第6話
その中で、一人の少女が人の流れに逆らうようにこちらの方を向いて、突っ立っていることに気がついた。でも、僕と視線が合う訳でもなく、少し下向きに僕の斜め後ろくらいに視線を向けていた。
振り返って、後ろを見ても誰かがいるということもなかった。おかしいなと思って、右手で顎をかく。すると、なぜだか少女の顔が動いて、僕のあご付近に目を向けていた。
顎をかく右手を見下ろして、右手首に腕時計をつけていることを思い出した。試しに、腕時計を外して、左手首に巻きなおすと案の定、少女の目線は左手首に移っていた。
この腕時計は、黒をベースに数字や秒針などにオレンジがあしらわれていて、あまり出回っていない昔のものだ。かといって、腕時計マニアが唸るほどの珍しいものでもない。
少し気になった僕は、少女の方に向かって足を踏み出す。それに気づいたのか、はっと顔を上げて僕の顔を一瞥すると駆け寄る間もなく、出入り口から外に飛び出してしまった。
なんとなく告白もしていないのに振られたようなそんな気分になった。
その後、現代社会、家庭科の授業をこなし、気がつけば空の弁当箱を机の上に並べ、向かい合って立華と雑談をしていた。
主な話の内容は、今日の授業がいかに退屈かというもので、ひたすら立華が熱弁しているのを僕はふんふんと聞いていた。
立華の授業に対する不満がヒートアップし、声が荒くなってきた辺りで、教室のざわめきが小さくなり、代わりにひそひそと話す声が教室に充満した。立華もそれに気がついたようで、口をつぐんで周りをきょろきょろと見回す。ある方向で首が止まったのを見て、僕もそちらの方に好奇心で顔を向けた。そこには、今日、集会終わりに僕の腕時計を見つめていたあの少女が鋭い眼光で教室を見渡していた。
本能的にやばいと思って目をそらそうとする直前で、少女と目が合う。
「おい、あれって……」
立華が俺の顔を見て何か言おうとしている間に、教室の入り口にいた少女は、机の間を通って、ずんずんと僕の方に向かってきていた。
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