第37話 変わりゆく関係 恋

なっ!?何なのこの子!探偵かよ!いちいち人の靴も覚えてるの!?

いやいや落ち着け。冷静になれ。こういうときは落ち着くことが大事。


「それに、こっちは……ゆーくん…?」

「ふぁっ!?」


しまった!つい声が!


『バカッ!』

『ウブッ!』


とっさに愛依が俺の口を手で塞ぐ。


『む、むぐむぐ……。ど、どうすんだ…よ…』

『ちょっと、こっち向かないで…!服…まだ……!』

『は…!?』

『しょうがないでしょ…!水着脱いだ瞬間にこんなことになったんだもん…!今、あまり物音出したくないし、着替えようにも着替えれないでしょ…!』

『じ、じゃあ……お前今……』

『へ、変な想像しないの…!振り向いたら殺すわよ…!なんなら咲希に助け求めるからね…!』

『それだけは勘弁だ…』


まさか愛依がそんな状況だとは。なおさら危機的状況だ。この構図、咲希側から見たら俺が愛依に対して何かをしているように映るのではなかろうか。


「どうしたの?試着しないの?」

「あ…うん…。そうだね。そこ空いてるから行ってくる」


足音が目の前から去っていくのが聞こえた。

どうやら空いている試着室に行ってくれたようだ。

が、きっと外にはお母さんがまだいるだろう。安心はできない。


『とりあえず…今のうちに服だけ着ろ…!』

『分かってる…!こっち向かないでね…!』

『向くか…!』


と言いつつも、男心としてはチラリと鏡を覗き見たい欲にかられる。同級生の美人女子だぞ。そんな欲にかられても当たり前だろう。

それに、このカーテン一枚で完成されたこの密室に、甘い香りが漂っていて、それもまた理性を削ってくるのだ。女の子は甘い香りがするというが、本当だったのか。


『もう…大丈夫よ…』

『ん…ああ…。着替えたか』

『うん。……の、覗いてないわよね…?』

『見てないって…』

『………なら、いい…』


なんとか危機的状況は打破した……というにはまだ早いか。外にお母さんがいるのならば、俺達に出来るのはただひとつ。

二人が店から出ていくのを待つのみ。


「どう?サイズ合う?」

「う~ん……少しきついかも…」

「あら、なら大きくなったのね。成長期だもの。すぐ水着なんて小さくなるわ」

「もうひとつ大きいの取ってきてくれる?」

「はいはい」


………これはこれは。妹の身体がますます成長を遂げたようだ。嬉しいような……聞いちゃまずいような……。


『お兄ちゃん?妹にやましい感情持ってないよね?』

『なっ!そんなもん抱いてないわい…』

「これならどう?」

「ありがと。着てみる」

「………あれ?これも…小さい…?」

「あらあら、私に似てバストは有望かしら。男の子の注目の的ね」

「嫌なこと言わないでよ~」


ふむ。まだ大きいのか。だが、咲希と言えど、まだ高校1年生。まだまだ伸び代はある。まさに将来有望だ。

ん?待てよ。でもこの前……胸は愛依に負ける…とか言ってたよな……。まぁ、確かに、愛依の水着姿はとても直視できない程に魅力的だった。あれに勝てる人はなかなか居ないかもな。


