俺と私のラブコメディ

匿名人

プロローグ 神外夕

今思えば、あの頃の俺はどうかしていたのだろう。まだ幼かったから、なんて理由では全く納得できない。


そう。あの頃…。


とある幼稚園に二人の男の子と女の子が在籍していた。

男の子の名前は神外かみとゆう

女の子の名前は外神とがみ咲希さき

この二人はいつも一緒に遊び、親友と呼べる程の仲だった。


しかし、その仲良しな二人はとある件がきっかけに、疎遠になった。


その件…とは……。


「はぁ……思い出したくもない」


教室の自分の席で、一言呟いた。

ああ。言い忘れてた。俺は今、高校生である。

俺が在籍しているこの高校は偏差値も高く、人気もあり、受験はなかなかの倍率だったわけだが、なんとか合格した。

自分で言うのも何だが、ほんと俺頑張りましたよ。ここの受験の為にどれだけ勉強したことか。

え?なぜここを受けたのかって?勿論、将来のことを見据えて良い学校に……なんてのは建前で、結局全てはあの女の存在に繋がってくるのだ。


幼稚園で知り合い、小学、中学と同じ学校で過ごしていた。お互い避け合ってはいるが、どうしても廊下ですれ違うことやクラスが同じになったこともあった。


最初は気まずい、の感情しか無かったが、中学の頃には気まずいというよりもはや苦手、嫌いという意識が芽生え始めていた。


だが、もうそんな生活とはおさらばだ。

俺はあの女と決別する為、この偏差値の高い超難関校に入学したのだ。

いつまでもあの女の存在に縛られるのも嫌だしな。


「神外。お前、なんか楽しそうだな。そんなに高校生活が楽しみか?」

「お前の方こそ楽しみじゃないのか?文弥」


こいつは同じクラスの小鳥遊たかなし文弥ふみや。なぜか馬が合い、入学して2日で親しくなった。中学の頃から成績トップクラスをキープしていたらしいから、ここの受験もそう危なげなく受かったに違いない。


「ま、楽しみっちゃ楽しみだけどよ。ここは部活もいろいろあるし、敷地も設備もいろいろ良いからな。そういや、お前は何でここに入学したんだ?なんとなく見たら分かる。お前、元々は勉強なんて全くしないやつだろ?」

