第35話 変わりゆく関係 始
1学期も終わり、うちの学校は夏休みとなっていた。夏休みが始まって昨日までの2日間。俺は家の中でのんびりとした生活を送っていた。
だが、今日だけは違う。友達との予定が入っていたのだ。
支度をし、家を出るとチャリに乗り、最寄りのショッピングモールへ向かった。
ショッピングモールに着くと、駐輪場にチャリを駐め、ショッピングモールの中へ入る。少し進むと、開けた場所に出る。ここが集合場所となっているものの、予定より少し早めに着いた為、そこにはまだ誰も居ない。待ち合わせの相手はまだ来ていないようだ。
こちらが早く来ている為、別に遅刻という訳でもないので、特に連絡することもなくその場で待ち続ける。
5分…10分………20分経過。
待ち合わせ時間は午前11時。
現在の時刻。午前11時10分。
10分の遅刻だ。俺とて、そこまで時間に厳しいつもりはないが、少し心配になってくる頃合いだ。
何か予期せぬトラブルでもあったのか。または単純に寝坊か。それとも待ち合わせ場所を間違えた?
念のためにLINEを開き、待ち合わせ場所を確認する。が、待ち合わせ場所はここで合っている。時間も合っているし、特に新しい連絡も来ていない。こうしてる間にも5分程経つが、周りに見知った顔は見当たらない。
「………連絡するか」
1人でボソッと呟くと、LINEに文字を打ち込む。
『まだ時間かかりそうか?』
メッセージを送り、しばらくその画面を見つめるが、既読は付かない。もしかして遅刻していることに焦って、スマホを見ることもしていないのか。
「夕くーん!」
と、その時、待ち合わせ相手の声が聞こえてきた。その方角に顔を向けると、急ぎ足でこちらへ向かってくる愛依の姿があった。
「ごめんね!支度に時間かかっちゃって、いつの間にか時間になってて!」
「そうだったのか。まぁ、特に何もなかったんなら良かったよ」
「え?何かって?」
「いや、何かトラブルでもあったんじゃないか、とか考えてて。でも、何もなかったようで良かった」
「あ…うん。心配してくれてありがと。優しいね。怒られるかと思ってた…」
愛依は、面食らったようにボーッとした後、申し訳なさそうに笑いながらそう言った。
「なんか……」
「ん?」
「学校の時と違う…ね?」
「え、そう?」
「なんか優しい…」
「お前いつも俺をどんな風に思ってたの…?」
「いやいや!別に怒りっぽいとかは思ってないけど……なんか、思ってたのと違ったから」
「そう…なのか?」
俺自身としては何も変わったつもりも変えたつもりも無いんだが。いつもとは違う環境にそう感じたんじゃなかろうか。
俺だって、私服姿の愛依に違和感を覚えてならないのだ。似合っていないとかそういう意味ではなくだ。
「それじゃ、行くか。水着買うんだっけ」
「うん。そう……なんだけど、どうせならいろんな店を見て回りたいなぁ……って思ってたんだけど……」
後半につれて段々声が小さくなっていく。遅刻してきたのに自分勝手なことを言っている、とでも思っているのだろうか。
「変に気を使うな。学校じゃ俺に迷惑かけまくってたんだし、今更気を使われても違和感しかない」
「うわ!その言い方夕くんっぽい!本物だ!」
「俺の本人確認は嫌味を言ってくるかどうかなのかよ…」
「あはは。冗談だよ。それじゃ、今日は私に付き合ってもらうね」
「はいはい」
「それじゃ失礼しまして」
何が失礼するのか分からず、特に気にすることなく流したが、すぐにそれを理解する。
俺の腕に腕を絡ませ、愛依が抱き付いてきたのだ。
「愛依…これは…?」
「今日はデートなんだから、これくらいしてもいいでしょ?」
「待て待て。いつデートなんて言った?まず俺達はただの友人で……」
言いながら咲希の言っていたことを思い出す。
愛依は俺を狙っている、意識している、とのことだ。つまり……。
「えーっと……」
「ほら、行こ?」
「あ、ああ……」
