第62話 スピリチュアルなGPS
「店にあの人が来た時」
ぽつりと慶次郎さんが語り出す。
「サークルの部長さんだということでしたので、この方も先輩と関わりのある方だと思い、とりあえず、偵察用の式神を一体飛ばしておいたんです」
うえぇ、いつの間に。
思わずそんな声が出た。
「あの、別にプライベートを覗き見るとか、そういう目的ではないですよ? ただ、一応というか、念のため、というか……」
「ほら、はっちゃん。どう? おっかなくない? こんなやつだよ慶次郎はさ。ストーカー気質っていうのかな。ねぇ、こんな危ないやつよりもさ、絶対俺じゃん?」
「だまらっしゃい、わいせつ神主」
「酷い! 痛い! ありがとうございます!」
どさくさ紛れにあたしの手を握って来た歓太郎さんを振り解いて、脇腹に軽く一発入れてやる。謎のありがとうを一旦無視して、続けて? と促すと、では、と慶次郎さんは頷いた。
「あくまでも、先輩の方の情報収集のつもりだったんです。その、恋人がいる、という情報は得ておりましたので、その辺りのことについて第三者目線でもう少し何かわかればと。ですが」
おかしい、と思ったのは、その二体の式神が、全く接触しないことだったという。
「はっちゃんの話ではよく一緒におられるということでしたし、はっちゃんの誕生日を祝うという話も聞いたので、ならばこれから打ち合わせでもするのかと思ったんですが、全く会う気配がなくてですね」
「電話とかも?」
「はい。それで、双方の式神を呼び戻して色々話を聞いてみたのですが、ここ数日、全くと言って良いほど二人は接触していないようでした。二週間ほど遡ってみても全く。ですから、果たして本当に二人で祝うのだろうか、と」
ここまで来るとさすがに慶次郎さんも何かがおかしいと思い始めたらしい。
けれども、彼は正直なところ、友達付き合いというのか、先輩後輩の距離感というのか、そういったものがわからない。その上、現代の通信伝達手段についてもかなり弱い。もしかしたらあたしの誕生日を祝うことは、式神をつける前から計画していたのかもしれないし、電話ならまだしも、メッセージアプリ関係でやり取りをされてしまえば、
まさか陰陽師にこんな弱点があるとは。
いや、これはたまたま慶次郎さんがそうだったってだけだけど。
何、現代の陰陽師ってやっぱりある程度のコミュ力とか電子機器系にも明るくないと駄目なの?!
そこで歓太郎さんである。
困った時に頼れるのは、高コミュ力且つ、現代の利器にも明るい兄貴というわけだ。
「馬鹿かお前、とっとと動け。たぶん、っていうか確実にはっちゃんが危ない」
その一言で、彼は、とにかく大量の式神(人の目には見えないver)を量産して、先輩と部長の方へ飛ばしまくった。少しでも怪しい動きがあったら知らせるように、と。それが今日の午前中のことらしい。
「お前はそっちに集中しとけ、はっちゃんの居場所は俺が見といてやる」
ということで、御神木を祀っている祈祷場で日がな一日、水の張ったお皿に浮かべた木片を眺めながら、お酒を飲みつつ神楽を舞っていた、と。
「はいストップ」
「何でしょう」
手をパーの形にして、慶次郎さんの前に突き出す。
「ちょっと情報が多い。いや、まだ式神云々までは良いよ。慶次郎さんがそれくらい出来るのは知ってるから。そうじゃなくて。何、飲酒しながら踊って、それであたしの居場所が何だって?!」
突っ込みどころが多すぎるんだよ!
「え? 仕方ないじゃん。ウチの神様、酒好きだからさぁ」
「そんなのいま初めて聞いたわ!」
「いや、だってイチイチ言わなくない? ウチの神様って酒と女と舞が好きなんだよね、って」
「女の部分は初耳なんだが?」
「しまった。口が滑った」
うん? 女……?
「もしかして、歓太郎さんの髪が長いのも、いっつも女の子向けのピン着けてるのも……?」
「あーそうそう。ウチ、残念ながら男兄弟だし、慶次郎は案外しっかり男顔だからさ、似合わないんだよなぁ。かといって、
「水に浮かべる木片もまた、御神木の一部――、はっちゃんのお守りに入っているものと根本は同じものなんです。それで、はっちゃんがどこにいるか、というのを逐一知らせてもらっていた、というわけで」
GPS!
何かすげぇスピリチュアルなGPS!
何、これ平安とかそういう時代では結構メジャーなやつなの? それを現代にも輸入した感じ?! ていうかだったらいっそこの中にGPS仕込んだ方が楽じゃない? いちいち飲酒して
いや、GPS仕込まれたお守りなんて怖いわ!
ていうか神主と巫女さんって兼任出来るの!?
「それでですね、実は、彼の悪事についても、気付いたのは歓太郎なんです」
「何、それも飲酒神楽で神様が教えてくれたっての?」
「飲酒神楽って。違う違う。見えたんだって」
「何が」
「ほら、店内カメラ。はっちゃんも一緒に見てたじゃん」
「え? ああ、あれね。ていうか、慶次郎さん聞いてるけど良いの?」
「歓太郎、店内カメラって何のこと?」
「やべっ。まぁそれはまた後でな。いまははっちゃんへの説明が先だ。――だろう?」
こいつ、話をすり替えようとしてやがる。おい慶次郎さん、騙されんな。「――だろう?」じゃねぇんだよ。今日イチの良い声出してんじゃねぇぞ!
「そうだな。うん、そうだった。はっちゃんに説明するのが先だ」
そんでしっかり丸め込まれてんじゃねぇよ、お前はよぅ!
こいつ兄に一生勝てねぇな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます