上日本国
@qunino
第1話 防衛ステーション
●1.防衛ステーション
『社共党員の行動には目に余るものがあっても、性善説に基づいくお願いベースでは、反日組織への協力者の取り締まりには限界があります。このままでは米中戦争が勃発する前に日本が乗っ取られるかもしれまんせんが、毎朝新聞などのマスコミの半数は政府の権限の強化には否定的な報道をしています』
壁面の地上波テレビの映像は国会前の権限強化反対のデモが映し出されていた。
平原はチューブのオレンジジュースをすすると、手すりにつかまり、地球が見える丸窓の所に漂って行った。ちょうど見える側の地球には、日本列島が見えていた。
「下手すると、俺らが地上に戻ろ頃には、日本自治区になっていて、日本国はここだけとかな」
平原は後ろを振り向き、2つのユニットが連結したタカギ薬品の宇宙ラボを見回していた。
「まさか、そんなことないわよ。冷静に話せばわかり合えるんじゃないの」
平原同様に休憩を取っていた長谷川は、のほほんとしていた。
「だといいがな。それじゃ、今日の仕事を続けるか」
『緊急事態発生!緊急事態発生!所定のマニュアルに従い作業を中断してください』
宇宙ラボのAIのSARA女性の声で警告を発していた。
「SARA、どうした」
平原はロッカーの奥にあるマニュアルを引っ張り出そうとしていた。
「40分後に航宙自衛隊の有人船が到着します。ドッキング・シーケンスを開始してください」
SARAは感情のない声で淡々と言っていた。
「チーフ、そんなマニュアルあったの」
長谷川はメガネを外して宙に浮かせていた。
「あぁ、タカギ製薬の会長直々の極秘マニュアルと聞いていたが…」
平原はマニュアルに目を通していた。
「ねぇ、なんて書いてあるの」
「自衛隊員と共にレーザー砲の設置に協力し、指示を待てとある」
「まさか、民間の宇宙ラボを接収するのかしら」
「そうだろうな。タカギ薬品の宇宙ラボには国も投資しているからな」
平原はマニュアルを手にして、ラボのドッキングハッチに漂って行った。
「タカギ製薬さんのご協力に感謝いたします」
島井2佐は敬礼してからラボに入って来た。残りの二人の隊員は船外でレーザー砲の基盤を組み立てていた。
「この操作パネルを付けるにあたって、できれば電源の近くがよいのですが」
島井は船内作業服のポケットからゲームコントローラーのような操作パネルを取り出していた。
「それなら、あの冷蔵保管庫の隣が良いでしょう」
平原は島井の前に浮遊し、案内していた。
「あのぉ、下の状況はどうなのですか」
長谷川は怪訝そうな顔で島井を見ていた。
「かなりひっ迫しています。現代戦においては、数秒の内に勝敗が決まります。その前にやることがいろいろとあるのです」
島井は、早口で説明すると操作パネルのリード線をラボの電源とつないでいた。
「あれ、スペースデブリのサーチ画面に反応があるわ」
長谷川は何気なくラボのコントロールモニターを見ていた。
「この軌道には、まず飛んでこないはずなのにな」
平原が言っていると警報が鳴り出した。
『スペースデブリ接近、船外活動は中断してください』
SARAが言っていてる最中、鈍い音がしてラボの壁面に小さな穴が開き、空気が漏れだした。
平原は、すぐに補修パテのチューブを持って、空気が漏れる穴を塞いだ。平原と長谷川、島井をほっとした表情になった。
「隊長、杉崎准尉のヘルメットにデブリに当たり、あぁ。それに自分の袖にも穴が」
ラボ内スピーカーにもリンクしていた。
「大丈夫か。無理するな船内に戻れ」
島井は、ヘッドセットのマイクに叫んでいた。
「しかし、もう少しで船外作業が終わります」
「あいつ、俺が連れてくる」
島井はハッチに漂って行った。
平原はレーザー砲の操作パネルを壁面に固定させていた。
「島井さんたち、戻って来ないわね」
「そうだな。レーザー砲は使える状態になっているのにな」
平原は操作パネルの『スタンバイ』のLEDの点灯を確認していた。
「きゃぁ、あぁあれ」