多少人の目が気になるが、ここは黙って従っておこう。それよりも無駄に抵抗をして、俺の腕が愛依の柔らかい部分に当たることを危惧していた。いや、これだけの至近距離だ。もう触れている。
しかし、まさかこんな大胆な行動に出るとは。咲希から事前に聞いてなかったらもっと困惑してただろう。
水着を買う目的は最後にし、いろんな店を見て回った。服、雑貨、アクセサリーなど、いろんな店が構える道の真ん中を、腕を組ながら歩く二人組は端から見たらただのカップルにしか見えないだろう。
「そういえば、夕くんの誕生日いつ?」
「9月2日」
「あちゃー。近いなら何かプレゼントしようと思ったのになぁ~」
「そう言う愛依は?」
「8月4日」
「………なるほどね。何か買ってくれと?」
「え~?別にそんなことは考えてないよ?」
「はいはい。何が欲しいんだ?」
「えへへ、やったー!でも、それは後からのお楽しみということで」
「どんなものをねだられるのか、今から怖いんだが」
愛依は嬉しそうに明るい笑みを見せているが、俺には悪魔の微笑みに見えていた。
いろんな店を見て回り、いつの間にか時刻は1時を過ぎていた。
「そろそろ飯にしないか?フードコートあるし」
「そうだね。じゃああっち行こ」
お腹も減ったところで俺達はフードコートに向かう。学校でいつも弁当を囲む俺達にとって、一緒に飯を食べるということ自体には何ら抵抗もなかった。
「んー、何にしよう。夕くんは?」
「そう……だな…。シンプルにラーメンにでもするかな」
「じゃあ私もラーメンにしよっと。あ、でもたこ焼きも最近食べてないしなぁ。んー、悩む」
「両方頼めば?」
「んー、それだとお腹いっぱいなりそう」
「じゃ俺が大盛り頼むからお前も少し食うか?それならたこ焼きもラーメンも食えるだろ」
「それだ!」
「じゃ、注文に行くか」
少し悩んだ後、メニューを決め、大盛りのラーメンを頼む。横目に愛依を見ると、たこ焼きの店の前で注文をしている。
しばらくして、ラーメンとたこ焼きが出来上がり、席に持ってくると「いただきます」と言って食べ始める。
「たこ焼きなんて久しぶり~」
「そんな頻繁に食べるようなものでもないしな」
「あふっ!はふっ!うん、おいひっ!」
熱そうにしながらも美味しそうに食べる愛依。学校で一緒に昼食を食べているときも思うが、愛依は本当に美味しそうに食べる。
「………な、何?ソースでもついてる?」
「あ、いや。美味しそうに食べるよな、と思って」
「そう?普通に食べてるだけだけどな…。あ、ラーメンも頂戴」
「はいはい。これお前の分の箸…」
「あ~んして」
「………」
「早く」
「………ったく」
ラーメンを箸ですくい、少し冷ませてから、口を開けて顔を近づけてくる愛依の口に入れる。
「あつっ!」
「そりゃそうだ」
「はふっはふっ。うん、美味しい!もっと頂戴。あ、待って。やっぱ隣行く。そっちのが食べやすい」
「自分で取って食うという選択肢はないのか」
「いいじゃん楽しいし。頂戴」
「やれやれ」
再びラーメンをすくい上げ少し冷ませてから隣にいる愛依の口へ運ぶ。もぐもぐと美味しそうに食べる愛依の姿がとても可愛い。
……可愛い…いや、可愛いは可愛いだろう。愛依なんだから。別に変な意味はない。
邪念を振り払いつつ俺もラーメンを食べる。
そして、ラーメンを口に運んだ瞬間にふと気付く。
この箸、愛依に食べさせた時の……。
いや、そんなこと気にしない気にしない。
「あ…」
「ん?」
「………箸…もらうね…?」
「……お前、自分から言っといて気付いてなかったのか?」
「……ごめんなさい……」
顔を真っ赤にさせながら、静かにもう1つの箸を使い始める。自分からデートなんて言って腕を組んできたりはするものの、流石に間接キスは想定外だったようだ。
ラーメンとたこ焼きを完食し、器を返却した後、フードコートを出た。そして、本来の目的である水着の購入へと向かうことにした。
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