第17話 金髪碧眼美人さんが盗賊に攫われました3

草木も眠る丑三つ時。

マクレーン達は、盗賊が眠るまでの間どうやってニコルを助け出すか相談していた。


「では、一番見つかり辛い僕がニコルさんを木から下ろしますね。」

「ああ、そうしてくれ。」

「では、もし僕が見つかったときは、アランさんサポートをお願いします。」

「ええ、俺が!?」


ひそひそと役割分担を決めていくマクレーンに、アランが素っ頓狂な声を上げた。


「ええって、あなた元傭兵でしょう?その腰にあるのはなんなんですか!?」


「いや、傭兵だったけどさ~、俺そんなに強くないぜ。」


と情けない声を上げるアランに、マクレーンは呆れた顔をした。


「強くなくても剣を振りかざせば盗賊だって少しは怯みますよ。ウルガさんもいるんですから何とかしてください!」


役立たずとは、この事だと言わんばかりの表情で、マクレーンはアランにきつく言うと、隣で静かに聞いていたウルガに「お願いします。」と頭を下げた。


「わかった、任せろ。」


なんとも心強い返事にマクレーンは、にこりと頷くと隣で情けなく肩を落とすアランをジト目で睨んだ。

そしてー―


マクレーンたちは盗賊が眠った頃合をみて実行に移した。


「それでは、行って来ます。」

「わかった。」

「ああ、気をつけてな。」


マクレーンは小さな声でそう言うと、木や草むらに隠れながら、ゆっくりと近づいていった。

アランとウルガと呼ばれた大男は、マクレーンの様子を静かに見守る。

アランはちらりと横の男を見遣った。

先程の作戦会議の前に、マクレーンは大男に自己紹介をしていた。

その時大男は ― ウルガ・ゴードン ― と名乗っていた。

会ったばかりの大男は長身のアランよりも頭一つ分も背が高い。

屈強な体に隙の無い身のこなし。

只者ではないなとアランは思った。


「あんた何者だ?」


「お前こそ。」


アランの言葉にウルガも聞き返してくる。

その隙の無い返答にアランは胸中で舌打ちする。


「ただの傭兵だよ。」


「ほう、腕の立つ傭兵なようだな。」


皮肉でもなんでもない、見透かしたようなウルガの言葉に、アランは益々警戒した。

そして何事かを言おうとしたとき、ウルガがおもむろに前を見ろと目配せしてきた。

アランが慌ててそちらを向くと、ニコルの元へ辿り着いたマクレーンが、木によじ登り縄を切っている姿が見えた。

その様子を固唾を飲んで見守る。

盗賊達はまだ気づいていないようで、大いびきをかいて寝ていた。


――あともう少し。


ニコルの縄が緩んだところで、運悪く盗賊の一人がむくりと起き出してきてしまった。

息を飲む男二人。

盗賊は寝ぼけた様子で辺りをふらふらと彷徨う。

手ごろな茂みを見つけると用を足し始めた。


息を潜めるマクレーン。

そのすぐ下には寝ぼけた盗賊。


なんとも間の悪い光景に冷や汗が流れる。

そして間の悪い事は続くもので。


がさり。


木にしがみついていたマクレーンのバランスが崩れた。

「ん?」と音のした方を見上げる盗賊。

木の上に必死にしがみついているマクレーンを見つけて大声を上げた。


「貴様なにしてる!!」


途端飛び起きる盗賊達。


「やばい!いくぞ!!」


アランたちは舌打ちすると剣を構え走り出した。


「な、なんだお前らは!?」


突然木の陰から飛び出してきた男二人に盗賊達が怯む。

その隙を見てマクレーンは木から飛び降りると急いでニコルの縄を切った。


「てめえ、何しやがる!!」


ニコルを助け出したマクレーンの背後から罵声が聞こえてきた。

振り返るとそこには先程の盗賊が鬼の形相で仁王立ちしていた。

手には錆付いた斧を持っている。

マクレーンはさあっと青褪める。

逃げようとした瞬間体に鈍い痛みが走った。


「マクレーン!!」


アランが叫ぶ。

どん、という衝撃音の後マクレーンは茂みの中へと弾き飛ばされていった。


「こいつ!」


アランは叫ぶと、マクレーンを弾き飛ばした盗賊へと斬りかかった。

ガイン、ガインと硬質な音と火花を散らしながら盗賊と斬り合う。

しかし多勢に無勢のアランたちは、じりじりと押され始めていく。


「くそ、人数が多すぎる。」


ウルガが吐き捨てるように言う。

こちらも男は4人いたが戦えるのは2人、あちらは15人もいる。

間合いを詰められ、ぐるりと辺りを囲まれてしまいアランたちは絶体絶命の窮地に立たされた。


――万事休すか!?


そう思った時、目の前に火柱が上がった。

辺りを照らし出すほどの大きな火柱に、余裕の笑みを零していた盗賊達が一瞬で顔色を変えた。

「なんだ?なんだ?」と慌てふためく盗賊達の目の前にそれは現れた――。


闇の中に忽然と現れた深紅。


ゆらゆらと炎のように揺らめく人型は宙に浮いている。


そして陽炎のように見えたその人物は本当に炎を纏っていた。




「あ、あ、あ、あ、赤の魔女だーーーーー!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る