第3話 勇者の帰還

「良くやってくれた、勇者たちよ。これで我が国……いや、世界中すべての国に平和が戻った。この偉業を果たしたのが我が国の王子と民たちであることを、余は誇りに思うぞ」


「「「「勿体なきお言葉」」」」


 母国であるルネイサス王国へと帰還した勇者たち四人は、王城にて国王へと報告を行っていた。

 彼らを支援し、幼き頃より育ててきたフレイ王は立派に蓄えられた顎髭を揺らしながら、無事に務めを果たしてきた英雄たちを労う。


「して、此度のことで褒美を与えたいが……勇者。お主は何を望むか」


 労うには言葉だけでは足りないだろう。

 何と言っても、世界を救ったのだから。

 臣下たちに己の寛大さを示すためにも、国王は玉座の上から言葉を投げる。


 勇者レオナルドは少しだけ逡巡すると、跪いた姿勢のまま王の質問に答えた。


「――私はこのあと、未だ世界に蔓延り続けている魔王の眷属を掃討するための旅に出たいと考えております。ですので、陛下にはその許可をいただきたく。人類の敵であるモンスターたちをこの世界から一匹残らず駆逐し、民の安全を守ることこそが勇者である私の使命ですので……」


 本来なら爵位や金品を要求しても罰は当たらないレベルの功績だが、レオナルドは勇者としての役目をこれからも果たしたすことを望んだようだ。

 フレイ王も彼の勇者としての模範的な回答に、大変満足そうに何度も頷いた。


「はっはっは!! その心意気や、見事である!! お主はまさに勇者の鑑だな。――よかろう。余も其方の意思を尊重し、出来る限りの支援を致そうではないか」

「はっ、ありがたき幸せ」


 見事、王の許しを得たレオナルドは更に頭を低くすることで感謝の意を示す。

 周囲に控えていた王の臣下たちも、思わず心の中で彼に拍手を送っていた。


「ふふふ、よいよい。さて、次だが……よし、聖女はどうする?」

「はい。私も先代聖女である母の元で、教会の仕事を続けたいと思っております。魔王は斃れど、未だ心の癒えぬ民達は多いはず。聖女としてみなの平穏を祈り、私の魔法で癒して差し上げたいのです」


 聖女の落ち着き払った声が、それを聞いた者の心に染み渡っていく。

 彼女の美しい容姿も相まって周りからは女神の化身だと言われているが、何よりもその民を本心から想う優しさが彼女の魅力だと言えるだろう。


 前世では普通の主婦だったモナだが、世界が変われば人も変わるのかもしれない。

 今の生ではすっかり聖女としての振る舞いが板についていた。


「ふむ……こちらもさすが聖女と言ったところか。確かに民たちの傷付いた心は金や力では癒せぬだろう。よし、それも出来る限りの支援を致す」

「陛下の寛大な御慈悲に、心より感謝を」


 彼女は貴族ではないのでカテーシーではなく、教会お決まりの祈りのポーズで王に謝意を伝えた。


 理想通りの応対が続き、次の者にも期待が高まるというもの。

 だがモナの隣りに居たのは王が一番良く知っている顔であり、同時に彼の長年の悩みの種を抱えている人物だった。


「うむうむ。……で、だ。次は我が息子、ミケラッティオだが……」


 若干不安そうな面持ちの王に反して、ニコニコ顔で待っている王子ミケ。

 彼は自分の番が来たとばかりに、意気揚々と口を開いた。


「……はっ。僕も王族の一員として、世のため人のために何かをしたい所存。――と言いたいところですが、所詮は末っ子の王子。ぶっちゃけ兄上のスペア扱いですしね。そもそも僕には剣の能しかないんだし、騎士団に入って精々そちらで役に立ちたいと思います」


 自虐のような発言だが、これは彼も考えた末の希望だった。

 いくら英雄だからといって、不死ではない。

 魔王の次の怖いのは人間なのだ。

 下手に調子に乗って王位を狙いなんてしたら後ろ盾のない彼はあっという間に亡き者にされるだろう。

 身の丈をしっておくことは長生きの秘訣である。


「……あれだけ悪ガキで兄たちに嫉妬ばっかりしていたお前が、よくぞここまで立派に成長したな。余の愛する息子、ミケよ。お前のことは王ではなく、親として誇りに思うぞ」

「ははは、何だか恥ずかしいな。……ありがとうございます、父上」


 王族としてあまり普段から家族の交流が出来ない彼らだが、決して愛情が無いわけではない。

 それぞれが立派に務めを果たすことで、お互いを守っているのだ。


「さて、最後だが……」

「はいはーい!! アタシはお金!! お金がいいでーす!」

「ちょっと、リザ!! 貴女なんてことを!!」


 姉であるモナが止める間もなく、遠慮の無い発言をする魔法使いのリザ。

 天真爛漫過ぎて空気の読めないところがあり、これまでの流れをぶった切ってしまった。

 双子の姉妹であるのに、控えめで淑やかな姉とはまったく正反対の性格だ。


「ふふふ。リザは相変わらず素直で気持ちが良いな。――よかろう。リザだけでなく、そなたら全員には十分な報酬を与える。あぁ、そうだ。もうすぐ開催される女神祭に合わせて、国を挙げた盛大な祝勝会を行う予定だ。そちらも合わせて楽しみにしておくがよい」

「やったぁー!! 王様、太っ腹~!!」

「リザ!!」

「よいよい。今日はめでたい日じゃ。余も今から頭上にある重たい冠を外し、この国の民として思う存分飲み明かすぞ!! ハッハッハ!!」


 リザのとんでもなく不敬な発言も、今日ばかりは許されたようだ。

 王の気前の良い計らいに勇者たち四人は顔を見合わせ、ニッコリと微笑んだ。






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