第1話

 少女が空から降ってくる。

 ゴールデンウィークが明けて、数日後の朝のことだった。

 まるで何かの小説や、アニメや、漫画みたいに、素敵な物語が始まるような、そんな運命的な出来事だった。

 と普通の人なら思うだろうが、別に僕はそうは思わない。そんなこともあるだろうというくらいに感じただけだった。それに、、いまさら驚きもしなかった。

 幸い、少女は仰向きに落下してきていた。ほぼ少女の真下にいた僕は、目の前に落ちてきた少女を瞬間的につま先で着地させ、すねの外側、お尻、背中、肩の順に次々と少女が着地できるように、すばやく少女の動きの介助をする。

 高所から落下してくる人間を受け止める場合、受け止める側も怪我をすることは避けられない。前に、そういう時、どうすれば怪我をすることなく、その人間を救助できるか、先輩が気まぐれに聞いてきたことがある。その時に考案したのが、この介助式五点接地だった。五点接地というのは漫画などでときどき出てくる高所からの着地法で、接地させる体の五か所に衝撃を分散するというものだ。これを使えばそれなりに高いところからの落下でも骨折することがないらしい。僕はこれを落ちてくる相手の身体を手で支えるように高速で動かして着地させればいいと先輩に答えた。

 そのとき、先輩は、そんなもん無理だろと呆れたように言った。もちろん瞬間的に落ちてきた人間の身体を動かして五点接地をさせることなんか普通は無理だろう。正直言って、僕も一か八かではあった。でも、昔、小学生の頃、五点接地の練習を同級生としていた際に、同級生相手に、介助式五点接地のようなもので、五点接地のやり方を教えたことがあった。その経験が、今日の出来事に生きた。

 横たわる少女の身体には見た限りでは変に折れ曲がっているような箇所はなかったけど、目は閉じられていて、身体は力が抜けたようにだるんとなっていた。

 少女から視線を外して上を見ると、校舎の三階の窓からこちらをのぞき込んでいる生徒が複数名、見えた。落ちる瞬間は見ていないが、どうやら三階あるいは屋上から少女は落ちてきたようだった。

 少女が落ちたことに気づいているよう人もいるようなので、このまま立ち去っても大丈夫かとも思ったが、一応、スマホをポケットから取り出して一一九と押して一通り現状を説明する。

 そうこうしているうちに、校舎のいろいろな窓から、首を突き出して多くの生徒がこちらを覗いていた。それだけでなく、校舎から出てきて、だんだんと少女を中心として人だかりが出来つつあった。

 面倒にならないうちに、人だかりに紛れて少女から離れると、少し早歩きで生徒玄関に向かって歩き出す。腕時計を見ると、もう始業五分前だった。

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