ラボの丸窓の外にはフェイスプレートが割れた宇宙服と、血しぶきと空気を穴から噴射させている宇宙服が漂っていた。
「島井隊長、応答願います」
平原はラボの壁面マイクに叫んでいた。
「ぁぁ、後を頼み…」
壁面スピーカーから雑音交じりの微かな声がしていた。
「隊長…、」
平原はラボの壁面を叩いていた。
「何、これ自衛隊に協力すると殺されるんだわ」
「誰に殺されるんだ。窓の外に何か見えるか」
「接近してくる宇宙船があるけど」
「どこの船だ」
「漢字のようなものが書かれてるけど。赤い光が点滅しているわ」
「レーザーだ」
「白旗を挙げて降参しましょう。相手は本気よ」
「白旗を挙げる前にやられる」
平原は操作パネルの照準モニターで接近してくる宇宙船をロックオンした。
「チーフ、やめて。そんなことしたら、」
「隊長たちを見ただろう。どのみち殺される。やられる前にやるしかない」
平原は、発射ボタンを押した。
宇宙船に命中し、船体の一部に穴が開き、空気が噴出していた。
「奴ら、撃てないと思って油断していたな」
「あぁ、きゃっ、爆発したわ」
興奮気味の長谷川は丸窓から顔を離した。
「どうするのよ。これから。新薬開発とまるっきり違う仕事をするつもり」
帰還船のハッチに向かおうとする長谷川。
「このまま放って置いて逃げるのか」
「じゃどうするのよ」
「指示を待てとあるから。何らかの連絡があるだろう」
「いつまで待つのよ。タカギの本社に連絡したら」
「それが、一切交信ができないんだ。もしかすると、自衛隊の船なら」
平原は、自衛隊の船がドッキングしているハッチに浮遊していく。
平原は自衛隊船内に入ると、無線機のマイクに飛びついた。
「こちらタカギ宇宙ラボの平原、隊長たちはやられました」
「…おぉ、こちら航宙空自衛隊府中基地作戦本部。平原チーフ、生きておられましたか」
「はい。しかし隊長たちは」
「わかりました。それでは、タカギ会長の緊急マニュアルに従い、我々の指揮下に入ってください」
「は、はい。何をすれば」
「とにかく、レーザー砲でそのラボ、いや防衛ステーションを守り抜いてください」
「防衛ステーションで、ですか」
「日本の守りの要になります」
「しかし、私はド素人ですが」
「大丈夫です。SARAが連係してくれます」
「そうなんですか」
「当初からそういう設計になっています」
『無人機5機接近中。対処してください』
平原のヘッドセットのイヤホンからSARAの声が聞えてきた。
「とにかく頼みます。まだいろいろとやってもらいたいことがあるので」
「は、はい」
平原は、レーザー砲の操作パネルの所へ浮遊して行く。
平原は一番近くに接近している無人機に照準を合わせ、発射ボタンを押す。今度は避けられてしまった。無人機もレーザーを撃って来る。
「こんな所にいたら、殺されるわ」
「そうだ。自衛隊船のエンジンを噴射して移動しよう。ネガティブなことばかり言わず、協力してくれるか」
「わかったわよ」
「SARAの航法システムに自衛隊船のシステムをリンクさせてくれ」
「今やるから」
長谷川は手早くキーボードを叩き始めた。
「お、連射モードがあった」
平原は連射ボタンを断続的に押し始めた。無人機は一気に全部撃破した。
「やったぞ。ちょろいもんだな」
「でもチーフ、その赤いLEDの点滅は何」
「あぁ、それは電力不足だ。次来たら再充電完了まで撃てないのか」
「電気を使い過ぎると呼吸もできなくなるわ。注意してよ」
「それじゃ宇宙座標図の位置にいつまでもいるわけには行かないだろう。地表から650キロの軌道上に移動するか」
「チーフ、その650キロになんか根拠はあるの」
「思いついたたげだけど、たまたま、燃料が持つしな」
「できたら月の裏にでも行きたいくらいだわ」
「それこそ根拠はないし、無理だな」
平原はそう言いながら、ラボ=防衛ステーションを移動させ始めた。
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