第7章ー3
「
蓮實淳は口をあけたまま固まってしまった。カンナは奥で肩をすくめてる。
「見せるのはいいけど、」
「なんか
「勘違い? なにが?」
ふむふむと読み、千春は口許をゆるめた。
「ふうん。まったくもって本物ね。こんなの初めて見たわ」
「っていうか、楽しんでるんじゃないよな?」
「もちろん楽しんでるわよ。新聞でつくった脅迫状なんて二時間ドラマみたいじゃない。あなた、好きだったでしょ。仕事がないとき、よく見てたじゃない。
別に好きで見てたんじゃない。
「それ知ってる。女医さんなんだけど、なぜか
手渡された《オッジ》の袋を
「あれってけっこう楽しめるわよね。ほら、お
「わかるわ、カンナちゃん。事件が
っていうか、お前たちの方が
「あと、よくあるパターンは『二十年前の
「あるある。えっ、この二人、実は兄弟だったの? みたいなやつでしょ。生き別れとかになってるのよね。
そこまで話すと二人は顔を向けてきた。千春は
「ねえ、いつまでそんなの見てるのよ。じっと見てたらわかることでもあるの?」
「ん、そうじゃないけどさ」
「でも、気になっちゃうんでしょ? だけど、考えたってわからないものはしょうがないじゃない」
「まあ、そうだけどさ。うーん、いったい誰がこんなもん
ハーブティを
「はい。お茶も
千春は細めた目を向けた。なに? 今の言い方は。ちょっと、――ううん、かなり当てつけがましく聞こえたんだけど。
「そうよ。きっとカンナちゃんだって、こういうときにいいハーブティを淹れてくれたんでしょうから、食べちゃいましょう」
そう言いあって、二人はふたたび顔を向けた。彼はまだ脅迫状を見つめてる。ほんと頭痛くなってくるわ――これは二人ともに得た感想だ。
「そうそう、あのドラマって、決め
つとめて明るい声を出すことで千春は悪くなった空気を薄めようとした。まあ、二時間ドラマの話でそうなるかわからないものの、行きがかり上そうなってしまったのだ。
「ああ、あったわね。あれ? どういうんだっけ」
カンナにも
「ほら、十時十五分くらいに言うやつよ。――ええと、なんだっけ? 『待って』とかそういう感じなんだけど」
「うん、そうだったわね。あのドラマって子供のときにやってたから、男子がよく
紙を放ると蓮實淳はうなずいてみせた。
「『ちょっと待って!』ってやつだろ? 『ちょっと待って! 今、この辺りまで出てるのよ!』ってつづくんだ。これはウンコしたくなったときの古典的なギャグだ。
二人は首を振っている。なんだよ、こたえたらこうなるってのはどういうわけだ? そう思いながら、彼はハーブティを飲んだ。
ただ、彼も思い悩んでるばかりではなかった。猫たちに頼んで
「泉川
「ありがとう。それで、なにかわかったりしたのか?」
蓮實淳はソファに横たわってる。キティは
「いや、とくになにもないみたいだね。オチョはなにか言ってたけど、あんたのとは関係無いようだし」
「ふむ、そうか。で、ここに近づいた奴もわからないか?」
「まだわからないね。ここら辺を歩いてた子はいるけど、
起き直り、彼は
「そういや、あれはどうなったんだ?」
「あれ? あれってなんだい」
「ほら、だいぶ前だけど、ウサギが殺されたって言ってたろ」
「ああ――」
ヒゲはぴんと張った。目も大きくひらいてる。
「気にしてくれてたんかい?」
「まあね。こうやって頼むことがあると気にもなる」
「あれは一回こっきりで終わったみたいだね。ああいうのはつづくもんだけど、あれっきりのようだよ。ま、あの辺には近づくなって言ってあるから、どうなってるかわからないけどね」
「そうか。とりあえずは一安心ってとこかな。でも、くれぐれも気をつけてくれよ。みんなにもそう言っといてくれ。それに、顔を出すようにもってな。美味いメシを用意してるからって」
「わかった。言っとくよ」
キティは目を細めた。
「ん? どうした?」
「いや、なんかわかったら、また来るよ。それまではくよくよ考えずにいるんだね。わかったかい?」
「ああ、わかった」
顔を見上げ、キティは尻尾を大きく回すようにした。大丈夫、アタシがなんとかしてやるからね――そう思ったのだ。
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