1990年代のネットフレンズ

昭和人(しょわんちゅ)

1990年代のネットフレンズ

 先日、昔使っていたパソコンを繋いでいた時に、偶然見つけた古い写真データ。

(よかったー見つかって。危うく無くすところやった)

 やはりきちんと印刷してアルバムに整理しないとダメだね。昭和人間は。

 その中の一つ、81KBの画像データ。ファイルサイズの小ささでもう、それだけで懐かしさに襲われた……


*****


 インターネットが普及し始めた1990年代も半ばを過ぎた頃。20代だった私はチャットサイトにドハマりしていた。


 こんなに簡単に全世界の人達と会話ができるだなんて、Oh!カルチャーショック!

 なんて事は特に考えも感動もせず、毎晩23時からのテレホーダイタイムが来ると、いつものチャットサイトにアクセスをする。


tosi>ハロゥ♪どーもです^ ^>ALL

キム>まいど>tosi

デニ郎>おっす!とし

ルキオ>オツ^ ^>tosi


 当時の会話を詳細に覚えているわけでは無いが、いつからかtosi、キム、デニ郎、ルキオ。この4人でのチャットが毎晩の日課になっていた。


 因みにtosiは私のハンドルネーム。デニ郎は同年齢のリアル友達。

 キムとルキオはチャットサイトで気が合うようになったネットフレンド。この2人の顔は知らなかった。


 デニ郎と私は京都住み。キムとルキオは大阪と神戸の人間。それぞれ京阪神エリアと言うこともあり、関西弁で伝え合える親近感と安心感があったのは間違いない。


 何かにつけ、チャットでボケたりツッコんだり。顔は知らないけど年齢も皆ほぼイコールらしく、どこか気が許せる仲間になっていた。


 ある時、4人で忘年会(オフ会)をしようとチャットで話が決まった。

 大阪に住むキムが梅田の曽根崎署近くにカニ料理の店を予約。


 京都からはtosiこと私とデニ郎が、神戸からルキオが、それぞれがキムの待つ大阪へと向かい、そして始めて4人全員が顔を合わせた。


 キムは少し年下で痩せ型のイケメン君。ジョークのセンスも良く、普通にモテるタイプだ。


 ルキオは……正直驚いた。


『女やったん!?』


 キムとデニ郎も同じ様にビックリしていた。今まで何十回もチャットでの会話をしてきたけど……全然気付かなかったな。


「女扱いされたく無くて装ってた」


 切れ長の目をさらに細めて、悪戯っぽくルキオがそう言ったのを覚えている。


 推理小説のどんでん返しを現実で味わった気分。だけど、私も他の男2人も全く問題にはしなかった。

 だって、シンプルに気が合う間柄で集まったんだから。性別なんてすぐにどうでも良くなった。


 カニ料理店での食事は一生忘れない思い出だ。

 コースとドリンクで1人15000円ほど、貧乏な若造には少し贅沢だったけど、料理にも酒にも、あまりの美味しさに感動した事は未だに忘れていない。

 食べ放題などだと後々記憶に残る事って稀だけど、あと10000円も追加すれば、その時の事が印象に残る(かもしれない)。この時に気づいた教訓。


 さて、実際に会っての会話も画面越し同様、いつも通りに弾む。ありきたりの表現だが楽しい時間は、あっという間に過ぎた。


 今となっては覚えている会話は少ない中、


「ルキオはチャットの時に誰の事が気になってた?」


 おそらく、お調子者のデニ郎が聞いた。


「tosiがええ感じやなって思ってた」


 ルキオがサラッと受け応える。


 意外だった。キムもデニ郎も相当に面白いメンバーだから、自分は無いと思っていた。

 たまたま、彼女(ルキオ)のツボにハマったのかな。


「で、実際会って見て誰がええねん?」


 男3人の誰かがその場の楽しいノリで質問。


 ルキオが目を細めて、はにかんだ様な笑顔を見せた


「やっぱりtosiやな」


 あの時のドキっとした感情は今でも忘れていない。

 本気にしたわけじゃ無いけど、少しむず痒かったかな。それはまあ、嬉しかったから未だに忘れていないのだけども。


 後日、チャットサイトで


tosi>この前はお疲れ^ ^

キム>また遊ぼうや

デニ郎>今度は京都に来いや

ルキオ>^ ^


 いつもの様に4人でチャット。

 その最中にルキオからICQ(メッセンジャーソフト)で私に直接コメントが届いた。


 彼女が重い病気と闘っていると言う事、何度も入院して、退院してを繰り返している事……思いもしていなかった告白を受けた。


 ネットの世界、いくらでも嘘はあるだろうし、ルキオ自身そもそも性別を誤魔化していた。だけど悪気の無い優しげな性格。この時の彼女の告白はマジだと思った。


 あの時の俺、なんてキーボードに打ち込んだっけ?


『タバコ、やめよか……』だったかな。


 思い出せないけど、いつもの様な冗談は出来なかったんだろうな。


 しばらくしてから、京都でも4人で遊んだよな。

 ルキオのあの時の笑顔、俺とデニ郎で左右から挟んでさ、それをキムが写真に撮ってくれたっけ。


 懐かしい光景が記憶に蘇り……私は古いパソコンの前で涙が止まらなくなった。


 それから、チャットサイトでルキオを見かける事がいつしか無くなり、徐々に他の皆もチャットサイトからフェードアウト。


 キムは随分前だけど、子どもの写真を送って見せてくれた。お互いのポエムもメールで披露しあった事もあるよな。


 デニ郎とはお互いの結婚式でスピーチした間柄。昔のように頻繁では無いが、今でもたまに2人で飲みに行く。また今度行こうぜ、だけどキャバクラに付き合うのはもう勘弁な。


 ルキオは……京都でのオフ会のしばらく後、連絡が途絶えた。たぶん、もう会う事は無いだろう。


 だけど、SNSでも良いから、もう一度話したい。

 81KBサイズの画像の中にいる……目を細めて、はにかんだような笑顔のキミを見ながらそう思った。


闘いには勝てたよね。

今、どんな40代になったん?>ルキオ

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1990年代のネットフレンズ 昭和人(しょわんちゅ) @Showanchu

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