第9話 4 もう一人の友人
丸山武は、ふと予備校時代の友人の事を思い出した。目立たない人物だ。然し、いつも一緒に居た筈だ。近藤勇二。強そうな名前だが、やたら弱い。
「連絡先か、調べたところで解るだろうか?」
兎に角、実家に電話を掛けてみよう。丸山は病室を出てから自宅へと直帰し書斎にある木製の机に座ると、過去の日記や手帳を入れてある引き出しを開け、学生時代のアドレス帳を探した。学生時代、両親と同居していた近藤の実家の住所と電話番号が分かった。夜八時、電話をかけるには遅い時間ではない。丸山は近藤の実家に電話をかけてみた。電話には近藤の母親が出てきて、理由を説明すると丸山の事を直ぐに思い出してくれ、快く息子の今の家の電話番号を教えてくれた。メモに書いた電話番号を見ると近藤は関西を離れていないようだった。それだけで何故か嬉しくなり、早速電話をかけてみたくなった。ただ普通にかけても面白くなさそうなので、近藤が電話に出たら自分が誰か当てさせようと思った。丸山は気持ち悪い独り笑いをしながら、電話をかけてみた。果たして電話の向こうの声は男であった。
「もしもし、近藤ですけど」
「おー、近藤か。俺や俺、俺やん」
「もしもし、どなた様でしょうか?」
「せやから、俺やって、俺、俺」
「あのー、お金に困っている人ですか?」
「アホか、誰が困ってんねん。俺や、丸山や」
「どちらの丸山さんでしょうか? えー、えっ、たけやん?」
「思い出したか! 俺や」
「えー、久しぶりやん。ていうかー、めっちゃ久しぶりやん!」
「勇二、元気やったんか?」
「めっちゃ元気やったで、たけやんも相変わらず元気そうやん」
「当たり前やろ、俺が元気無くす訳ないやろ」
「ほんまやー、たけやんやー、変われへんなー、さすがやー、たけやんやなー」
「お、お前、どないしてん? 何んか声潤んでへんか?」
「何んか久しぶりすぎてなー、たけやん何んも変わってへんねんもん、何んかええわー、たけやんのそういうとこなー、何んか好きやってんなー」
「何んか俺、何んか気持ち悪うなってきたわ、早速やけど本題に移らしてもらうわ」
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