名前
シヨゥ
第1話
名前を呼ばれると「認識してもらえているんだ」と思いほっとする。
名前は僕を表す唯一無二の音なのだ。それが聞こえた瞬間に、僕は僕として認識されていることを感じることが出来る。
一人が好きで、一人が気楽で、一人じゃないと苦痛で。それでも誰かには認識されていたくて。そんなだからか名前を呼ばれるとホッとするのだ。
名前を呼ばれるたびに、僕は認識されてここに立っている。まだ生きている。そんな実感が胸に来る。
どれだけ他人が怖く、自分の殻にこもって回復する僕のような人間であっても、一人で回復しきれない部分はあるのだ。
ただ旧友に会うような熱量はいらない。そこから近況報告や昔話に発展するようでは回復どころではなくなってしまう。逆に消耗しきってしまい、もう一人にして欲しいと心の底から思ってしまうからだ。だから、
「御客様」
ではなく、
「木村様」
と名字で読んでくれるフレンドリーな御店に通いたくなってしまうのだ。
だからこうして自分の存在価値が分からなくなる程ボロボロになるたびにこの御店に来る。生きて存在しているという実感を得るために。今日も名前を呼んでもらえるだろうか。そんな不安を胸にドアをくぐるのだった。
名前 シヨゥ @Shiyoxu
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