第5話 変身! 覚悟を決めた咲枝!
「……貴様、エナリア」
都内の留置所に、ドラキュラ男が収用されていた。手錠をされて、ベッドに座っている。
「身体検査の結果、確かにこいつらは医学的にも人間じゃないことが分かった。だからと言って殺せないから、今はこんな対応だ。アニメのように倒せば爆発して消えてくれれば良かったんだがな」
三木が説明する。重苦しい雰囲気に、咲枝はたじろいでしまっている。
「ど、どないすんの? ポポ」
「『エナジードレイン』と唱えるんディ」
「なっ! や、やめろ! おいエナリア! それだけは駄目だ!」
その呪文に、ドラキュラ男は反応した。必死の形相になり、拒絶している。まるで、それを恐れているかのように。
「敵の言葉とか聞くかいな。『エナジードレイン』」
「っ!!」
咲枝は躊躇無く唱えた。するとブレスレットが光り始める。
「おっ?」
「ぐあああああ! おおおお! ちくしょおおおお!!」
同時に、ドラキュラ男が悶え苦しみ始めた。びくんびくんと返り打ち、なんども飛び跳ね、のたうち回っている。
「あああああああっ!」
そうして。ブレスレットの光に当てられたドラキュラ男は、光の粒となって消えた。
「…………うわあ」
一同はドン引きした。
♡
「怪人の身体は『エナジー』で出来ているんディ。ドレインすれば身体は崩壊し、消え去るんディ」
「それ先に言うて。あんなんグロやんけ……」
「ただし、その前に倒さないと駄目ディ。元気な状態だとドレインできないディ」
その日はそれで解散となり、咲枝の返事も保留となった。
翌日。休日であったが、咲枝とポポディはまた警察署にやってきていた。
場所はまた変わり、署内にある道場だ。普段は児童の教室や、署員の訓練を行っている場所。
「ほな、変身してみるけど。……空石さんと三木さんは出てってくれへんか」
「……ああ、分かった。そうだな。すまない」
「待て空石。実験なら誰かが確かめねばならんだろ」
「お前な」
「
「!」
我慢の限界だった咲枝が、ふたりを蹴り出した。
「全く。確認ならポポで
「まあ良いディけど。おいらも男ディよ?」
「ぬいぐるみに性別あるかいな。ほな行くで」
「なんか心外ディねぇ。まあ人間相手に欲情はしないディけど」
「ファンシーな見た目で欲情とか言わんといて」
ドラキュラ男から、『エナジー』を吸収した。その分を使って、変身時の光を強くする。そうすることで、一瞬全裸になるという咲枝にとって最悪のデメリットを解消しようという実験だ。
「ウインディア・レボリューション!」
ブレスレットが光る。3度目の変身。当然ながら着ていた服は弾け飛ぶ為、適当に安くて古い服を着て来ている。ベージュのトレーナーと、下はジャージである。
「うわっ。眩しいディ! 何も見えないディ!」
「えっ。
咲枝の感覚的には、前2回と変わらない。だが光の量は確かに多くなっている気がする。
そして直後に、戦闘用のフリフリ衣裳が身を包む。妙に身体にフィットする、ストーカーが作ったのかと疑うほどのサイズ感で。
「よし! 変身完了! どやった?」
振り向く。ポポディは目を半開きにしながら、グーサインを作った。
「なんっにも見えなかったディ!」
「よっしゃあ! これでクリアや! 空石さーん!」
「終わったか? どうだった」
「ほう。本当にただのコスプレにしか見えないな。ややキツめの」
空石と三木が入ってくる。咲枝は嬉しさを両手を挙げて表現している。
「コスプレとかやめてーな。これ
「怪人を素手でぶちのめす女とやる訳ないだろ。死人が出る」
「そんな褒めんといてーやぁ」
「……褒めたか? 今」
改めて。咲枝は空石と三木の目の前に立つ。
「ほな、『対怪人戦闘員』の件。受けさせて貰います。カッコはダサいけど、立派な国防や。アタシが戦うことで皆を守れるなら。ダサいコスプレもやります」
「!」
「ダサいとか言うなディ~」
自分の居場所を見付けたと。咲枝から笑顔がこぼれた。
「……空石。本人がこう言ってるんだ。お前は上司として、精一杯サポートしてやれ」
「…………仕方ないな。……ん? 上司?」
「お前ははもう『怪人対策本部』の部長だ。春風さんもそこに配属させる。もう話は通してあるぞ」
「……なるほど」
こうして。
「……ふぅ。ほなら今の会社辞めななあ。辞表とか書き方知らんわ」
「あっ。サキエ、気を抜くと」
「は?」
「あっ」
このご時世に、『23歳の変身ヒロイン』が正式に誕生した。
「もう最悪やあああ! やっぱやらんんんん!」
「それはひどいディ! 1回やるって言ったディ! サキエー!」
「うわあああん!」
変身(する度に服が弾け飛ぶ)ヒロインが。
♡
それから。
「世田谷区の住宅街だ!」
「任しとき! ポポ!」
「おうよ!」
「ウインディア・レボリューション!」
咲枝は変身の際は、もう躊躇無く叫べるようになった。強烈な光によって、裸体を公然に晒す必要が無くなったからだ。実際は、一度完全に全裸になるのだが。
「エナリアぁ! いつも邪魔しやがって!」
「邪魔はあんたやろボケコラァ!」
――【袖釣り込み腰】!!
