1話 お引越し準備

「広大な自然だろ? 空気がとても美味しいんだ」

「いやいや……これどこなの? なんて国? こっちはイタリアっぽい街並みだけど」


 父の見せてきた資料は引っ越し先の周辺情報や近くの街だった。

 家も今のこの家より結構広くなるらしい。


「ていうか、引っ越し何てしなくても、ここで一緒に住めばいいじゃん!」

「……それが出来ないんだ。訳あって父さんはこの場所へとまた戻らなければならない……そして、一度戻るともうここへは来る事ができない……」

「え……」

「だから逆に愛する娘をこちらへ招待できないかなって」

「こちらって……父さんもしかして実は死神で私を冥府にでも連れて行くつもり?」

「あはは。まぁ戻ってこれないって意味ではあながち間違ってないかもね」

「いやいや冗談じゃないって……高校だって始まったばかりなのに引っ越しなんてしたくないよ」

「そっか……みなも、高校生になったんだなぁ」

「てか、何で帰れないのか理由をちゃんと教えてよ」


 父は少しだけ迷った後、話し始めてくれた。


「そうだな。理解できるか分からないが……」


 父は改めて資料を出してきた。


「みなもは異世界に転生するアニメとか見た事ある?」

「え? あるよ。今それ系が増えてるからね~」

「ざっくりいうとここはそれなんだ」

「……は?」

「ここは地球からみると異世界。父さんはあの日、撃たれて死んだあとこの世界に転生したんだよ」

「いやまって……リアルでそんな事言われても全然信じられないんだけど……」

「信じるかは自由だけど……みなもが引っ越ししてもいいって言ったらここへ行くんだから、嫌でも信じるしかないよ」

「実際に死んだ父さんが現れてるし……嘘とは言い切れない……」

「いきなり来て、こんな話をして本当にごめんね」

「その……異世界なんだよね?」

「ああ」

「やっぱりイケメンなエルフとかもやっぱいる訳?」

「そうだね……父さんの目から見ると、大半が美男美女だったね。エルフはもちろんドワーフもダンディで格好良かったよ」

「ふーん……」

「あ、特にエルフと人族はみなもの部屋に大量に貼ってたなんとかプリンス? の男の子たちに似てるなーって思ったよ」

「ふーん……!(なにそれ神じゃない……!)」


(あ、ちょっと興味ありそうな顔してるな……)


 てことは、私にもワンチャン超イケメン彼氏が出来るのかな……!


「物は何を持って行けるの? スマホとかどうなるの?」

「持ち込めるだろうけど、電波はもちろん繋がらないしバッテリーが無くなればただの置物だね。いや、充電は出来るかな……?」

「ちぇ。SNSに上げようと思ったのに」

「いや、それは出来ても絶対にダメだからね……?」

「はいはい分かってますよ!」


「とにかく、急に来てこんな話……すぐには決められないと思う。来週のこの時間、もう一度だけ来られると思うから、その時に答えを教えて。もしオッケーならすぐに行くから、準備もしておいてね」

「え……もう帰っちゃうの?」

「ああ、ごめんよ。もう、こちらにあまり滞在できる身体ではないんだ……みなももそういった意味でもう戻れなくなる。行けば最後、あちらの世界に適した身体に変化するからね……」

「てかさっきは戻れないって言ったくせにお父さんはまた来られるんだね?」

「そうだね……父さんだけは少しの間だけは戻ったりできる……かな」

「ずるい! 私も出来たら最高なのに!」

「ごめんよ……まぁでも戻れると言っても……多分後2回程だ」

「全く戻れないよりはいいでしょ!」

「それもそうかもね。じゃぁそろそろ時間だ。また来週来るよ」

「あ、お父さん!」


 そういって父は突然その場で消えた。


「目の前で消えられたら、信じるしかないじゃん……」


 今までの事が夢だったと言われても違和感はない。

 それ程に現実味がない出来事だった。


「……資料が残ってるし夢じゃないんだね」


 来週の日曜日……本当にどうしよう。もう戻れないってのがネックだけど……。


「まぁ友達とかそんな居ないし……イケメンがいっぱいいるなら行ってもいいかな……」



 別にこの世界に絶対居たい! って訳では無い。

 むしろ、死んだ父ともう一度暮らせるなら……。


 私のせいで死んだ父……あっちではちゃんと親孝行をしてやるか!


「とりあえず、失踪って訳には行かないし……高校には話をしないと……」


 そうこうしている内に1週間が過ぎた……。

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