第18話 開幕
体育祭当日。
学校に到着すると、一旦教室へ行き、軽い先生の話があった後、グラウンドへと向かう。
昨日の綱引きや借り物競争が影響したのか、少し足が筋肉痛になってしまっている。競技に響かなければいいが……これからは適度に運動した方がいいかもしれない。
「よし!神外!狙うは優勝!頑張ろうぜ!」
「文弥……朝から元気だな」
「テンション低いな~。もっと上げてこうぜ」
「俺にそのノリはキツいから。俺はいつも通りやるよ」
「まぁそれは良いけど、競技はしっかり頑張ってもらうぜ!俺にとってこの体育祭は大切なものなんだからな!」
「大切?なんかやけにやる気あると思ってたけど、なにか?優勝したら家族から賞金でも出るのか?」
「なわけないだろ。いいか。よく聞けよ」
すると、文弥は急に真面目な顔になりこう宣言した。
「この体育祭!優勝したら、八重野さんに告白する!」
「…………」
友人として、応援するべきなんだろう。
昨日も惚れたのなんだの言ってたし、本気なのかもしれない。
が、この言葉を聞いて瞬時にフラれる文弥のイメージが脳裏に浮かんでしまった。
「……勝算はあるのか?いや、成功する確率はあるのか?いや、そんな奇跡あるのか?」
「失敗する方向へ段々寄せていくな!分かるか!?俺にとってあの人はドストライクのドストライクだったんだ!」
「いや好みの話は知らん」
「あの長くて艶のある黒い髪、大人っぽさを感じさせつつ今時のJK感も兼ね備えた雰囲気、そして性格。そしてあのスラッとしたモデル体型!胸は大きいとは言えないが、程よい大きさ!」
「割と失礼だな」
今言ったこと本人に言ってやろうかとも思ったが、怒りの矛先が俺にも向いてきそうなのでやめておこう。
「………でもよ。まともに話したのって昨日が初めてだろ?それに、言ってたよな。テストで満点とったら、とかなんとか」
「テストまで待てん!」
「せっかちな……」
「テストまで待ってたら、それまで我慢ならず八重野さんを襲いそうだしな」
「早めに通報しておこう」
「だからこそ今日告白するんだよ!」
「ああ、そう」
まぁいい。自分で決めたのなら何も言うことは無い。
こうして、一人の男は青春に燃え、とある男はだるさを覚える体育祭が始まった。
開会式から始まり、プログラム通り第一競技から進んでいく。俺の出番は午前の8番目、そして午後の2番目。
一番暑くなる頃に集中していた。
とことんついてない。この運の悪さを借り物競争にまで持っていたらと考えると寒気がする。
周りがワイワイガヤガヤと盛り上がってる中、一人憂鬱な男がここにいた。
「あ、居た居た。やっほ夕くん」
「……何だ。敵情視察か」
「団が違うからってそんなこと言う?ただ話しかけただけじゃない」
「そうか。俺は絶賛憂鬱中なんだ。そっとしておいてくれ」
「夕くんはもっと日差しを浴びてその鬱を取っ払った方が良いんじゃない?」
「悪い。日差しを浴びると溶ける病なんだ」
「よく今まで生きてたわね。ま、冗談吐けるくらいには元気みたいだけど」
とまぁ冗談はこのくらいにしておこう。ひとつ、忠告もあるし。
「それはおいといて、あんまりうちのクラスには来ない方が良い」
「突然の拒否!私ついに嫌われちゃった!?」
「大丈夫だ。嫌ってはない。苦手なだけだ」
「意味合いが違うのは理解してるけど、それでも人を傷つけてることに変わりないの分かってる?」
「俺がどうとかって話じゃない。ちょっとな。お前に気がある奴がいて、そいつが暴走気味なんだ。下手したらお前を襲いかねん」
「そんな野犬みたいな人が居るの……?」
「ああ。だからあまりうちには近づかない方が良い。勿論、襲われても構わないドMならば勝手にどうぞ」
「そんな趣味あるわけないでしょ!?」
体を両手で抱き締め、背筋を震わせながらそう言い放つ愛依。
そして、ここで愛依の後ろから感じるもうひとつの視線に気付いた。
この突き刺さるような視線。まるで俺をこの場から追い出そうと……いや、あわよくば殺してしまおうとさえ感じるこの視線。
「愛依。俺にのみ特効を持ったボディガードをいつの間に雇ったんだ……」
「え?何の事?」
この会話の間にも、奴から痛みを感じる程の視線が俺へと送られてくる。
確かに昨日、愛依に近寄るなと言われたばかりだったんだがな。でも今回だって俺からではなく愛依から来たんだし……仕方のない事なんだよな……。
「愛依……あのボディガードを何とかしてくれないか」
「へ?」
愛依の背後を指差し、奴の存在にやっと気付く愛依。
会話から、「咲希?どうしたの?」「別に。何でもないよ」と聞こえたので愛依が雇った訳ではないようだ。
「ねぇ夕くん。まだ仲直りしないの?」
「直る程の仲も無い」
「頑固だなぁ…」
「愛依ちゃん。クラスのとこに戻ろ。こんなヤバイ人が居る所に居たら駄目」
「散々な言われようだこと」
「……事実でしょ。黙ってて」
「はいはい」
相変わらずの反応に俺も口を尖らせる。
すまないが、やはり愛依の計画は絶対に成功する事は無い。
「あれ?あれあれ!?二人ともいつの間にか少し仲良くなってきた!?」
「「は?」」
不覚にも声が被ってしまい、怪訝な目でこちらを睨み付けてくる。
「二人がまともに会話する姿初めて見た!」
会話とも呼べない程のやり取りだけで仲良くなったと解釈されるとは。ポジティブ思考過ぎないかこの人。
「とにかく、戻るよ愛依ちゃん」
「えー!もっと夕くんと話したい!」
「その呼び方もやめて!お願いだから!虫酸が走る!」
「え~?咲希も昔はお兄…」
「あー!あーあーー!!何の事かな!?」
よく分からないが愛依の発言を打ち消すようにアイツが叫んだ。アイツにとって言われるとまずいことを愛依は知ってるのか?アイツの弱みを握る為にも今度愛依に聞いてみようか。
それにしてもタイミングが良かったな。文弥は競技中だし、実際今のこのクラスに危険は無い。一人の少女の身は幸運にも守られた。
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