「ぐっはぁぁあ!」
三木の作戦通り、常時交代で都内を巡回し、怪人の居場所を咲枝に報せる。その後すぐに現場へ向かい、撃破。この流れが完全に完成された。
「……ジャージ!」
「おうさ!」
そして、変身解除の際の全裸は、解除前に上から服を着ることで解決した。解除の際は弾け飛ばないのだ。格好としては少しダサいが、この方法が一番である。その為、巡回する警官とポポディは常に咲枝の替えの服を持つことになった。
「『全裸』が防げへん謎のルールなら、こうするしかないやろ。現実的に」
「まあおいら的には怪人を倒して『エナジー』を吸収できるならなんでも良いんディ」
成人女性が主人公である物語のお色気の需要の程は分からないが、それを知恵で乗り越えた咲枝であった。
「……『エナジードレイン』」
「ぐっ! あがっ! ぎゃあああああああっ!」
倒れた怪人の『エナジー』を吸収する。三木としては、怪人という未知の生物のサンプルは欲しいらしいが、あまり抱え過ぎても脱走の危険性がある。特に要望の無い限り、基本的には倒したその場で吸収することになった。
「しっかしいつ聞いてもヤバい断末魔やんな。なんか可哀想やわ」
「怪人に情なんか持っちゃ駄目だディ!」
「分かっとるわ。『ダディ』言うてもうとんであんた」
咲枝が『エナリア』として活動するようになって、早1週間。
「春風! 怪我はないか」
「空石さん! 今回もバッチシ一撃やで! 褒めてんか!」
空石は部下である咲枝を呼び捨てにするようになった。咲枝は相変わらず彼にデレデレである。
「なら良いが、しかし油断するなよ。普段の健康、食生活にも気を付けろ。お前が風邪でも引いたら」
「やーん、心配してくれてはるん? 優しいわあ空石さん!」
「……いや、単純に戦闘員がひとりという現状が」
「この部署も空石さんとふたりきりやし! こりゃいつの間にかってことあるで! ワンチャン!」
「…………はぁ」
アラサーの空石からすれば、咲枝はまだ若い。23など、社会人人生から見ればまだまだ赤子のようなものだ。
「まあ、やる気がある内は良いか。だが、手は打たないとな」
♡
「春風。ポポディと話がしたい」
「ん。はーい。了解や」
ある日。署内の対策本部にて、空石が咲枝とポポディを呼んだ。
因みに、咲枝は正式な警官ではない。今回の件で特別に雇われたイレギュラーである。
「おう、なんディ? ハッサク」
「なんか、普通に喋ってくれな混乱するわ」
「そこは頑張れディ!?」
ポポディについては、特に何とも扱われていない。重要参考人ではあるが、まだまだ未調査、未確定のことが多すぎるのだ。『春風咲枝の変身に必要である』という認識だけ、署員全員が持っている。
♡
「戦士を増やす、ディか?」
「ああ。ほぼ最優先事項と言っても良い」
なおこれ以降の会話は、咲枝による通訳を介しているものとする。何故ならば同じ台詞が倍になり、文量の無駄であるし読みにくいからだ。
「現状、怪人とまともに戦えるのは春風だけだ。それはよくない。負担が大きすぎる」
「それはおいらも思うディ。サキエは張り切って頑張ってるけど、ずっとこの調子は保たないディね」
「方法はあるだろうか」
「まあ、この世界に『エナジー』適合者がサキエひとりってことは無いだろうディから、怪人退治と同時に適合者探しもしていきたいんディ」
「そうだな。だがどうやって探す? ポポディはどうやって春風を見付けたんだ」
「サキエから話し掛けてきたんディ。他の動物と勘違いして」
「……あまり参考にはならんか」
「思い付いた」
「?」
通訳の途中で、咲枝が手を挙げた。空石とポポディは会話を止めて彼女に注目する。
咲枝はにかりと、歯を見せて笑った。
「良い方法、思い付いたで!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:春風咲枝やで!
〈ポポディ〉:やったディ! 一緒に頑張ろうディ!
〈咲枝〉:しかし、エナジードレインてグロいなあ。全然女児向け
〈ポポディ〉:そりゃ戦争なんだから当たり前ディ。
〈咲枝〉:いやまあそうやねんけど。
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第6話『変身! 適合者を探せ! 動画大作戦!』
〈咲枝〉:やっぱ変身ヒロインはふたりやんな。楽しみやで!
〈ポポディ〉:おいらも楽しみディ!
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