第15話 理不尽
ついに体育祭のリハーサルが始まった。
今日の最高気温は31度だったっけ。本番の明日は32度。明日も……。
「暑い……」
テントの中ならまだ平気だけど、流石にグラウンドに出ると暑すぎる……。
しかも今は借り物競争中。走るなんて面倒くさいし暑いし…。しかも、お題何これ……。
『頭が良い人』
曖昧過ぎない……?
これ審判どう判定するの?
「なんじゃこりゃあ!!」
なにやら隣でアホみたいな奇声を発している生き物が居るみたい。余程難問を引いてしまったようね。私然り、だけど。
お題を見た後、しばらくその場に留まった。
いや、留まるしかなかった。
この前のテストの成績とか?まだ入学して1ヶ月ちょっとの1年生には難しいお題じゃない?誰が何位とか分かる訳ないでしょ……。
ふと、チラッと隣のコースを見る。そこに、もう奴の姿はない。気になって周りを見渡すと、なにやらゴール前で誰かを捕まえていた。
と、思ったら愛依ちゃんだ。
何で愛依ちゃん?お題に合った人ってこと?
でも愛依ちゃんって体育委員で、この競技では審判のはず……よね?
審判を借りるのはアリなの?
「で!私はどうするのよ!」
アイツの事なんて気にしてられない。真剣にお題について考えよう。
頭が良い人。頭が良いの基準って何?具体的にはやっぱり成績の順位?
一応……私は学年で1位だったけど……自分を借り物競争の借り物に使うのはアウトよね。それに自分で頭が良いって言ってるみたいで嫌だし……。
あ。そういえば、この前愛依ちゃんが話してたような。隣のクラスの……さくら……名前が出てこないけど……その人が学年で2位だったんだっけ。
さくら…さくら……とにかく、隣のクラスから『さくら』みたいな名前の人を探すしかないか。幸い、体操服に名前書いてあるし。見たら分かるはず。
隣のクラスのテントの方を見て、とにかく『さくら』が付く名前を探すことにした。
なんてしてる間に、他の3人がゴールしそうだけど。
「あの……誰かお探しですか?」
隣のクラスのテントの中を見ていたら声をかけられてしまった。まぁ端から見たら他のクラスのテントの中を見るなんて不思議な光景か怪しい光景にしか映らないだろう。
「あー……今、借り物競争やってまして、えーと……」
頭が良い人居ますか?なんて聞ける訳が無い。
名前に『さくら』が付く人居ますか?とか何かバカみたいな質問だし……。
さくら……。
櫻……櫻庭……?
「櫻庭さん?」
「はい?そうですけど?」
体操服に書いてある名前に目が止まった。そうだ。櫻庭だ。愛依ちゃんに聞いた名前。じゃあこの人が学年2位の人!
「櫻庭さん!私と一緒に来てくれませんか?」
「えっ?」
「借り物競争のお題で櫻庭さんがそのお題にぴったりなんです!」
「私がですか?まぁ、そう言うことなら…」
返事を聞くと同時に櫻庭さんの手を握り、一緒に走り出した。ゴールの方を見ると、まだゴールした人は居ない模様。これは1位もあるかも?
って、何でゴール前で愛依ちゃんを捕まえたアイツはまだゴールしてないの?
やっぱり審判はダメだった?それともお題に合っていないと愛依ちゃんが否定してるとか?
何してるんだろ。
「………」
「………」
こちら神外夕。他の3人はお題となってる借り物を探している中、俺はいち早くその借り物を見つけた。が、とても気まずい雰囲気が流れてしまっていた。
まぁお題の通り、好きな人……では無いが。
「……愛依?」
「……ふーん」
何のふーんなのか分からないがきっと何か良からぬ誤解をさせてしまっているのは明らかだった。
「愛依。これはだな。説明するといろいろややこしくなるしルールの穴を見つけた結果こうなってしまってる手前、審判を相手に説明は非常にしにくいのだが…」
「お題を見せるのは審判だけ。借りて来た相手にはお題を見せなくても良い。つまり審判から見たらこのお題の場合は異性というだけで証明になる。そう言うことね」
誤解どころか凄い理解してくれていた。
「じゃあ、オーケー?」
「オーケーな訳無いでしょ」
「好きな人とか居ないしまずお題が成立しないんだが」
「そこは私個人としては咲希を選んで欲しかったところなんだけどなー」
「絶対無い。第一、同じ競技に出てるから借りるなんて無理だ。おまけに同じ組だし」
「ね!何でこうなったんだろうね!運命感じちゃうよね!」
「………」
この反応。まさか体育委員の特権で仕組みやがったかこいつ…。
「………まぁそういうことだから頼むよ。俺の気持ちを受け取ってくれないか」
「そんな告白めいた言葉使っても変わりません!ダ~メ!」
「じゃあ最下位でいいから休んでていい?」
「『好きな人』ってお題で夕くんから告白されちゃった!テヘペロ!って咲希に言っとくね!」
「捏造すな!そしてテヘペロ!はいらない」
「テヘペロ!があった方が可愛いと思って」
「可愛くない。少なくとも同性であるアイツにテヘペロ!なんて言ったらうざがられるぞ」
「じゃあ何て付け加えればいいの?」
「何もいらない。まず捏造するな」
「あれ、捏造しちゃってた?てへぺりんこ!」
「なんかまたおかしなの付いたぞ……」
と、なぜか競技中に審判と駄弁るというよく分からない状況になってしまった。それにしても、他の3人遅いな。そんなに難しいお題だったのだろうか。
すると、テントの方からこちらに向かって走ってくる二人の影が見えた。
「は…?」
奴と……櫻庭さん…???
どういう組み合わせなんだ。
だが、これはチャンス。アイツは櫻庭さんの体力の無さを知らない。そんなに走っては、いずれ櫻庭さんが………。
「もう……無理ぃ…」
「えっ?」
崩れるように倒れ込む櫻庭さん。これによりアイツも停止せざるを得なくなった。まさか櫻庭さんの体力がこんな形で役に立つとはな。
また今度何か奢ってあげよう。
だが、状況は変わらない。結局、この厳しい審判のせいで俺のゴールは無くなった。まずお題が成立しないという理不尽な結果に終わった。
つまり、あと3人を待って最下位まで待つという競技となってしまった。
その後、他の二人がゴールし、次にくたくたの櫻庭さんを支えながら奴がゴールした。
そして自動的に俺もゴールとなった。
この競技、お題によっては割と理不尽な競技となるようだ。
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