第31話 気づく想い

半信半疑の私に立飛くんはカバンを開けて見せてくれた。

 確かにカバンの中は立飛くんの言う通り、カメラは1滴の雫すら付いていない。


「だから言ったろ、カメラは大丈夫だって。それより四季島は大丈夫なのかよ? ずぶ濡れだぞ」

「え……たぶん大丈夫」


 その言葉に全身の力が抜けていってしまう。

 髪も濡れてしまい、制服も濡れて肌が透けてしまう程に。


「これ使えよ。その……濡れたままだと風邪引くから」

「あ、うん。ありがとう……」


 目をそらす立飛くんからタオルを受け取ると彼は何か飲み物を買ってくると言っていなくなった。

 私は向日葵の前にあるベンチに腰掛けて濡れた髪を拭いていく。

 そして雨に濡れた向日葵がとても美しく、綺麗に輝いていた為に私は思わず立ち上がり、向日葵に顔を近付けた瞬間「四季島、こっち向いて」と声がした。

 私は思わず振り向くとカメラを構えた立飛くんが居た。


 カシャ! とシャッター音が鳴る。


「え……えええ!? 撮ったの!? いま!?」

「あーうん。撮った」

「なして!? なして撮ったと!?」

「なしてって……普通に綺麗だと思ったから。夕日に染まる濡れた向日葵と濡れた四季島が」

「えええ!?」


 再び驚き声を上げてしまっては、私の顔は赤く染まっていく。


 そんな私を見ながら立飛くんは笑いながら自販機で買ってきたアイスミルクティーを投げ渡す。


「四季島の好みが分からなくて、適当に以前頼まれた奴を買ってきた。それで大丈夫か?」

「うん。ありがとう、立飛くん」

「どういたしまして」


 そう言うと立飛くんは向日葵の前にあるベンチに座り、自分の為に買ってきたであろう緑茶のペットボトルを開けた。

 そして私も無意識に立飛くんの横に座り、買ってきてもらったミルクティーを飲む。

 冷たくて甘いミルクティーが取り乱した私の心を落ち着かせていった。


「あ、あの……立飛くん。緑茶が好きなの?」


 いきなり私は何を言い出すんだ。突拍子もない質問に立飛くんが戸惑っているよ。


「まぁ。珈琲とか苦手なんだよね、俺」

「そ、そうなんだ」


 思わず自分の頬が緩んでいるのが見なくても分かる。


 立飛くんの好みが少しだけ知れて嬉しいと思っていると、立飛くんは真剣な眼差しで私を見て言う。


「四季島、さっきの話は本当なのか? 魔法が上手く使えないって話」

「うん……まぁ」


 自分で秘密を打ち明けてしまったのを思い出しては言葉を濁してしまった。


「もし良ければ、その……さっきの話を詳しく聞かせてくれないか? もちろん四季島が言いたくないならそれで構わないし、それ以上は聞かない。ただ……上手くは言えないけど、俺は四季島の力になりたいんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は上手く言えないが、妙な安心感と僅かながら嬉しさを感じた。


「いいの? 詰まんない話だよ」

「大丈夫」

「本当に本当に詰まんないよ……それでも聞いてくれるの?」

「ああ。四季島に何かしてやれる訳じゃないし、俺が聞いたからって魔法が使える訳にならないのも分かってる。だけど四季島の力になりたいんだ」


 立飛くん、それは間違ってるよ。


 あなたは「何かしてやれる訳じゃない」って言うけど、私には聞いてくれるだけで十分だし、聞いてくれるってだけでもうしてくれるよ。


 この中途半端な魔法使いである私にね。


 それから私は立飛くんに全てを話した。

 魔法が使えなくなった事、お母さんに言われた事、そして魔法から逃げて、この街に転校して来た事を。


 私は涙をこらえながら目を真っ赤にして話す姿を見せてしまうが、立飛くんは何も言わず……ただ黙って私の話を聞いてくれた。


 そして気付いた、私の想い。


 今まで気付かない振りをしていたけど、もう無理だよ……。


 私は立飛くんが好きなんだって気持ち。


 ああ、この時間が……この幸せな時間が少しでも長く続けばいいのにな……。


 ちょっとわがままな願いを思いながら、私は夕日の空から移り変わった夏の夜空に願った。


 私のカバンから最後の魔水が入った小瓶が床に落ち、床に広がる魔水が輝きながら消えていくのを知らずに。

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