第20話 星が降るこの街で
振り向くとカメラを持った立飛くん。
まただ……どうしてか立飛くんを見ると心が高鳴る。
「遅いぞ、隼。ちゃんと雲は晴らしといたよ」
美咲が指を指しながら指摘すると立飛くんはカメラを手に持ちファインダーを覗き込みながら私達に向けてシャッターを切る。
昔ながらのフィルムカメラではなく、コンパクトの一眼レフカメラ。そして電子シャッター音が夏の夜空に響いていく。
「悪い、パネルが完成間近だったから。と、言ってもまだあるけどな」
「なんだ、それじゃあ仕方ないか~ ……って、おい! いま勝手に撮ったでしょ!?」
美咲に指摘されて立飛くんは手持ちの一眼レフを見ては再び覗き込んではシャッターを切る。
「これも貴重な青春時間だからな。それにほら、こんな綺麗な画は撮らないとな」
き、ききき綺麗!? それって私と美咲が!? それって私だけ!? それとも美咲!?
私が1人で脳内パニックを起こしていると立飛くんはカメラを美咲に手渡して画面を見せてあげた。
「本当だ、ちょー綺麗! 碧も見て見なよ!」
美咲が手招きしながらカメラの画面を私に見せる。
そこに写っているのは私と美咲……そして私達の後ろに輝く夜景の街並み。
「本当だ……綺麗な夜景……」
思わず浮かんだありのままの言葉。
その画の中にいる私達以上に眩しい輝きを放つ街並み。
「ま、まぁ綺麗に撮れてるから盗撮では立件しないでおいてあげる」
ぼんやり頬を赤くしながら、少し恥ずかしそうに喋る美咲に立飛くんはカメラを向けてシャッターを切った。
「はいはい、まだ裁判劇の役が抜けないのか?」
「う、うるさい! あと盗撮するな!」
カメラを取り上げようとする美咲に対して立飛くんは片手でカメラを高く上げながら、もう片方の手で美咲を押えこむ。
単純に美咲の身長は私よりも少し低いから、私よりも身長が高い立飛くんには届かない。
そんな美咲を押えながら立飛くんが私に聞いてきた。
「これ四季島と美咲がやったのか?」
「う、うん。美咲と魔法の練習をしていたら失敗しちゃって……。この雲が晴れたのだって偶々だし……」
ありのままに喋る私。
下手に「私と美咲がやったの!」って、自慢しても仕方ない。
だって私は魔法が上手く使えない魔法使いだから。
そう、中途半端な魔法使いだから。
「そっか。けどちょっと羨ましいな。うちは母親が魔法使いだけど、俺は魔法が使えないし……」
「え?」
ちょっと寂しげに喋る立飛くん。
けど驚いたのは魔法使いの子供なのに魔法が使えないという言葉。
「美咲から聞いたと思うけど俺の母親は魔法使いなんだけど、どういう訳か知らないが俺は魔法が使えないんだ」
「そうなんだ……」
相づちを打つ様な返事。
気の無い返事に思われるかも知れないが、下手に返事しても嘘くさい。
だから今の私に出来る精一杯の返事。
「だから失敗しても魔法が使えるのは羨ましいな」
「そ、そうかな? ……。私だって美咲みたく上手く魔法は使えないし……」
一瞬、羨ましいと言われ素直に心が喜んでしまった。
だげど直ぐに自分に言い聞かせる。
私は中途半端な魔法使いだと。
まるで自分に掛ける呪文の様に。
「それでも凄いよ。2人の魔法のお陰で天文部の人達も喜んでるし。人を喜ばせるのは凄いことだから」
立飛くんが指さす方を見ると確かに天文部の人達が喜んでいる。
「本当だ……良かった、喜んでもらえて」
ふと口にした言葉に気持ちが込もってしまった。
もうどれくらい経つだろう……誰かに魔法を喜んでもらえたのは。
まるで忘れていた感情を取り戻したかの様に微笑んだ瞬間。
カシャ! っというシャッター音。
立飛くんを見ると私にカメラを向けていた。
「えええ!? た、立飛くん!? いま何したと!?」
「何って四季島を撮った。良い顔してたからな、ほら」
思わず語尾に博多弁出てしまった私に立飛くんはカメラの画面を見せてくれた。
そこに写るのは天文部の人達を見ながら微笑んだ私の顔。
「四季島は難しい顔してる時が多いけど笑顔が可愛いよ」
「か、かかか可愛い!?」
初めて男の子に可愛いと言われた私。
心拍数が大波の様に波打ってしまう。
全身が熱くなり、顔や耳が熱くなるのが手に取る様に分かる。
頭のてっぺんから湯気が出ていないかと心配してしまう程に。
「四季島は笑顔がよく似合う女の子だよ」
「そ、そうかな」
ちょっと照れてしまうが、なんで立飛くんに言われて嬉しがってるのよ私!
甘い青春の時間が流れていると美咲が急に咳払いした。
「隼、早く星の写真を撮らないと朝になるよ。それと碧、私ちょっと茜に呼ばれたから行くね。魔法の練習はまた明日といい事で! ではでは~」
「え、ちょっと美咲!?」
私を見ながらニヤニヤしては消えてしまう美咲。
取り残された私と立飛くんに何とも言えない雰囲気が。
「四季島は大丈夫なのか? 文化祭準備があるなら……」
「だ、大丈夫。私入部したばかりで何も決まってないから」
「そっか……じゃあ星の写真を撮るから良かったら手伝ってくれないか?」
ちょっと間を空けながら言った立飛くんは肩に掛けたバックから3脚を私に差し出した。
私も私で直ぐに。
「うん……うん!」
気の無い、か細い返事を言い直して気持ちを込めて返事する。
たとえただの手伝いだとしても立飛くんと少しでも隣にいて、少しでも話したいと思ってしまった。
この気持ちが何かはまだ分からないが、今は素直に立飛くんの隣にいたいと心が願ってしまう。
そして私と立飛くんの真上に輝く夜空の星の1つが流れ落ちていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます