第6話 変身! 適合者を探せ! 動画大作戦!
「……えー。地球のみなさんこんにちは。おいらはポポディ、ですディ」
ポポディが、カメラの前で挨拶をしている。彼は緊張しているようだ。カメラや映像というものはこちらの世界に来て初めて知ったが、既にどういうものか理解しているようだ。
「もし、おいらの言葉が分かったら。連絡してきて欲しいんディ。おいらの言葉は普通の人間には分からなくて、特別な人間にだけ分かるんディ」
咲枝が出した案がこれだ。『エナジー』適合者かどうかの判断は、彼らの言葉を理解できるかどうかだった。彼女が実際に体験している。ならばポポディの声を、言葉を広範囲に発信すれば良い。
今は、それが簡単にできる時代だ。
「おいらがこのまま電話番号とメールアドレスを言うディ。おいら達は今、巷で話題の怪人達と戦っているディ。その為に、おいらの言葉が分かる人間を探しているんディ。力を貸して欲しいんディ。一緒に戦って欲しいんディ。この世界を守ろうディ」
カンニングペーパーを見ながらだが、気持ちはこもっていると咲枝は思った。思えば、彼らは故郷を既に支配されているのだ。必死になるのは当然である。
「――以上ディ。連絡お待ちしているディーっ」
ぺこりと、身体全体の半分もある頭を下げて、撮影は終了した。
♡
「SNSか」
「そうそう。ハッシュタグ付けて拡散や。今な、結構話題やねんで。アタシらのこと。テレビのニュースやとやってへんけど。まあそらあんだけ暴れたらなあ」
時間にして2分足らずの動画を、素早いタップ捌きで投稿していく咲枝。
「俺はあんまりやらんから分からん。若者の流行りは」
「そない言うたかて、空石さんも若いやんか。そう言えばいくつなん?」
「……28だ」
「
「うおっ」
空石の年齢に、咲枝は飛び跳ねた。空石は吃驚してコーヒーを溢してしまいそうになる。
「めっちゃ
「……何が良いのかさっぱりだがな」
「よっと。そない言うてる間に完了や。警察やなくてアタシの個人アカやけど。まあ拡散されるやろ。しばらく反応待とか」
「……緊張したディ」
「お疲れさん。ご飯にしよか」
♡
それから数日。
「あっ。おはようさん空石さん。なんか連絡来ました?」
「いや。そっちは?」
「いやあ、ワケわからん奴からのクソリプはめっちゃ来るけど、多分全部
「なんか、世界中においらの動画が出回るって変な気分ディ」
「一躍有名人やなポポ。いや有名ぐるみ」
「ぐるみって何ディ」
♡
さらに数日。
「オラァボケェ!」
――【
「ぐばっはぁぁっ!!」
「即座にエナジードレイン!」
「ぎゃぁああああっ!!」
「ジャージ!」
「あいよっ!」
「変身解除っ!」
怪人を倒す度に、動きが効率化されていっている。もはや咲枝にお色気要素など微塵もありはしない。戦いではなく、『仕事』。もはや作業と化していた。
「ふぅ。まあこんなもんやな。大体週5〜6で来てくれるから休みもあるっちゃあるし。
「油断はできないディ。もっと強い怪人も居るし、そろそろ幹部とかが出てきてもおかしくないディ」
「幹部て。悪の組織っぽいけど、
「分からないディ。怪人はずっと昔から怪人と呼ばれていて、悪さをするって認識と事実だけディ」
「まあ
「来てないディ」
「なんでアタシのスマホ勝手に弄っとんねんアホ」
「サキエが使い方教えてくれたんだディ!?」
♡
「……うーん」
「どうしたんディ?」
怪人を倒した、その日の夜。
咲枝の自宅にて。自分が変身している時の写真を見ながら、うんうんと唸っていた。ポポディも不思議そうに訊ねる。
「やっぱどう見てもキツいよなあて」
「何がディ?」
「戦闘服やって。23の女が着るフリフリの量
「まあ魔法少女みたいなものディ」
「アホ」
「ひどいディ。前から思ってたけど、サキエはなんか、文句ばっかりディ」
