第4章-3
夕方になると店は混みはじめる。その時間は主に大学生が来て、お茶を飲みながらしゃべったりしてる。占うのは一人だけの場合が多い。
「この前言ってた彼からラインがきたね。――うん、内容も悪くなかったようだ。君は服を買いに行った。デートの予感ってとこかな? でも、そう考えるのはいいと思うよ。望みさえしてれば良い方向に進むこともあるだろう」
「彼って、ほんとに彼女いないと思います?」
「悪いけどそれはわからない。本人を見ないとわからないんだ。ただ、君はこの前よりずっと良くなった。表情も明るくなったしね。いい方向に進んでる
この場合、蓮實淳は相談者が服を(それと勝負下着らしきものも)買いに行ったこと、スマホを日に何度もチェックし、送られてきた内容に喜んだことくらいしか見ていない。ただ、表情からは思い悩みより希望が見てとれた。だから、それを伝えたに過ぎない。
「うん、なんとなくだけど良い方に進んでる気がしてきた。先生、ありがとう!」
薄く
前振りのつもりか? などと思いながら蓮實淳は
「千春ちゃんから借りたの。どう?」
「ん? ――ああ、」
目の前に立ち、カンナは顔をあげた。彼は首を引いている。
「サイズ、同じなんだな。ま、胸の分だけ足りてないけど」
「なによそれ」
カンナは
「行きましょ。これなら仕事帰りに見えるでしょ」
「確かにな」
二人は
「ここで待とう。――そうだな、会社帰りに飲みに行く。俺たちはここで仲間が来るのを待ってる。そういう感じにしてるんだ」
「オッケー」
カンナはコートの前を押さえてる。風が吹くと頬が痛くなるくらい寒かった。車はひっきりなしに通る。二人はたまに会社の入り口へ目を向けた。出てくる者はいるけど、目標人物はあらわれない。
「あれ? あそこにいるのってペロ吉じゃない?」
「ん?」
蓮實淳はいま気づいたとばかりに首を曲げた。
「ああ、そうかもな」
「なにしてんのかしら、あの子」
「さあね。なにか待ってるんじゃないか?」
「待つ? 猫がなにを待つっていうの?」
蓮實淳はコートを引っ張った。目指す人物があらわれたのだ。大和田義雄はそっと左右を見て、歩きだした。いかにも
通り過ぎる人は楽しそうにしゃべってる。二人はそれを
「ね、さっきはあんな感じだったけど、ちゃんと訊いていい?」
「さっきって、いつのことだよ」
「ほら、私がこれ着て降りてきたとき」
自転車が通りかかった。大和田義雄は
「で、それがどうした?」
「私って、こういう服も似合ってる?」
カンナはじっと見つめてきた。目標人物との間には四、五人ほどいる。
「あのな、自分がしてること考えろよ。こういうときに訊くようなことか?」
「でも、
「うーん、似合ってはいるけど、」
「けど、なに?」
「ん、普段のアグレッシブなのに
そう言いつつも彼は目を細めた。もう少し行くと信号にぶつかる。このまま進んでも問題ないか? そう考えてる横でカンナはニヤニヤしてる。そういうのが自然に見えたのだろう、立ちどまってる間も顔を向けられることはなかった。
信号が変わった。
ジュンク堂のまわりは人が多い。しかし、大和田義雄は足を早めた。サンシャインの方に行くのか? そう思っていると突然右に折れた。そこには飲食店が
「いいかげん笑うのはよせよ。ほら、こんなに人が減った。目立つことはよすんだ」
通りには人がまばらだった。蓮實淳は
「なに? どうしたの?」
「しっ、声が大きいぞ。――じっとは見るなよ。ほら、あのコートの女だ」
「え? あの人?」
「そうだ。動きがおかしい」
「どこがよ。ま、格好は変だけど、それ以外は普通に見えるわ」
「まわりと比べるんだ。あの動きは周囲にそぐわない」
女は公園の脇を歩き出した。足許はすこしふらついてるようだ。
「うん、そう言われるとそう見えちゃうわ。なんか変な感じ」
「だろ? 通常、人がする
「え? そんなことしていいの?」
彼は
「って、もうやめちゃうの?」
「いや、あの角に入ったら止まる。ほれ、あのホテルに入るつもりなんだ。それを後から見るんだ」
辺りを確認した上で男はホテルに入った。コートの女も何分か遅れでつづく。蓮實淳は深いところから息を
「ねえ、今のってほんとに指輪を探してた人?」
「たぶんな」
「たぶんなの? じゃあ、これからどうするのよ」
「待つんだ。出てきたら今度は女のあとをつける。
「ああ、なるほど。前に書いてもらったのと一緒か見るってことね」
「そういうことだ」
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