第22話 変身! 歴代エナリアの昔話!

「よし。ここまで来たディ」


 ポポディは、宝物殿の入口までやって来た。鍵が必要だということは敵も分かっている為、国王の捜索を続けているのだ。宝物殿周辺には、ポポディの見る限り怪人は見当たらなかった。


「開けるディ〜」


 ガチャリ。慎重に。

 西欧の美術館のような宝物殿の扉を開けた。


「……わっ。びっくりしたディ」


 まず目に飛び込んできたのは。石像だった。ただの石像ではない。青い透明な宝石を削り出した、巨大な像。巨大と言っても、ポポディからしたらの話であるが。











「……そらここまで来たしなあ。アタシらエナリアの目的は『ウインディアに攻めて来た敵勢力の排除』やろ? その後の内政は関係あらへんし、知らんよ」

「ですわね。敵は同じようですし、やはり味方と言って差し支え無いのでは?」


 震えるララディの手を、握り返す咲枝と綾水。ララディはついに涙を流してしまった。


「……ありがとう、ございます……!」

「いやそんな、改まって言われるとなあ」

「あ。咲枝さん」

「ん?」


 ふと。

 綾水が思った。


「『怪人を倒す為に怪人と手を組んでいる』のが、エナリアからしたら反対されると、この王女様は思ったのではありませんか?」

「あー……。なるほどな。確かにその辺の『割り切り』みたいなんは、これまでのエナリアの『女子中学生の感覚』からしたら『大人の汚い判断』みたいな雰囲気あるかもな」


 これまでのエナリアは、ウインディアとエナジーアニマルに同情して喜んで戦ってくれた。つまり感性も、ウインディア国民と一致していると考えられてもおかしくはない。可愛らしいぬいぐるみが恐い怪人に襲われているなら。助けたいと思うのは、女の子からすれば当然の反応であるからだ。


「あんな、王女様。『怪人ワルモンにもえ奴はおる』みたいなんは、昔からあるんや。『怪人やから悪』やないねんやって、子供達も分かってんねん。『攻めてくるから敵』やねんて。……まあ、歴代のエナリアとかうたことないから知らんけど」

「それ、わたくしちょっと気になってるんですのよ」

「ん?」


 綾水が、そう言えばと手を挙げた。


「もしお時間ありましたら、教えて下さいませんか? 歴代エナリアのこと。『先輩』達のお話、聞きたいですわ」

「…………分かりました。マッツン」

「おう。この場は俺に一任されとるからな。まだ余裕あるで……ツン」


 マッツンは答える途中でリッサの視線を感じ、語尾を付けて話す。


「……では。現在あなた方は、『第3代目のエナリア』です。これは、エナリアと呼ばれ始めてから3代目ということです。初代エナリアが活躍したのは、異世界の暦で1970年代。現在ウインディアを支配している怪人達の組織と同じ『悪の組織』と戦いました」

「半世紀前かいな。あれ、妖怪とかポポは言っとったけど」

「エナリア、ではない名前で日本と手を組んでいたのではありませんか?」

「ポポも適当やからなあ……」

「――初代エナリア。名前は『戦木そよぎ恵那えな』。就任時は12歳。まだ小学生でした――」











「……初代の宝石像ディね。確かに、こうして見るとサキエより若いディね〜」


 その像は、エナジーアニマルではなく人間の少女の姿だった。咲枝達と同じようなフリフリの可愛らしい舞台衣裳、腕には輝くブレスレット。戦っているシーンなのか、顔は勇ましく険しい。しかし造形は整っており、誰が見ても『美少女』と答えるだろう。


「たったひとりで、頑張ったんディよね。おいら達の為に。……感謝してもし足りないディ」


 ぺこりと頭を下げて。ポポディは奥へと進む。











 ――確かに、1000年前のウインディア建国の際に、既に異世界ヒノモトとは密に関係を築いていました。当時はエナリアではなく、陰陽師であったり、武士であったりと、ヒノモトの名前をそのまま使っていたようです。

 ウインディアにはエナジーが豊富にあるが、攻め込むと異世界からの用心棒にやられる。その情報を使って、これまで外敵から身を守っていました。

 しかし、その効力も時間と共に落ちてきます。エナジーはこの世界では、地球で言うところの石油や電力、食糧のような位置づけですから。平和が続けば民は増え、消費は激しくなります。そうして奪い合い、併合と分裂を繰り返し。一大勢力となって、ウインディアに押し寄せました。それが第一次怪人侵攻。

 初代はこの危機に、颯爽と駆け付けてくれました。本当に。本当に心優しい、純真で無垢、清廉で潔白。何も見返りを求めず、何も文句を言わず。ただただ力の限り怪人達と戦い、ひたすらウインディアの為に働いてくださいました。


 エナジーウォーリア、略してエナリア。ですがこの命名には、『戦木恵那』という彼女の名前からも取られていると、教育係から教えられました。


 誰にでも優しく、元気で明るく。お友達も多く、常に皆の中心に居る人気者。非の打ち所がない才色兼備の『美少女』であったと、伝説に記述されています。勿論、多少の脚色はあるでしょうが……。やはり素晴らしい人物であったのは間違いありません。


「(そら、なんや知らん異世界の為に命懸けるくらいやからなあ。最強レベルにえ子やろな)」











「…………と。また宝石像ディ。これは2代目――いや。ミラージュ……」











 第一次怪人侵攻は丸1年の戦いになりました。4人の幹部を撃破し、親玉怪人と戦い、新たな幹部も現れ……。

 なんとか全ての幹部を打ち倒しましたが、親玉怪人は本当に強く。エナリアひとりではとても敵いませんでした。

 そんな時に、もうひとり。エナリアでは無いのですが、戦士が現れます。名前は『結城ゆうき理亜りあ』。彼女はブレスレットではなく、エナジークリスタルの原石に触れて覚醒しました。1000年前の伝説にある、『ミラージュウィンド』という戦士に。


「(あ、やっぱあんねや。エナリアかエナリアじゃないか議論がある、みたいな立ち位置の子)」











「……初代を支えた、こっちも凄い戦士ディ。このふたりの像が歓迎してくれるなんて、宝物殿は凄いディねえ。で、しかも隣には2代目ディ」











 ――ふたり合わせて『エナリア恵那理亜』。これが語源だと主張する方もいらっしゃいます。ミラージュも、普段は大人しい性格の、読書が趣味の女の子だったそうです。年齢は初代のひとつ下、当時は小学6年生。この時初代は中学校へ進学していました。

 ミラージュの協力もあり、エナリアはなんとか親玉怪人を撃破。悪の組織は解体され、散り散りに。ウインディアに平和が訪れました。


 それからしばらくの間は何も起こりませんでしたが。

 1990年代後半。またしても危機が、ウインディアを覆います。


 今度はエナジー目的の怪人ではなく。『エナジー自体』が悪意を持ち、襲ってきました。初代に倒された親玉『ダークオーラ』が死に際に、『暗黒エナジー』を放っていたのです。それを浴びたエナジーは汚染され、悪意を持つようになり、不定形の怪物としてウインディア中に拡散。さらには人間界にも進出し、人々を襲い始めました。


 この危機に立ち向かったのが2代目エナリア『大空かける』、『海野なみ』そして『花山りく』。3人の少女達でした。3人とも当時中学1年生で、大空さんと花山さんは同じ公立学校で、海野さんは私立学校でした。


「(えやん。楽しそうやわあ。アタシの中学時代とか柔道部しか無いねんけど。いやそれも別に面白おもろかったし悪くはないねんけども)」











「……おいらの世代は、この2代目の話をよく聞かされて育ったディ。3人の中で『誰が好きか』みたいな話題は常にあったディね。食いしん坊だけど元気いっぱいの『大空かけるエナジースカイ』ちゃんか、お嬢様だけど実は剣道部主将の『海野なみエナジーマリン』ちゃんか、読者モデルとしても人気な『花山りくエナジーフラワー』ちゃんか。まあおいらは、やっぱり大空かけるちゃんかディねえ〜」


 3体仲良く並んだ宝石像を眺めながら。ポポディが感慨深げに呟く。

 だがふと。


「……何を言ってるんだディ。おいらは。馬鹿ディか。サキエとアヤミがおいらの一番ディ。早くブラストブリングを、届けないと。これはおいらの仕事ディ!」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:初代は70年代か……。魔法少女モノのアニメが出始めた辺りか? その頃にガチ変身ヒロインやっとったんやな。


〈綾水〉:まだ白黒テレビの時代じゃありませんの?


〈咲枝〉:半々くらいちゃうかなあ。アタシも詳しく知らへんけど。


〈綾水〉:ネットもスマホもありませんわ。周囲だけ気を付ければ全裸姿が世界に流れることはありませんわね。


〈咲枝〉:そこやんな。ずっこいわあ。


〈リッサ〉:なんの話……?


〈みんな〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第23話『変身! いきなりボスの元へ!?』


〈咲枝〉:まあ、昔も今も全裸なんてこっちからしたらありえへんけどな。


〈綾水〉:違いありませんわ。全くいやらしい。

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