「…………う。確かにそうかもしらん。すまん。あんたかて故郷取り返すのに必死やのにな」
「そうディ。ダサいとかキモいとか、失礼ディ。サキエはフリフリ似合ってるって最初からおいらは言ってるディ」
「…………でもな、ポポよ」
「なんディ?」
「そらな。衣裳自体は
「何でディ? 別に良いディ」
「……
「サキエ」
「いや分かっとるよ? アタシが戦うんは皆を守る為やって。そやから戦えるって。やけど……。これ見てみいな」
「?」
「動画や。今日の奴。市民に撮られてアップされとる。なんやこのガニ股。ブッ細工な表情。アタシ、全然、キモいやんか」
「そりゃ必死に戦ってるから歯を食い縛って力は入るし足も広げるディ。そんなの全部おいら達や人間達の為で、全部格好良いディ」
「…………あんた
「なんか今日のサキエ変ディ。おいらを褒めるとか」
「たま~には、そういう日もあんねん。ポポ、今日何食いたい?」
「選んで良いディか?」
「
「ならおいら、焼き肉食べたいディ」
「おっ。
「やったディ!」
その、動画に書き込まれているコメントは。応援は貰って、批判や貶しは無視したら良い。幸い、咲枝は無視できる性格であった。今日よりうんと、落ち込まない限り。
♡
「来たぞ。春風」
「は?」
そして。
ポポディの動画を拡散し始めて、2週間が経った。それは咲枝が『エナリア』として活動を始めてから1ヵ月が経つことを意味していた。
「ポポディの動画の台詞を。日本語訳して完璧に復唱して証明した」
「!」
ここまで、順調に来ている。
「確実に『エナジー適合者』だ。今日の午後、署に来ることになった」
「マジか! やったでポポ! 仲間や!」
「やったディ! これで戦士がふたりになるディ!」
さらにここで変身ヒロインが増えるとなれば。ウインディア解放も近い。そんな気さえした。
♡
「よっしゃ今日はテンション高いでえぇぇっ!」
「ぐっ! 貴様エナリアぁっ!」
「遅いねんハゲ!」
――【払い腰】!!
「ぐっはぁぁあ!」
「エナジードレ……!
「ぎゃぁあっ!」
「あー、ちょい吸ってもうた。すまんすまん」
「サキエ! お疲れ様ディ!」
「おうポポ。ジャージサンキュ」
「貴様エナリアぁ! 許さんぞ! 必ず報復してやる! 貴様の家族は全員殺して、貴様はこの手で犯し! 怪人の子を産み続ける孕み袋にしてやるっ!」
「お前そんな台詞ニチアサでやったらアカンで
「やめっ! ぎゃぁあ! 正義の味方がこんなことをして良いのかぁ!」
「
「ぁぁぁぁあ!!」
「……流石に味方のおいらもドン引きディ」
♡
そして。
「…………」
「サキエそわそわしすぎディ」
「いや緊張するやろこんなん!」
いつもの応接室。『エナジー適合者』との待ち合わせの時間。
「入ってくれ」
「はい」
「!」
現れたのは。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:春風咲枝やで! って毎回なんなんこの挨拶? 何回ハイテンションで自己紹介すんのアタシ。
〈ポポディ〉:知らないディ。ていうか今週でふたり目のエナリア出てこなかったディ。
〈咲枝〉:それはもう
〈ポポディ〉:本当にサキエ的ディね……。
〈咲枝〉:どんな子やろか? 普通に変身ヒロインぽく13歳とかの子か? それともアタシより年上とかあるか?
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第7話『変身! ふたりめの戦士はお嬢様!?』
〈ポポディ〉:取り敢えず落ち着くディ。
〈咲枝〉:なんにせよ楽しみやわぁ!
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