「当たり。受験のためにどれだけ頑張ってきたか。それと、ここに来た理由はそんな大層なものじゃないさ。ただ…将来のこととか考えたら良いとこ出た方がいいかな、と」


建前である。


「でも、実際俺の成績なんて下から数えた方が早いってのが現状なんだよな。こんだけ勉強して底辺とか、授業中寝るとか出来ねぇわ」

「もし危ない時は俺が勉強手伝ってやるよ。一応これでも成績トップ10入りしてるんで」

「トップ10入りっていうか、お前2位だろ?そんな謙虚な言い方しなくても」

「へへっ。まぁな。あ、そうだ。神外、その成績1位の奴のテストの結果知ってるか?」

「あー、噂では聞いたけど、あれ本当なのか?聞いた話だと全テスト満点とか」

「それがマジらしいんだよ。上には上が居るってことかねぇ」


この噂を聞いたときさすがにガセネタだろうと思ったが、本当だったか。この学校恐ろしい。


「ちなみにだが、その1位の女子はかなりの美人らしい」

「どこ情報だよそれ。見たことあるのか?」

「見たことはねぇけど、確か隣のクラスだぜ。まだ授業まで時間あるし、ちょっくら見てみるか?」

「えぇ。なんかそういう男子のノリみたいなやつ苦手なんだが…」

「いいだろ。見るくらい。行ってみようぜ」

「はいはい。分かった分かった」


文弥に連れていかれる形で教室を出て、隣のクラスを覗いた。


「えっと~……」

「……おい、今気づいたけど、お前その女子見たことないんだよな?覗いたとこで分かるのか?」

「頭の良さそうな美人を探すのだ」

「そういうとこ頭バカだな」


教室の中に居る頭の良さそうな美人を探す。

いや、居ない。居ないと言ったら失礼かもしれないがこの中にそれらしく人は見つからない。


「教室に居ないんじゃないか?」

「くぅ〜。一目見ておきたかったんだがな〜」

「ほら、もう戻るぞ。いつまでも覗いてたら変なやつら認定される」


新しい学校生活において印象はとても大切だ。

ここで変なやつら認定されたらこれからの学校生活たまったもんじゃない。


「もう私の中では認定しちゃってますけど?」

「はい?」


声をかけられた方を見ると、一人の女子が立っていた。頭の良さそう…かは分からないが美人なとこは特徴に当てはまる。


「えっと…あなたは?」

「このクラスの生徒だけど?うちのクラス覗いて何してたの?」

「え、あー……て、偵察?」


頭の良さそうな美人な女子を見に来ましたなんて言えん。


「偵察?」

「ああ。実はこの隣にいる文弥は成績2位でな、だから成績1位の女子が気になるからって」

「隣?何を言ってるの?あなたしか居ないじゃない」

「は…?」


横を振り向くと、確かに隣には誰も居なかった。

あの野郎……逃げたな。


「はぁ。まぁいいわ。今日だけでもアンタみたいな人結構居るしね」

「覗き犯が?」

「それはアンタも覗き犯と言うことでいいのかしらね?まぁともかく、お探しの人は今お留守みたいだから無駄足よ」

「そうですか。まぁ俺が見たかった訳でもないんですけどね。覗いたりしてすいませんでした。それじゃ」


どこか行ってたのか。

それより、文弥の野郎。危険を察知したらすぐ逃げやがって。


自分の教室に戻ると、文弥は何食わぬ顔で自分の席に座っていた。


「おい文弥」

「お、どした?」

「どした?じゃねえよ。変なことにはならなかったとは言え、俺が変なやつ認定されたわ」

「ははは!良いじゃねえか!あの女子もなかなか可愛かっただったろ?あんな可愛い子と知り合えて良かったな」

「丸く言いくるめやがって。ったく」


こういうところは文弥の良いところなのだろう。頭が良い奴って結構お堅いイメージだが、こいつはそんなことは無く軽口を叩きやすい。

つくづくいい友人を持ったよ。


「つかよ。顔も名前も知らないで見に行っても分かるわけ無いだろうが」

「んなこと言われたって…あ、名前ならなんとなく覚えてるぞ」

「それを早く言え」

「なんかな、お前と似た名前だったんだよな。だからなんとなく覚えてたんだ」

「俺に?夕に似てるってことか?」

「いやいや名字だよ。神外…じゃなくて、えーと……」


この時、何か良く分からない悪寒がした。


名字が似てる?名字が似てると言ったら……。

いやいや、まさか。ここはあの超難関校だぞ?俺でもめちゃくちゃ勉強してやっと入れたってのに。しかも成績1位なんて………。


あ、でも俺。小学からのアイツの事知らねーや。小学や中学の頃から成績良かったのかも?


「あ、そうそう!外神だ!外神さん!お前の名字を逆にした名字なんだよな」

「外神……そうか。そんな名前の人も居るんだな。ははは……」


別人だと信じることにした。外神なんて名前、どこにでも………あまり居ないか…。


「そう!そうだ!外神咲希!フルネームやっと思い出せたわ」

「外神咲希……。あー……そう…」


幼稚園、小学、中学、そして高校までも被るか。腐れ縁と言うやつか。


「一時間目の休み時間くらいにまた見に行ってみようぜ」

「いや、俺はパスで」

「んだよ。ノリ悪いなー」


その日、俺は身を潜めるように出来るだけ教室から出ないように過ごした。


「おいおい、昼休みくらい外出たらどうだ?お前、あれだな。完璧なくらいにインドアだな」

「確かにインドアなのは否定しないが今日のはちょっと特殊な事例なんだ。いや、今日、じゃないな。今日から、だった」

「何言ってるのかさっぱりだが、まあいいや。俺は外行ってくる」

「おう」


昼休みになると、大体の男子はグラウンドに出て何かしら遊ぶものだろう。しかし、俺はその大体には当てはまらない。なにせ、根っからのインドアだからだ。

しかし、今日はそれ以外にも要因が生まれてしまったのだが。


「あ、いたいた。ねぇ、君」

「はい?あ、さっきの……人」


声の主は朝出会った隣のクラスの女子だった。


「そうそう。隣のクラスの人です」

「名前教えてくれてもいいでしょうに」

「それを言うなら君だって」

「俺は神外夕です」

「神外君ね。私は愛依。八重野愛依よ」

「八重野さんね」

「愛依って呼んでくれると嬉しいな。名字は何だか可愛くないでしょ?」

「そんな理由でほぼ初対面の女子を下の名前で呼ぶのは気が引けるな」

「そう?クラスの友達は皆そう呼んでくれてるけど?」

「それ全員女子でしょ」

「せいか~い!まぁ気楽に呼んでおくれよ!神外君!」


八重…じゃない。愛依はそう言うと肩をバシッと叩きながら朗らかな笑みを浮かべた。


この人はアレだな。女子耐性が無い人が接すると「この人俺のことが好きなのか?」と勘違いさせてしまうタイプの人だ。


「それで、何の用で?」

「何の用かって。あなたが言ってたじゃない。成績1位の女子を見てみたいって」

「それは俺じゃないですし、今はあいつ居ないので。それに、俺はその子に出来れば近よりたくないと言うか…」

「え?どうして?もう咲希呼んだんだけど?」

「え……」


咲希…?いや、違うな。咲希なんて名前いくらでも。

しかし、ドアの陰からは聞き覚えのある声が聞こえた……。


「えっ!あ、えと…」

「咲希。そんな恥ずかしがらなくてもいいでしょ?」


すると愛依はドアの陰から誰かを引っ張ってきた。


そして……。


廊下の向こうには小学から中学までずっと避けていた。いや、避け合っていた人物の姿があった。

そして、俺達の視線は交わった。


「「あ………」」


この瞬間より、俺達二人の何かが幕を開けた。

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