第6章-3
彼は鼻に指をあてた。外では鳩が鳴いている。ホウ、ホウとひそやかな声だ。
「ある日突然庭石に生ゴミが置かれるようになった。誰かの
表情からは
「あなたはしばらく様子を見ることにした。どうしてそんなことをはじめたか心当たりもあったんでしょう。もしかしたら教員時代に似たような経験があったのかもしれませんね。ほら、よく子供がするでしょう? かまって欲しくて馬鹿なことをするってのはあることだと思いますよ」
「ほんとに。いかにも子供のしそうなことですよね」
「そう思います。ただ、それはエスカレートしていった。そのうち占い師や霊能力者がやって来るようにもなった。そして、あなたは悪霊という言葉を久しぶりに聴いた。そこで、どうしたか? 自分も同じようにしたんです」
蓮實淳は立ちあがり、
「私が? なんで私がそんなことをしなきゃならないんです」
「これは想像です。なんでもお見通しといっても、人の考えまでは見えないのでね。ただ、こう思うんですよ。あなたはやめさせたかったけど、その方法がわからなかった。それに、
彼は首を曲げた。嘉江はうつむいている。
「ゆかりさんは追い
顔をあげると嘉江は口の
「ま、あれが起こってから慎太郎が
「なるほど。そういう意味では良い部分もあったわけですね。あなたは腹を立てつつもその協力をしてあげたわけだ」
「ちょっと待って下さい。私がしたことになってるようですが、生ゴミはどこから来たんです? 料理はすべてゆかりがしています。私はどこからそれを手に入れたと?」
ふたたびしゃがみ込み、彼は髪を
「これも想像ですが、あなたの元へは
嘉江は薄く笑みを浮かべた。はじめて見せる
「ほんとになんでもお見通しなんですね」
「いや、そうは言えないでしょう。今回のことは勉強になりました。あなたとゆかりさんからは見えないことが多かったんですよ。きっと、ほんとうに
「でも、あの子――」
そう言って、嘉江は白いだけの
「自殺した生徒のこともお当てになりましたよ。あれはよくわからないことでした。古川
蓮實淳は横顔を見つめてる。それに気づいたのか、嘉江はゆっくり首を曲げた。そのまま二人は互いを見合った。
「あなたはどう思いますか? なぜ彼女が自殺したのか、それについてなにか見えましたか?」
「いえ、」
目を細め、彼は
「私に見えるのは経験だけなんですよ。それに、あなたは見せたくないことを多く
「潰れて? それに意味はあるんですか?」
「いや、それもわからないんですよ」
「そう。そうでしたか」
立ちあがると蓮實淳は見下ろすようにした。嘉江は指を揉んでいる。
「つづきを話しましょう。あなたは生ゴミを置くようになった。それは
「そうかもしれません。でも、どうしたらいいかわからなかったんです。
「そうでしたか。ところで、奥さん、これは非常に重要なことなんですが、あなたの
しばらく仏壇を見つめ、嘉江は
「そう、――まあ、そうなんでしょう。その言葉は私にとって、その、なんでしょう、ひどく意味のあるものなんです。若い頃の私に強く影響をあたえたとでも
「しかし、ゆかりさんが言ったのは別の人物を指していたんですよ」
「え?」
「ゆかりさんが言った悪霊は自分自身のことなんです。奇妙な偶然なのでしょうが、ゆかりさんもあなたと似たような経験をしてるんですよ。学生時代に『悪霊』と書かれた紙を
「はあ?」
「細かいことは言いませんが、その頃のゆかりさんは
嘉江の瞳は定まった。彼も見返している。
「しかし、もう終わりにしたいと思ってるんでしょう。ご家族の前で自分こそが悪霊であると
「救う? 私をですか?」
「そうです。自分以外の者が生ゴミを置きはじめたとき、ゆかりさんにも誰がしてるかわかったはずです。ま、当たり前のことですがね。そして、これも想像でしかないが、あなたが『悪霊』という言葉に
「それで、私を救うというのは?」
髪を
「ああ、すみません。ちょっと
嘉江は指先を
「そうですね。ほんと、先生の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます