第4話 3 とある洋菓子店
私は、梅本と別れると丸山の御令嬢のお見舞いに行くことにした。
理由は梅本が、今日は丸山は仕事が休みで病室には娘さんと丸山しかいないと聞いたからであり、更には、「会いたがってたぞ、お前に」と言われれば断る理由もなく、というか丸山とは卒業後、殆ど会っていなく、今では住所も電話番号も知らない。
御令嬢はびっくりするのは当たり前だろうが、病院も此処からならさほど遠くないので街の散歩がてら御令嬢のお見舞いという強引な理由を付けて丸山に会ってみようと思った。
夏の終わりに近い街路は、長袖のシャツで歩いていても汗をかくことも無く、風も程良く気持ちが良い。
そして此の、程良く気持ちの良い季節は短く、あっという間に秋を連れ去って冬支度を始める季節へと運んで行く。
私は、見知らぬ街中を総合病院へと歩きながら街路樹や立ち並ぶ店などを見ていた。すると、とても可愛いケーキ屋さんを見つけた。
よし!決めた。
ここでお見舞いの品を買って行こう。
そう思って店内に入ると、なんと並んでいるケーキまで可愛いではないか。
よし! 選択に間違いなし。
店の構え、店内の雰囲気、並ぶケーキ、私の好みにズギューンときた。
其のような日本語の表現が有ればだが。
私は、ショーケースを見つめながら品定めをした。
何とかショコラ? なんか幾つか種類があるな? よし!これだ。
ショコラさんの中でも一番輝いて見える。
「すみませーん、ガトーショコラをひとつ」
そして次は、と、これだ、名前がいい。
「それと、オペラをひとつ」
で、と、ザッハトルテ、うーむ、発音しづらいというか、ドイツ語っぽいというか、ドイツ語なんだろう。
「あのう、ザットハルレもください」
「はい、ザッハトルテですね」
市木清田は相手の訂正を全く聞いていない。
でと、確か丸山家は3人家族だと聞いていたが、紳士たるもの余分に買っていくのが身だしなみというものであろう。
(これは? ブッシュ・ド・ノエル? なんか聞いたことがあるぞ。そーだ、クリスマスの歌、ノーエール、ノオーエール、如何にもめでたそうじゃないか。上品腫瘍で良かったな! ということで)、
「すみませーん、最後にブッシュ・ド・ノオエルでお願いします」
「かしこまりました、ガトーショコラおひとつ、オペラおひとつ、ザッハトルテおひとつ、ブッシュ・ド・ノエルをおひとつ、の合計4点でよろしいでしょうか?」
「はい、四つで結構です」
私は精算を済ませ店外に出ると振り回せば吹っ飛んでいきそうな軽い小箱を左手に待ち、ゆっくりと総合病院へと歩を進めた。
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