第14話 リハーサル
昨日、競技が決まり、今日からは本格的に体育祭に向けて練習が始まった。
とは言っても俺は借り物競争だし、練習なんてものは無い。競技の練習なんてあるのはリレーや綱引きだけ。あとは簡単な流れの説明のみ。
競技の練習をしたい人は昼休みや放課後に自分でやれという訳だ。
まぁしないけど。借り物競争なんて特にその日の運でしかない。
「……ま、お一人さんはちょっと練習した方が良いかもしれないが……」
昼休み、俺はいつものように櫻庭さんに予習の手伝いをお願いしたのだが、今日は断られてしまった。なぜかって?
「はぁ…はぁ…。…疲れ…た……」
「まだ100mも越えてないんだが…?」
櫻庭さんの200mの練習に付き合うことになったからだ。
元々櫻庭さんの体力の無さは知っていたが…。まさか100mも行かない所でまるでフルマラソンを完走した後のような疲れ具合には流石に驚きを隠せない。それと同時に本番が恐ろしく思えてきた。
もはや体力的な理由をつけて体育祭を休むことも出来そうだ。
「………休憩するか」
ギリギリ100mを越えた辺りだろうか。疲れすぎて今にも倒れそうだったので流石に休憩を挟むことにした。
「もう……無理……」
「練習しようって言い出したのは自分だろ」
「………」
「前々から体力無いのは分かってたけど、ここまでとは」
「
「事実だ。受け止めなさい」
「良いよね。神外君は借り物競争で。走る要素そんなに無くて」
「こちとら不安もあるっての」
むくれた様子で羨ましそうにこちらを見てくる櫻庭さん。ついこの前までは敬語だったのに、最近では軽口さえ叩けるようになってきたようだ。
「ま、何でも繰り返しだよ。明日からも自主練するんだな」
「え~、鬼コーチ」
「だから、自分で言い出したことだろ…」
それから毎日のように昼休みは練習に付き合わせられ、少しずつだが走れるようになってきた……気がする…。
そんな日々が続き、ついに本番前日。
今日は土曜。体育祭のリハーサルが始まった。
「だっるい」
「土曜だしなぁ。俺もかったるいよ。神外の場合、休みの日はゆっくりするタイプだろうし、尚更だるそうだな」
「ああ。本来休みの日は10時くらいまで寝てるわ」
「寝過ぎだ。俺の家でそんなに寝てたら姉ちゃんに怒られるわ」
「へー初耳だ。姉ちゃんなんて居たのか」
「3つ上のな。いま18歳で大学に進学したよ。毎朝ちゃんと起きねーとどやされんの」
「へー。俺のとこにも二人妹いるけど、俺が起きるまで眠らせてくれるよ」
「それはほったらかしにされてるだけじゃねぇのか……?」
リハーサルが始まり開会式が終わった後、テントの中で俺と文弥は駄弁っていた。
体育祭とは言えど、自分の出番以外はテントの中で友達と駄弁る。これこそ体育祭の醍醐味と言えるかもしれない。
「文弥のとこは明日は家族みんな来るのか?」
「ああ。日曜だしな。そっちは?」
「俺の方も来るよ。玲夢の方は興味ないって言って行かないだの言いつつも母さんに説得されたよ」
「妹か」
「生意気な方の妹。もう一人は二つ返事で行くって言ってくれる可愛い妹だ」
「シスコンここに極まれり」
「愛はあっても家族としての愛だから変な心配するな」
こんな何でもない話に花を咲かせていると、文弥が出場する400m走が始まり、次第に俺の出番も近付いて来た。
今まで借り物競争の練習なんてしなかった為、このリハーサルでの競争が初めてとなる。
ちなみにざっくりルールは聞いた。
まずお題が置いてある机まで走り、お題に合った物、または人と一緒にゴールする。お題のものは、必ず体に触れていなくてはならないとのこと。つまりお題が人ならば、手を繋ぐなどの条件を満たさないとゴールにはならない。
それと、お題のカードも身に付け、ゴール前に立っている審判にカードを見せなければならない。つまり、お題にそぐわないものを持ってきてはバレるということだ。
いろいろと面倒なルールだ。噂によると、お題やルールは体育委員が作っているとのこと。
もしお題が人の場合はなお面倒だな。
「おい神外!借り物競争に出るやつ呼ばれてるぞ」
「え…あ、今いく!」
リハーサルとは言え借り物競争はしなくて良くないか?というやる気の無さ100%な疑問を抱きつつ列に並ぶ。
「…………」
「…………」
俺は5組目の2コース。
同じ5組目の1コースの人の名前を覚えていたのでその横に並ぶ。
「…………」
「…………」
何度も見たことのある整った黒い髪。風でなびく度にふわっと香る昔から知っている香り。
奴だ。
なぜ……俺達はこうも偶然という事象に好かれているのだろうか……。
「……これも愛依ちゃんと何か企んでのこと?」
「だとしたら運良すぎるだろ」
「体育委員買収した?」
「んなことの為に金使うかよ」
「「ふん…」」
相変わらずのご様子だ。
まぁいい。元々借り物競争なんて適当に済ませてやろうと思っていたがこれなら話は別。
別にこいつに負けたって構わないのだが、こいつが勝っていい気になるのは不愉快だ。
かと言って全力で走ったりしたら『うわ、こいつマジじゃん……』とか思われて嫌な視線を送られることになる。それはそれで不愉快だ。
つまり、ここはそれなりに走りつつ、手っ取り早いお題を引いて勝つ。それだけのことだ。
1組目が終わり、2組目、3組目。
次々と借り物競争が行われていく。
様子を見る感じ、人がお題になってるものも割と多いようだ。
お題は物。それでいて手っ取り早く調達できる物でありたいところ。
そして、ついに5組目まで回ってきた。
位置につき、スターターピストルの合図と共に走り出す。
お題の置いてある机まで走り、そして、お題をオープン。
『好きな人』
「なんじゃこりゃあ!!」
シンプルすぎる難問に逆に驚き声を漏らす。
待て待て。好きな人?いや、現状好きな人が居ない場合はどうすればいい。まずこのお題考えた奴はこういう場合を考えなかったのか?それとも高校生には好きな人が居ること前提なのか?
「くっ、しゃーない」
冷静になれ。結局は審判から疑われなければいいんだ。つまり誰かしら女子を連れていけばどうとでもなる。それにルールには審判にカードを見せるだけ、連れてくる相手に見せる必要は無い。
ならば……。
キョロキョロと周りを見渡し、その人を見つけた。
「こんなとこに居たのか。悪いが来てくれ」
「え、夕くん…?って、私!?」
選ばれたのは愛依でした。
なぜ愛依が選ばれたのかって?
勿論、好きだからなんて理由ではない。俺の友好関係にある女子は二人のみ。
愛依か櫻庭さんのみだ。じゃあなぜ櫻庭さんではなく愛依かって?
櫻庭さんと走ったら……最下位確定だからだ。
「あれ、もしかして1位?」
「ハァ…ハァ…急に引っ張らないでよ…ビックリした……」
「あー悪い。で、審判にお題見せないと……あれ?審判てゴール前に居るはずじゃ…」
「え…?居たでしょ?今の今まで」
「は?」
「私ですけど?審判」
……やはりか…。実はそんな気がしてたんだ。
だって……愛依を探そうとテントの方見たら居ないし、んで見つけたと思ったらなんかゴール前に立ってるし……。
「…………お題は『女子』でした」
「………見せて」
「『女子』です」
「失格になりたい?」
「もはやそれでもいいかもです。あっ!」
一瞬の油断を突かれ、お題の書かれたカードを奪われる。
「……好きな…人………?」
「………女子……てことに、間違いなかったろ?は、ははは……は…」
二人の間に、今までに無いほどの凄く気まずい空気が流れた。
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