第7話 2人の共同魔法

夕飯を食べ終えた私と美咲はそのままお風呂に行き、美咲の言う「女子トーク」というものに花を咲かしていた。

 もっともお風呂に入る為に着替えている最中、美咲は「私の服が着れるか採寸採寸♪」と言ってやたらと体に触ってきて引き離すのが苦労した。


「ね~いい加減に機嫌直してよ、碧。ちょっと触り過ぎただけじゃん」

「ブクブク……知らんと」


 湯船に浸かりながら顔を半分沈める私に美咲は必死に取り繕うとするが取りつく島もない。

 体育座りしながらお湯に浸かる私の向かいに美咲が湯船に足を入れ、私の心に触ろうとする。


「ねぇ、碧。さっき言っていた事なんだけどさ……碧のお母さんって入院してるって本当?」

「……うん。私が小さい頃に具合が悪くなって、一回検査を受けたの。暫くして入院したんだけどお父さんはお母さんは疲れただけだよってしか言わない……」

「そっか……」


 それ以上美咲が聞く事はなかった。


 ――いつもの美咲なら答えを聞くまで諦めないのに――。


 そう心に思った時、私は無意識に誰かに聞いて欲しかったのかもと思った。

 誰かに言って、誰かに聞いてもらい、誰かの優しさが欲しいと。

 そう考えると随分自分は嫌な人間なんだと嫌悪感が湧いてしまう。


「美咲、私のお母さんは魔法が――」

「ハイ、スト~プッ!」

「え!?」


 つい誰かの優しさが欲しくて心は嫌がっているのに無理矢理にでも真実を話そうする私の口を美咲の人差し指が優しく触れ――。


「いいよ、無理に言わなくても。誰にだって言いたく無い事の1つや2つはあるからさ。たとえ家族でもね」

「で、でも……」


 それでも言おうとする私の体を美咲は優しく抱きしめて思いを伝える。

 色褪せた私の心に響く様に。


「碧が聞いて欲しい時に言えば大丈夫だよ。その時は全力で受け止めるからさ。碧の心の声をね」

「……うん」


 美咲の言葉に私の色褪せた心に優しさが染み、またも私の瞳に思いの結晶が滲み出てきてしまう。


 ……ありがとう、美咲。


 いまの私を優しく抱きしめてくれる美咲。


 美咲の優しさに何度救われただろうか。


 そんな美咲の優しさを噛みしめていると私のお尻を何かが触ってきた。

 それは美咲の手。

 まるでなぞる様に触ってくる。


「ねぇ、ちょっと何で触ってるの……」

「え? いや~碧って良いお尻してるなってさ。無駄なモノが少ないのにプニプニしてるし、実に触り概があるって……あれ、碧さん?」


 私は顔を真っ赤にしながらプニプニならぬ、プルプルと体を震わせていた。


「美咲! せっかくの雰囲気が台無しばい!!」


 思いっきり美咲を湯船の奥底に突き飛ばす。

 出来ればマリアナ海溝よりも奥深くに沈めたかったが、家のお風呂だと浅い為に直ぐに浮かび上がる。


「ぷはッ! 良いじゃん減るもんじゃないしさ。あ、なんだったら私のお尻も――」

「触らんけん! 止めてよね、くすぐったかっちゃけん」

「ほほ~う。可愛い方言でくすぐったいと言われたらもっと触りたく――いっ?!」


 調子に乗った美咲が指をワニャワニャと小刻みに動かしながら近づくが睨み付けて動きを止める。

 流石の美咲もこれ以上はヤバいと察したらしい。


「あはは、ごめんごめん。お詫びに私、偉大な魔法使い美咲様の魔法を見せてあげるから許してよ」

「自分で偉大な魔法使いって……」

「い、いいでしょ別に! 将来はそうなんだから細かい事は気にしない気にしない。あはは」


 いつもの様に笑う美咲。

 お風呂場の電気を消す様に言われ、私が消すと美咲は深呼吸しては私たち魔法使いが使う魔力を秘めた魔水まみずが入った小瓶を手のひらに滴し言霊を語り始めた。


「……我、汝星達の僕なり。汝、星々の輝きで闇夜を照したまえ。我の道を照さんことを!」


 その瞬間、私と美咲の居るお風呂場の壁がまるで夏の夜空に出でくる星達の輝きに道満ちていった。


「すごい……すごいよ、美咲」

「まだまだ、湯船に入ってみなよ」


 湯船に浸かると水面に波紋が立つ。

 すると壁で輝いている星が1つ、また1つと私達が使っている湯船や床に流れ星として流れ堕ちていく。

 流れ星が水面や床に堕ち、一瞬だけ光がふわっと広がり、夏の夜空の下にいる私達の居る空間を優しく照らす。

 星が終える時に放つ、一瞬の輝き。

 その輝き私は思い知らされた。


 魔法はやっぱり凄い。


 お婆ちゃんが言っていた。


 魔法は人を笑顔にするって。


「ほら、碧もやってみなよ。簡単だからさ」

「だ、ダメだよ。私には――」

「へーきへーき。私と一緒にやれば大丈夫」


 美咲にそう言われ、不思議と私はチャレンジしたくなっていた。

 魔法なんてろくに使えないのに何を考えているのだろうと自分でも思ってしまう。

 だけど今この瞬間に広がる景色を見て、私でもやってみたいと。

 この未熟な魔法使いでも。


「よ~し、次は流星群をやるよ。碧、私が言霊を吹き込むから後から付いてきて」

「わ、分かった。頑張る」


 美咲が私の両手に魔水を滴し言霊を吹き込む。


「我、汝星達の僕なり。汝星々の輝きにて我に光の道を示したまえ」


 美咲の後に続く様に私も言霊を吹き込んだ。

 すると魔水はキラキラと砂の様に輝きが乱反射し、美咲が両手を高く……空に咲かせる様に両手を広げては輝きを振り撒く。

 私も真似する様に両手にある輝きを振り撒いた。

 輝く星々は空高く舞い上がり、そして本当の流星群の様に輝きを放ちながら堕ちていく。


「出来た……私出来たよ、美咲!」


 まるであの時の私みたいに無邪気に喜び、そんな私を見て美咲は屈託の無い笑顔を私に向ける。


「当たり前だよ、碧。なんたって碧と私はお婆ちゃんの孫なんだから。碧は凄い魔法使いになれるよ、私が保証する」

「そ、そうかな。えへへ……」


 美咲に褒められて嬉しくなってしまう。

 ……もう最後に魔法を使ったのはいつだろう?

 お母さんに元気になってもらいたくて魔法を使っては怒られ、お母さんが入院して魔法が使えなくなってしまった。

 そんな事を考えていると1つの流れ星が堕ちたのだが、堕ちた瞬間なぜか火花を散らす。


 ……え?


 次々と堕ちては火花を散らし、中には花火みたいに花を咲かす。


「み、美咲? これって……」

「メンゴ! 失敗だわ」

「へ……失敗?」


 美咲がテヘってやった瞬間、星達が堕ちては花を咲かすどころか花火みたいに爆発。


 ヒュー……ドンッ!! パラパラ………。


 花火と同じ音を響かせながら次々と爆発していく流星花火。

 まるで花火大会みたいに盛大に炸裂しては、爆発音を響かせていく。

 しかも床に堕ちた流星花火が散った後は床が黒く焦げている。


「碧! お湯! 床にお湯かけて!」

「えええ?!」


 美咲の合同魔法は見事に床を焦がしては湯船のお湯を空っぽにしてしまい失敗してしまう。

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