第11話 有希は天の星となって 大杉を見守っている

 有希が突然死しただなんて、真由子は信じられなかった。

 大杉はうめくように言った。

「僕のせいだ。僕が有希にワインさえ飲ませなかったら、こんなことにはならなかった筈なのに」

「それは違うわ。神様が有希さんを天国から迎えにきて下さったのよ。

 有希さんは、地上での役目を充分果たし、天国へと旅立っていったのよ。

 今、有希さんの魂は、天国で生かされてるわ」

「ねえ、有希さんのために、祈りましょう。神様、有希さんの魂が、天国で安らかに生き続けますように。アーメン」

「アーメン」

 大杉も続けて祈った。


 三日後、真由子は、いつか有希と大杉と三人で会ったフレンチビルでウインドーショッピングをしていた。

 今度、ボーナスがでたらワンピースを買おうと思い、下見をするつもりだったのだが、気がつくと有希に似合いそうな洋服ばかりが目についた。

 有希だったら、ベビーピンクのセーターに、白いギャザースカート、そしてボンボリのついたグレーのマントなんか着せたら、人形みたいに可愛いだろうなあ。

 まるで有希の魂が、真由子に乗り移ったみたいだ。

 ふと、有希と会った一階のカフェテラス「ありす」の前に来ていた。ここへ来れば有希に再会できるような気がしてならなかった。

 ドアを開け、空席を探したと同時に、大杉の後ろ姿が目についた。

 大杉は二人掛けのテーブルに座り、有希のつくったうさぎのマスコット人形を膝の上に抱いていた。

「大杉さん」

 真由子は、大杉に声をかけた。その拍子に、花瓶の中の白菊の香りが、鼻をくすぐった。

 秋から冬へと移り変わる季節の変わり目に、有希の身体は土に葬り去られたのだろうか。

「ああ、杉田さん」

 大杉は、真由子をすがるような目でみた。

 まるで真由子のなかに、有希の面影を見つけようとしているようだった。

「実はね、昨日は有希の御葬式だったんだ。これで有希の肉体は、焼かれて土葬されることになった。

 でも、僕には信じられない。今でも、どこかで有希の一部分が生きているような気がしてならないんだ」

 真由子は、思わず前のめりになった。

「私もよ。有希さんの魂は今も生き続けてるわ。

 そして、今このときも、私たちを見守ってくれてるわ」

 真由子は今、ここに透明人間と化した有希がいるような気がした。

「だから僕は、有希の仏壇をつくって拝むようなことは、永遠にしないつもりだ。

 だって、有希の魂は生きているんだもの。墓はつくるが、線香をあげたりはしない。有希は昔から煙に弱かったんだ」

 真由子は同感した。

「私も女性として、有希さんのファンだったわ。有希さんみたいになりたいなんて、密かにあこがれてたほどよ。

 有希さんは、私にとってはアイドルみたいな存在だったわ。できたら私、有希さんを追い求めて生きていきたいな」

 大杉は、納得したようにうなずいた。

「僕もね、有希の面影を探して生きるつもりだ。でもそれは、決して過去をなつかしむということじゃなくて、これから僕のなかで、新しい有希をつくっていくんだ」

「いいわねえ。私も想像の中の有希さんを、私のなかでつくっていこうかな。

 といっても、私は有希さんとは一度会ったきりで、有希さんのことはほとんど知らないけどね」

「なあ、杉田さん。有希を探す僕の協力者になってくれないか」

「そうね。私も有希さんをこのまま終わらせたくないもの」

 大杉は、いきなりセカンドバックの定期入れのなかから、有希のスナップ写真を取り出し、テーブルの上に置いた。

 

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