第46話 長い1日
海にて、いろんなハプニングやらトラブルが発生しつつも、何やかんやで海水浴を楽しむも、時間は無情にも進んでいき、いつの間にか日が落ち始める頃となっていた。
「時間も時間だし、そろそろ帰りましょうか」
「そうね。玲夢も起きたことだし」
「んー。起きてから何故か頬が痛い…」
「寝てる間に李湖ちゃんが頬を引っ張って遊んでたからね」
「李湖~?」
「わ、私知らない!愛依姉がしてた!」
「愛依さんも寝てたんでしょ?」
「さらっと私に罪被せてきたねー。李湖ちゃ~ん?」
相手が李湖だろうとお構い無しに、俺でもビビる程の冷ややかな笑みを向ける。
その笑みを見るなり、李湖は深々と頭を下げて(もはや土下座で)謝っていた。
「お、お兄…ちゃん…。愛依姉…怖い…」
「安心しろ。俺も怖い」
「ダメ兄、絶対尻に敷かれてるよね…」
「ご明察。いつも学校でもこんな感じだよ。まあ、愛依ちゃんなりの愛情表現だから気にしないで良いよ」
「そう…なの…?」
帰り支度をしながら何やら盛り上がる女性陣。妹達二人も、この一日ですっかり愛依と仲良くなったようだ。
俺としてもそれは嬉しい事だ。既に姉同然となっている咲希とはまた違って、頼りになる先輩となるだろう。
「こっちのテントの片付けは済ませたぜ」
「サンキュー文弥。お前にもいろいろ気遣わせたみたいだけど、なんか悪かったな」
「気にすんな。偶然の出会いもあって普通に楽しめたしよ。遠目からお前達の騒ぎを眺めてるのも面白かったし」
「さいですか」
「ほい。テントは持つからお前はその他諸々を運んでくれ」
「あいよ」
女性陣が更衣室へ向かう中、男手の俺達二人は荷物を車へ運び、それを終わらせてから俺達も更衣室で着替えた。
男女共に着替えを終えると、行きと同じように2つの車で分かれることに。メンバーも同じ。
「それじゃウチの子をよろしく~。間違っても家に連れて帰らないでね?」
「はいはい。分かってる分かってる」
「咲希姉。今日お泊まりしてい?」
「李湖、自分からお邪魔しに行かないの」
「あはは。流石に今日は家に帰ろうか、李湖ちゃん」
「うぅ~」
ぐずる妹をいなす姉。
そんな光景があっちでは広がっていた。
そしてこちらはと言うと。
「で、お二人さんはどうだったわけ?」
「うん。楽しかったよ」
「いやそうじゃなくてだな」
「じゃあ何が?あーデート的なこと?アハハ!マジ皆無~!笑えるよね~!親友を緩衝材にするし、妹達と遊んでいろいろあって気絶するし、起きたら幼馴染みとイチャコラしてるし~?……冷静になると普通に別れ話が出るくらいなんだけどね……」
「……す、すいません……」
車内は何とも言えない空気だった。
「フフッ」
「息子の不甲斐なさがそんなに笑えますかそうですか…」
「あ~、いやいや。そうじゃなくてね。別れ話が出るくらい、なんて言ってる愛依ちゃんが別れ話を切り出してないのが何よりの証拠じゃない?」
「え?」
「…………」
恐る恐るバックミラーを見て後部座席を確認すると、母さんの言葉に反応したかのように複雑そうな顔……いや照れているのか窓から外の景色を見ていた。
「優しい彼女で良かったな?普通フラれるぞ。幼馴染みの女の子とイチャコラなんてよ。浮気だろ浮気」
「は…ははは……」
何か言い返せる空気じゃなく、とりあえず笑っておくと、彼女がチラッとバックミラーを見たので、視線が合ってしまった。
「……!」
「………咲希だから、許しただけ…。他の人ならダメだから…」
「あ、ああ…」
そう。向こうからやられた事とは言え、あれは咲希だから許されたことだ。咲希は幼馴染みで妹も同然。このことを知っている愛依だからこそだ。
彼女の優しさに救われたが、この優しさに甘えてちゃいけない。この埋め合わせはいつか必ずしなければ。
微妙な空気が流れる車は各々の家へと向かっていった。
そして神外家。
「さ、愛依ちゃん上がって上がって~」
「はい、お邪魔します」
「なぜこうなった……?」
というのも、愛依を家まで送りに行ったものの、家に鍵がかかっていたらしい。親に連絡して確認すると、今は用事で出かけているという。しばらく戻れないとのことで、とりあえずはウチで親の帰りを待つことになったのだ。
しかし、愛依が出かけることは知っていたはず……。鍵も渡さずに出かけるなんて、急用だろうか。
「適当にくつろいでていいからね」
「はい。おかまいなく」
「ついに愛依姉が家に来た…。お兄ちゃんが女を家に連れて来た…!」
「こら李湖。変な言い方しないの。愛依さんも困るでしょ。すいません。バカ兄に彼女なんて夢のまた夢みたいな話で、李湖もいまだに信じられないみたいで」
「おい、そこ。聞こえてるからな?」
「あははっ。改めてよろしくね。李湖ちゃん、玲夢ちゃん」
「うん!」
「はい」
愛依の家のことは気になるが、まぁいずれはこうしてウチの家族とも会うことになってただろうし、丁度良いのかな。
「もし良かったら、夕飯も一緒にどう?」
「そうですね。なら、お言葉に甘えて」
「やった!愛依姉と一緒にご飯だ!」
「海でも一緒に食べただろ…。初めてじゃないだろうに」
「そんなツッコミいらない」
「細かいなーお兄ちゃんは」
「そんなだからモテないのよ」
「矛盾してね…?」
「はいはい。痴話喧嘩も兄妹喧嘩もやめなさい。夕飯の支度するから大人しく待っててね。えーっと……精のつくのは…うなぎ、すっぽん……」
「おい母親。いらんサポートせんでいい」
俺に何を食べさせるつもりだったんだろうか。そのままにしていたら俺はとても元気になっていたことだろう。何かが。
「ねぇ、夕くん」
「ん?」
「えっと……」
「あ……、廊下に出て二つ目の部屋だから」
「え…?」
「アホ兄、察してるつもりが空回ってやんの」
「あー……そうじゃなくて。ちょっと話、いい?」
「え?あ、ああ……話ね」
聞きにくそうな様子で俺に話しかけてきたからお手洗いかと思ったが、どうやら違ったようだ。いや、そもそもその場合は俺には聞かないか。
その後、タイミングを見て俺達二人はダイニングから廊下に場所を移して話を続ける。
「で、話って?」
「うん。今夜のことで」
「…………」
俺の脳は思考を停止した。
今夜。その単語のみが頭に浮かび続けた。
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