第6章-2
うんざりしつつもカンナは可能な限りの笑顔を振りまいていた。ただ、気を抜くとぼうっとした顔の「間」になにかがいるように思えてしまう。――だって、言ってたじゃない。悪霊は人の「間」に取り
彼の方は
敷石が
「すみません。すこしお話があるんですが」
戸を開けると
「上がりますよ。いいですか?」
やはり返事はなかった。薄暗い
「入りますよ」
「ご主人のお
こぢんまりした部屋は
「それに、あなたの教え子のでもあるんですかね」
嘉江はすっと身体を起こした。顔は
「あなたはいったい何者なんです! どういう権利があって私どもの家に上がり込んでるんです!」
その声は激しいものの大きくなかった。蓮實淳は目を細め、ひとつひとつ区切るように言った。
「私にはなんの権利もありませんよ。しかし、これはすべきことだ。そうしないともっと悪いことが起こる。それはあなたも気づいてるはずだ」
「なにを
「ほんとうにそう思いますか? あなたはそう思ってないはずだ。いや、それを望んですらいない」
「はあ?」
「それこそなにが言いたいかわかりません。あなたはどうしたいんです? お金が欲しいんですか? だったら幾らでも払います。今すぐこの家から出てって下さい」
人差し指を立て、彼は唇を歪めた。目許には笑みが浮かんでる。
「お金など要りません――なんてことは言いません。ただ、この家から悪霊を
「悪霊なんて、」
嘉江は顔をそむけた。視線の先には仏壇がある。――いや、のっぺらぼうの位牌を見たのかもしれなかった。
「馬鹿げてます。どこにそんなのがいるというんです」
「いますよ。ほら、ここに」
蓮實淳は指先を向けた。まだ怒らせる必要があったのだ。
「私が――、私が悪霊だって言うおつもりですか!」
「今のところはそうなりますね。さっきも言いましたが、あなたにとってその言葉は
「どうしてそんな話を! 関係無いでしょう! それが本当であっても関係無いことだわ! どうしてそんなのを聴かされなきゃならないんですか!」
蓮實淳はふたたび指先を向けた。目は細められている。
「必要だからです。悪霊の正体を
「その生徒とあなたはよく屋上で話していた。自殺したときもそうだったかわからないが、それも見えました。そして、自殺したあとに残されていたのが『悪霊』と書かれた紙だった。これの意味も私にはわからない。しかし、そのことがあって程なく、あなたは教員を
払うように手を
「ご主人はそのときの
しばらくはすすり泣く声しか聞こえなかった。それは彼にまた違うことを思い出させた。ずっと前に同年代の女性が同じようにしてるのを何度も見ていたのだ。
「ところで、ゆかりさんが悪霊の
嘉江は顔をあげた。ぼうっとした表情をしてる。
「どうです? あなたは知っていたはずと思いますが」
「ええ、
「でしょうね。ゆかりさんは言ってないと仰ってましたが、
「それが?」
「それがこの問題の
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