答えてくれた。
「そうだったんですか。」
何故かマクレーンは嬉しそうな顔になった。
そんなマクレーンの反応に気をよくしたニコルは恥ずかしそうに話し出した。
「実は僕、魔女の使徒に選ばれたんです、それで家族には会えなくなるので挨拶回りに行っていて・・・・祖母は寒がりなんで数年前に温泉のある東の大地に引っ越してしまったのでそれで・・・。」
「ま、魔女の使途だって!?」
ニコルの話を遮るように素っ頓狂な大声が頭上から聞こえてきた。
見上げるとアランが驚いた顔でニコルを見ている。
「え、ええ、まさか選ばれるとは思っていなかったんですけど。」
ニコルは恥ずかしそうに頬を染めながら頷く。
「すごいな~魔女の使徒かぁ。」
アランはニコルを尊敬の眼差しで見つめると羨ましそうに溜息を吐いてみせた。
「魔女の使徒・・・ですか。」
「ええ、マクレーンさんはご存じないんですか?」
歯切れが悪そうに呟くマクレーンにニコルが不思議そうに聞いてくる。
それもそのはず魔女の使徒はこの世界の住人なら誰でも知っている常識であったからだ。
しかも魔女の使途に選ばれたと言うだけでアランのような反応はあれど、マクレーンのように微妙な反応をする者は少ない。
その為ニコルは気になって仕方がないといった風にマクレーンの顔を覗き込んできた。
「あ、いいえ知っていますよもちろん!凄いですね!!」
マクレーンは焦ったようにそう言い繕うと慌てて首を振った。
魔女の使途とは――。
その名の通り魔女の側近の事である。
魔女の側近と言っても魔法が使えるわけではなく、ごく普通の人間達だ。
ただ他と違うところといえば、魔女の使途に選ばれた者は特別に魔女の棲む塔への出入りができるようになる。
しかもそれはごく限られた人物のみがなれる。
その為この世界に住む人間達にとって「魔女の使途』になることは素晴らしく名誉な事なのであった。
そしてこの魔女の使途になるには厳しい審査が必要だった。
毎年各地で開催されている使徒選別会という大会があり、そこで優勝した者の中から選ばれる。
しかも魔女の使途に選ばれるのはほんの一握りだけ。
魔女の使徒になるには、その大会の優勝者になり教会から魔女に紹介してもらわなければならない。
そしてその中から魔女に気に入られた者だけが『魔女の使徒』になれるという厳しいものであった。
しかもその大会の対象は男だけであるにも関わらず、毎年大勢の参加者が後を絶たなかった。
しかも参加者はその町や村で一番の美男子ばかりが参加するのである。
その為、使徒選別会ではその美男子達を一目拝もうと大勢の女性陣達も押しかけて来るためその規模は巨大で国を挙げての一大イベントになる程であった。
しかし正直マクレーンは使徒選別会や魔女の使途というものが苦手だった。
別に魔女を否定しているとかそういう訳ではないのだが、ただ何となく肌に合わないのだ。
魔女の使徒になり魔女の塔へと入ったら最後、二度と外の世界には出られないという厳しい決まりも好きになれない理由の一つであった。
そんなマクレーンの考えは露知らず、ニコルとアランは魔女の使途の話で盛り上がっていた。
「いや~ニコルお前さんすごいな~審査凄く厳しいんだろ?俺ももう少し顔が良ければ考えたんだけどなぁ。」
「いえいえアランさんなら十分大会で優勝狙えますよ!良かったら次回参加してみてはどうですか?」
「いや~俺なんかなぁ~あはははは。」
満更でもなく嬉しそうに笑うアランに冷たい視線を向けるとマクレーンは「もう行きますよ」と言い残すと、すたすたと先に歩き出してしまった。
「あ、待ってくれよ~、じゃあニコルまたな。」
「はい、お元気で。」
別れの言葉を言い合う二人にマクレーンは立ち止まり振り返る。
「ニコルさん、ここでお別れですか?」
「ええ、ここに迎えが来る予定なので。」
「そうですか、ニコルさんお元気で。」
マクレーンはそう言うとニコルに手を振る。
ニコルも嬉しそうに手を振り返し、マクレーン達はここでニコルと別れたのだった。
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