緩慢

Kolto

第1話 情





とある日のとある街の宿屋にコルトは居た



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「…お願い…コルトさん…」


そう目を潤ませながら震える声で言うミコッテ族の女性


「…………」


ふぅ、とコルトは一息つくと女性をベッドに運び服に手をかける




太ももから胸にかけて撫でると、女性からは小さく声が漏れる


撫でられるのがいいんだろ?


自分の角で身体に傷を付けないよう慎重に舌を這わせる


こうすると気持ちいいんだろ?



仕事をするように淡々と…何も考えず



ぴくりと震え、身体が反応する

甘い吐息と小さな声が静かに部屋に響く


「…あ…っ………ねぇ、して…?」



「………わかった」


そう言うと身体を重ねた


どうしてこうなってしまうのか、自分が嫌になる

嫌ならやらなければいいのに

そう思いながら




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数日前、コルトはとある酒場で酒を飲んでいた

そこにそのミコッテ族の女性が隣に来た


「ご一緒していいですか?」


「あぁ、構わないですよ。どうぞ」


「ありがとうございますぅ!」


耳と尻尾をピクピクと動かし喜ぶ女性

2人は飲みながら話をしていた


女性は最近、暴力的な恋人と離れることができたらしい

ようやく酒場などに遊びに行けるようになり、今日は久しぶりに遊べて楽しいと言っていた


コルトはずっと女性の話を聞いていた

楽しそうな人を見ているのは好きだ


そこまでは良かった


別れる際…


「あのっ…私、コルトさんに一目惚れしました!!」


「えっ…あ、ありがとう?」


「それで…そのっ…お付き合いなんか…できませんでしょうか…?」


「あー…えっと…さっき会ったばっかりですし…私は…あんまり良い人では無いです…」


「恋人いらっしゃるのですか?」


「いや、そういうのは居ないですけど…」


「じゃあ…お付き合いして私の事知って貰えませんか!?」


「申し訳ないですが…」


「ダメ…ですか…?」


そう言うと泣き出す女性

焦るコルト

周りの視線が痛い


「ごめん…泣かないでください…!」


「ぐすっ…じゃあ…一晩の思い出にしていいですか…?諦められるように…」


「…っと…、それは…?」


「コルトさんの事諦めますから、今夜だけ抱いてください!!」


そう言うとまた泣き出す

急いでなだめてあたふたするコルト


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しかし、会うのは3度目である

諦めきれないとその都度泣かれ身体を重ねてしまう


コルトは女性の涙が苦手だ

どう扱っていいかわからない

下手に断るともっと泣かれてしまうし

いっその事本人が満足してくれた方がいいと



「…ん…っ…コルト…さんっ…」


「……」


「…キス…して…っ…」



そう言われると迷わず唇を重ねる


(あぁ…本当に自分は最低だ…何やってるんだ…)



そう思いながらも、素肌が重なる感覚は心地いいと感じる

そう感じてしまう自分にも嫌気がさす



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「ただいま〜…っと…誰も居ねぇんだった…」



そう小声で言いながら自宅に朝帰りする


すると奥からパタパタと小さな足音が聴こえてくる



「コルト、おかえり。夜はアパートの方にでも居たの??」


ムスッとした顔でそう白雪が言う


「し、白雪!?しばらく忙しいから戻れないんじゃ…!?」


「何よ!帰ってきちゃ悪いの!?」


「そう言う訳じゃ…」


「で?夜は何してたの?朝に帰ってくるなんて…」


「あ、えっと…酒場で飲んでて…酔ったから昨日はアパートの方が近かったからそっちに…」


「ふーん?」


コルトの悪い癖だ

嘘つく時は困ったように微笑む

その癖を白雪は知っている

女の匂いもする


「服に何か毛が付いているけど?」


「あー、これは…昨日猫見つけたんだ!撫でてたからそれで付いたのかな?」


あーこれはダメだ

ミコッテ族の女だ

と確信した白雪

胸が締め付けられるように痛み、涙も浮かんできた

悟られないようにキッとコルトを睨みつけ


「もう!!!コルトのバカ!!!しらない!!!」


「ちょ…白雪!?どこに行くんだ!?」


勢いよく家を飛び出す白雪


(…白雪……嘘がバレたのか…?どうして白雪は俺の嘘がわかるんだ?)


落ち込むコルト

自分が悪いのはわかってはいる

他人に嘘が付けない、突き放せない優しい性格が裏目に出ている



コルトは自分の頭をガシガシと掻くと、家にある強い酒を取り出し飲み始めた



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しばらくしてお腹を空かして戻ってきた白雪


悔しい事にコルトの作る料理以外、どこで食べる料理も美味しく感じないのだ



「…コルト…ただいま…」


ムスッとし、泣き腫らした顔で呟く

しかし、返事は無い


地下に行ってみると酔い潰れ、伏せているコルトがいた


「!コルト!?大丈夫!?」


「…ん…おかえり…」


顔が火照り、少し目が潤んでいる

身体を起こしてもフラフラしている


「こんなに飲んで…!ダメでしょ!」


「…白雪…本当にごめん…悪かった…俺を置いて行かないで…」


「え…」


コルトは今にも泣きそうな顔でそう言うと

白雪を優しく抱き締め、頬に角を擦る


「い、痛い痛い!コルト…っ!痛いってば!」


「あ…ごめん…寂しかったんだ…」


そう言うとまた伏せて気を失ってしまった


突然の事で心臓が裂けそうな程鼓動が速い

顔が焼けるように熱い


「ばかぁ…っ!!」


さっきまでのコルトに対する感情がどこかに行ってしまった

あんな見たことも無い表情見せられたら怒る気を失せてしまった

不思議と空腹感も無くなる


「…もうっ!こんなに散らかして!…コルトらしくない…。ッ!?」


そう言いながら片付けようとすると、白雪に何かが巻き付いてきた


コルトの長い尻尾だ

脱出しようにもしっかりと巻き付いて離れない


諦めてその場に座り、コルトに寄り掛かる


火照った身体にコルトのひんやりとした尻尾が気持ちいい


(本人も反省してるみたいだし…もういいか…でもよくない…)


そう思いながらコルトが起きるまでじっとする白雪






次の日のコルトは起き上がれない程頭が痛く、一日中白雪に看病される事になる



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数日後


看病のお礼と迷惑をかけた(?)詫びに白雪の好きな物を買いにリムサ・ロミンサに来ている2人


白雪が御手洗に行くと言い、買い物した荷物を持って待っているコルトの目の前に 見覚えのあるミコッテ族の女性が男性と楽しいく会話しながら歩いている


見る限りでは良い仲のようだ


「君…」


そうコルトが声をかけてみると、ミコッテ族の女性は驚いた表情をして焦りだした


「あっ…こ、コルトさんっ!あのっ、これは…!えっと!」


「良い人ができて良かったですね、お幸せに!」


そう言うと女性は落胆し、男性に何やら問い詰められている


ようやく関係が切れたとホッとした




「コルト!お待たせ!…何かあった?」


「別に?ほら、そろそろ帰ろう!今夜は白雪の好きな物たくさん作るから」


「いつも好きな物作ってくれるじゃん…」


そう言いながらパタパタと機嫌がいい足取りで帰る


そんな白雪を後ろから眺める


恋人は作る気は無い

恋人になってしまって関係が変わってしまうのが怖いから

愛する人ができたら…自分がどうなってしまうのか

独占欲が出てしまいそうで嫌だから


楽しい今のままで、何も変わらずに居たい


ただそれだけ



今にも消えて無くなりそうな白くて小さな白雪


もし俺が白雪に気持ちを持ってしまったら

この薄汚れた手で白雪を壊してしまいそうで


そんな事は絶対にしたくない



これ以上もこれ以下も、もう何もいらない


自分から溢れ出しそうな感情をぐっと奥に仕舞い込み、閉じ込める



何も気付かない何も求めない


そう言い聞かせて




今夜も白雪が美味しそうに俺の作った料理を頬張って食べている

それだけで幸せだ





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緩慢 Kolto @kolto441

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