第47話 問題発生

愛依の発言に固まる俺。

そんな俺を見るが否や、続けて言葉を連ねた。


「実はね。さっきお母さんから連絡が来て、今夜は帰れそうにないらしいの」

「………え?あ、ああ、そうなのか」


脳の思考が再開した。

そして、しばし間を空いてから事態の把握を行った。


「え、てことは愛依も帰れないの?」

「うん。そうみたい」

「そうみたい、て」


そんなに大事な用事なのだろうか。娘を家に帰らせずにそのまま?そんなことするような親なのか?いや、あまり人の家の事情に深入りしない方がいいか。

……いや、俺は彼氏な訳で、全く無関係ということでもないしな……。


「あ、勘違いしないでね?私が、今は友達の家に居る、て連絡してたの。それに、ウチのお母さん、放任主義だから」

「そう、なんだ。それでも、よっぽどな急用なんだな」

「あ……うん。ちょっと、訳ありで…」


すると、愛依の表情が曇った。

愛依自身、今日は用事があることを知っていたのだろうか。何の用事か、知っているような様子だったが、流石にそこまでは踏み込めず、とにかく愛依をどうするかを考えることにしよう。

まぁ、ここまで来てる時点でどうするも何も決まっているのだが。


「まぁ、仕方ないしな。ウチで泊まってくか」

「いいの?迷惑なら、親戚な家とかに行こうかと思ってたけど…」

「親戚って言ってももう暗くなるし、それこそ迷惑だろ。ウチなら母さんと妹達しか居ないし、その3人もむしろ大歓迎だろうし」

「夕くんは?」

「え?いや…俺も特には困ることもないし。むしろ…」

「むしろ?」

「………何でもない」


むしろ嬉しいなんて言えない。

彼女が自分の家で寝泊まりするんだ。いつもとは違う一面だって見れるかもしれない。拒否する理由なんてあるわけがなかった。


話を終えた後、リビングへ戻り、キッチンにいる母さんも呼んで、愛依を泊めることを話した。


結果から言うと、大賛成。

愛依のお母さんにも、友達の家に居るとの連絡もしているし、何よりお母さん自身が放っておいてるわけだし、特に問題もないだろう。


そんな歓迎ムードの中、心なしかいつもよりも豪華な夕飯が出来ていた。


「魚の煮付け、チキン南蛮にサラダ、で……これは何?」

刀削麺とうしょうめん

「刀削麺?」


やはりこの人は凄い。何かと斜め上を行く。


「あら、知らない?」

「私知ってる。片手に生地、片手に包丁を持って湯の沸いた鍋の前に立ち、生地を細長く鍋の中に削ぎ落としてゆでる奴でしょ?」

「何だよその妙に詳しい知識は。李湖のやつどこでそんなこと覚えるんだよ」

「ゲーム」

「ゲーム…?なんなんだよそのゲーム。なんかすげぇ気になってきたじゃねぇか…」

「でも、美味しそう」

「喋ってないでバカ兄も早く座りなよ。冷めちゃうよ」

「あ、ああ…」


母さんも席に座り、皆で食卓を囲む。

いつもと違って、隣には愛依が座っている。


家で彼女の隣に座り同じ料理を食べる。なんだか同棲でもしている気分になる……。

いやいや、隣に座って一緒に飯を食うことくらい、学校でも何度もあっただろうに。


夕食後、愛依はせめて洗い物くらいは手伝うと言っていたものの、母さんは「気を使わなくていいからくつろいでて」と一言。

愛依の気持ちも分からんじゃないが、母さんにそう言われてしまっては従うしかなく、愛依は俺達の居るリビングへと帰ってきた。


「愛依。今日、泊まるって言ってたけど、急にこっち来たからいろいろ困ることもあるだろ?いろいろ、物も無いだろうし」

「あ……うん。そうなんだよね…」

「今話してたんだけど、その辺は玲夢達が貸してくれるらしいから。服も玲夢のやつなら着れるかもってさ。今、李湖と二人で大きめな服探しに行ってる」

「そっか。なんかごめんね?急に押し掛けて」

「仕方ないだろ。皆喜んで迎えてるんだし、楽にしてていいぞ。とりあえず、いろいろ困ることはあるかもだけど、その辺はあの二人に言ってくれ。その辺のことは男の俺には解決できそうもない」

「うん。そうね。ありがと」


二人で話していると、自室から出てきた玲夢と李湖が帰ってきた。

何か難しい顔をしているし、早速問題発生か?


「どうかしたのか?」

「えっと、服とか、その他いろいろは大丈夫そうなんですけど、寝る所はどうするのかな、と」

「あ……」


玲夢達は、二人で一部屋を使っていて、いつもは二段ベッドで二人は寝ている。

流石に1つのベッドに二人はきついし、布団を敷くにしてもテーブルや物があって狭い。とてもお客さんを寝かせるには向かない。


母さんの部屋という選択肢も無いことはないが、愛依とて流石に母さんと寝るのは気を使ってよく眠れないだろう。

空いてる部屋なんて特にないし、リビングで寝かせるのも忍びない。


「じゃあ、私がリビングで寝るから、私のベッド使っていいよ?」

「それだと、李湖ちゃんが迷惑でしょ?それはダメ。玲夢ちゃんも部屋で寝てね?私がリビングを使わせてもらえればいいから」


まぁ、そう言うよな。逆の立場なら俺でもそうする。が、ちょっと気が引けるな。

ラブコメなんかじゃ、結局主人公のベッドで二人で寝る……いや、ヒロインをベッドで寝かせて主人公が床で寝るパターンなんだがな。


リアルじゃ、そんなこと起こるわけがない。仮に提案でもしたら警戒される。またはキモがられる。


「そんなの簡単じゃない。夕の部屋で添い寝よ添い寝」


愚かな提案を切り出したのは他でもない、母さんだった。


「そっ…!添い寝!?」

「私は全然オーケーよ~」

「ったく、母さんは。人が真剣に考えてるんだから、もっといろいろ考えてくれ」

「真面目よ~?1つ、愛依ちゃんがベッドで寝れる!2つ、彼氏と一緒に寝れる!3つ、なにより愛依ちゃんが嬉しい!」

「う…!嬉しくないです!!」


嬉しくないのね……ははは。


「………でも、夕くんがいいなら…」

「は…?」

「ゆ、夕くんなら気を使わなくていいし!皆にも迷惑かけないし!だ、だから……一緒に…寝よ?……ダメ?」


恥じらいながら首をかしげて上目遣いでこちらを見つめる彼女。何このクソ可愛い生き物。


「全然大丈夫です!」

「キモ…」

「お兄ちゃん。凄い気合い入ってる…」

「ふふっ。避妊はしっかりね~」


母さんの余計な一言により、この場の空気は静まり返ったのだった。

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