第49話 新神外家の休日
翌朝。
激しい音と、痛みにより目を覚ました。
「いっつ…」
背中に激痛が走り、どんなアラームよりも目が覚めた。目を見開くと、すぐ横にはベッドが。どうやら俺はベッドから転げ落ちたらしい。
そう言えば、昨日は端っこの方で寝てたんだっけ。それで、愛依と二人で……。
「愛依…?」
「う、うーん……落ちちゃった…ね?」
何か重みを感じると思えば、俺の身体の上には愛依が倒れていた。ベッドから落ちた際に、俺をクッションのようにして愛依も落ちたのか。
そういや、二人して抱き合いながら寝てたもんな。そりゃ二人まとめて落ちるわけだ。
てか、いくら付き合い始めたばかりのバカップルでも、抱き合いながら寝てたって、結構痛いことしてたんだな俺ら。冷静になると恥ずかしい。
「ごめんね。痛くない?」
「あー大丈夫。背中は痛いけど、愛依の方は別に。このでかい胸がクッションになっ…」
寝ボケているとは言え、俺は今、凄い失言をしたのではなかろうか。否。した。
「ふーん。あ、そう」
「あ、あの……愛依さん…?」
「ま、今回は許してあげる。落ちたのも事故なわけだし、今の発言も寝ボケてた、で許しましょう」
「ありがたやー。てか、そろそろどいてくれません?」
「あ、ごめん」
そう言うと、愛依はゆっくりと身体を起こし、俺の腰辺りに座り、両腕を上げながらふわぁ~っと背伸び。
すると、そこで俺の部屋の扉が開き、慌てた様子で入ってくる女子二人。
「大丈夫!?」
「なんか凄い物音がしたけ……ど……?」
玲夢と李湖が物音を聞き付けてやって来たらしい。物音とは、俺達がベッドから落ちた音だろうか。多分、この二人もその音で起きたんだろう。
そんな冷静な分析をしてる間に、同時進行でこのまずい状況の分析も済ませる。
玲夢と李湖視点でこの状況を見るに、物音は俺達がベッドから落ちた音。そしてその要因はと言うと、今俺の上に座っている愛依……もとい、あの二人から見れば、俺を襲おうとしている愛依。
そんな風に捉えられないこともなかった。
「あ、愛依さんって……結構肉食……」
「ねぇねぇ玲夢姉。二人は何をしてたの?」
「李湖は部屋に戻ってて。私たちは邪魔よ。それでは、ごゆっくり~。……愛依さんって肉食なんだ……意外だった……。ちょっと見る目変わっちゃった…」
「違~~~う!!!待って玲夢ちゃーん!」
閉じられた扉越しに聞こえる玲夢の声に、誤解を必死に解こうとする愛依であった。
いや、ホント。俺が下敷きにされててよかった。俺が上なら今頃玲夢に殺されてただろう。
愛依が必死に誤解を解こうと奔走してから数分後、ゆったりと部屋の中で過ごしていた俺の元へ再び愛依が戻ってきた。
「どうだった?」
「何とか誤解は解けたよ……。夕くんも部屋でのんびりしてないで助けてよー。下手したら私、家に上がり込んできて即彼氏を襲う、そんな肉食彼女になるとこだったんだけど?」
「大丈夫だよ。あの二人も本気にはしてなかっただろうし。ちょっと愛依をからかっただけだよ」
「本当に?見捨てたんじゃなくて?」
「ハァ…。俺がお前を、見捨てるわけないだろ?(イケボ風)」
「え、気持ち悪い」
肌をさすりながら一歩引き、冷たい言葉を投げてくる。
今のはかなり心に響きました。気持ち悪くてすいませんでした。
「さ、さてと…。それじゃ、そろそろ皆のとこ行くか」
「あ、そうだった。お母さんがご飯もうすぐ出来るって。伝言頼まれてたの忘れてた」
お義母さん。
その言葉につい鼓動が早くなる。
いや、まだ結婚はしてないんだがな?てか、愛依もそこまで意識してなかっただろうけど。文章だと《お母さん》って言ってるしね?
そんなドキマギとした思春期男子の気持ちなど考えるそぶりも見せず、愛依は部屋を出て行ったので俺もその後に続く。
リビングに出ると、妹達二人が座っていた。
「おはよ」
「お兄ちゃんおはよう!」
「相変わらず朝から元気だな李湖。玲夢は?」
「……はよ」
今朝はドタバタしてたってのに切り替えが早いな。まぁ、素っ気ない挨拶もいつも通りだしいいけど。
すると、キッチンの方から母さんも出てきた。
「夕も来たわね。ありがと愛依ちゃん」
「いえ、大したことは…」
「それで?初夜はどうだった?」
「…………母さん。朝だぞ?爽やかな朝を台無しにしないでくれ。そして何もない。あったとしても妹の前で言うか」
「あらあら、またまたご冗談を~。愛依ちゃんは?」
「え、え~っと……何も……」
「………え…?」
母さんは衝撃なものを目にしたように、少し間を空けてからクエスチョンマークを浮かべた。
いや、そこまで不思議なことなのか…。
「はぁ。通りで静かだったわけだ」
「ガッカリするな。聞き耳立てるな。さっさと寝なさい。何もなくて悪かったな」
「ねぇ咲希姉。何のこと?」
「さぁ、何だろねー。とりあえず李湖ちゃんは耳を塞いでよっか」
李湖の隣に座る咲希はそっと李湖の耳を塞ぐ。
「…………」
「…………」
「ん?どしたの二人共。そんな見えてはいけないものを見てしまったみたいな顔して」
当たり前のように椅子に腰掛けている女子。ももい、外神咲希。その人であった。
「な、何で咲希が!?」
「おはよ。愛依ちゃん」
「またこいつは…。こいつ、神出鬼没なんだよ。一匹出たら何匹も出るんだ」
「咲希って神外家だとGみたいな扱いなの?」
「酷くない!?それは酷いよゆーくん!」
「玲夢。これが修羅場よ。覚えておきなさい」
「お母さん……。それ多分…子どもに教えることじゃない……」
終始騒がしい神外家の朝であった。
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