『何か変なこと考えてない?』

『……イエゼンゼン』

『さっき覗いてたら冥土の土産にはなったのにね。残念でした』

『冥土になったら意味ないんですけども』


小さい声で軽く冗談を言い合っていると、咲希サイドで何やら動きがあった。


「うん。これならピッタリ」

「それにする?それとも、もっと攻めてみる?夕ちゃんを魅了するような水着着てみる?」

「え?何でゆーくんを魅了しないといけないのよ。それに、海には愛依ちゃんも居るし、私なんかよりも愛依ちゃんの胸に鼻の下伸ばしてるわよ」


散々な言われようだ。否定しづらいけども。


「夕ちゃんも隅に置けないわよね。いつの間にかあんな可愛い魅了的な女性と付き合ってて」

「あ~……そうだね」


そう言えば、おばさんは俺と愛依の関係を勘違いしたままだったな。


「まぁ、二人は二人のペースがあるし、私からは何も言わないけど、あなたも見守ってあげてね」

「何で私がお願いされてるのよ、もう。水着はこれにする。もう帰るよ」

「はいはい」


やっと二人は帰るようだ。

レジで会計をする声が聞こえた。


「ふぅ、やっと帰るみたい」

「だね。はぁ、疲れた……。私達も水着買ったらもう帰ろ?」

「そうだな。で、結局どれにするつもりだ?」

「露出高めだとからかい甲斐があるし…」

「おい…まさか…」

「1つ目のやつにする。やっぱビキニがいいかなって。……流石にこれは…私がきつい…」

「なら選んでくるなよ…まったく…。じゃあ、そろそろ出ようか」

「…そうね」

「そうね。じゃない」


自然な形で会話に入って来た声。

その声に俺と愛依は固まった。固まらざるを得なかった。


「二人で試着室にこもっちゃって。やらし~」

「さ、咲希!?」

「おま、いつから!?」

「だって二人の靴があるんだもん。なんなら中でこそこそ話してたの少し聞こえたし。で?お二人さんは何してるの?こんな密室で」

「待て!誤解だぞ。愛依が試着をしてるときにお前がいるのを見つけて、それでとっさに…」

「で、中でよからぬことをしてたわけだ」

「「してない!!」」


その後も説得を続け、なんとか誤解を解くことには成功したものの、咲希が俺達を見る目が妙に生暖かかった。

気を利かせてか、俺達のことをおばさんには話さないでいたらしく、二人は大人しく帰っていった。


「どっと疲れた…。水着決めてもう帰ろうぜ」

「そうね…。じゃあ、これにしようかな」

「1つ目のやつか」


フリル付きの水色のビキニ。

スタイルの良い愛依が着れば、それこそモデルのようである。露出度が高く、直視しづらいのが俺的にはハードモードだが。


「夕くんが選んでくれたのも良かったんだけど……。やっぱり、ちょっとは攻めてみたいし?夕くんが目のやり場に困ってるところも面白いし」

「からかうのが目的じゃねえか!」

「ふふっ。買ってくるからちょっと待ってて」


レジに向かい水着を買うと、俺達はショッピングモールを後にした。


あ……。


そう言えばさっき、誕生日が近いって言って…それで……。

水着……俺が買ってプレゼントしてくれ…的なことだったか…?もしかして…。


「あの…愛依」

「ん?」

「その~……すいません。気が利かず」

「え?」

「いや、だから、誕生日…だろ?」

「あー、そういうこと。それなら大丈夫。ただの冗談のつもりだったし」


と本人は言ってるが…本当にそうなんだろうか。たとえ冗談だとしても、誕生日が近いことは確かだし、何かプレゼントくらい…。


「いいのいいの。そんな気にしないで」

「いや、そういうわけには」

「それに、まだ誕生日ではないんだしさ」

「……じゃあ、8月4日。また一緒に出かけないか?あ、予定あるならそっち優先でいいんだけど」

「え?二人で?」

「ああ。俺、女子にプレゼントとか分からないし、ならいっそ二人で出かけて愛依が欲しい物を聞いて、さ」


サプライズプレゼントなんて気のきいたことは俺には無理なのだ。ハードルが高い。愛依の欲しい物なんて分からないし。


「あ……うん。分かった。予定空けとくね。でも、私が欲しい物かぁ……」

「無いのか?」

「う~ん……。まぁ、無くはない…けど…」

「それって?」

「でもそれは、もうちょっとで手に入りそう…な気がする…。もうひと押し…なのかな?」


そう言って、俺の腕に抱き付き、幸せそうに微笑む愛依。

ここまでされたら、どんな鈍感主人公野郎でも気付くだろう。やはり、咲希の言ってたことは正しかったのだろうか。


「………」

「夕くん?ふふっ。顔真っ赤」


学校で有名なほどの美人で可愛い女子が、腕に抱き付いてこんな幸せそうな笑顔を浮かべているのだ。普通の男子高校生がこれに平然としていられるわけがない。


「お前も…赤くなってるだろ」

「えへへ……だね」


互いに恥ずかしくなりつつも、絡み合う腕はそのままに、俺達は帰路についた。

愛依の家まで送ることになり、初めて愛依の家まで来た。

家の前で俺達は別れることとなったが、互いに離れようとはせず、しばしの沈黙の後、俺達はある告白をした。


そして……甘い香り、柔らかい感触、互いに求め合うように俺達はキスを交わした。

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