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Nora
01話.[残念ながら事実]
「んーむ」
ハヤシライスかカレーにするかで真剣に迷っていた。
いつまでも店内にいるわけにはいかないからさっさと決めなければならないわけだが、どっちも美味しいから先程からずっと悩んでしまっていることになる。
「ありがとうございました」
でも、結局そのどちらも買わずにお会計を済まして店外へ。
「ただいま」
「……遅いよ」
「ごめんごめん、いまから作るから」
買ってきた食材を早速消費してご飯作りに励む。
できたらふたりで食べて、食べ終えたら先にお風呂に入ってもらうことにした。
こっちは洗い物をしたり、取り込んでくれていた洗濯物を畳んだりする。
「あ……兄貴」
「うん? どうしたの?」
「明日のお弁当は作らなくていいから、友達が作ってくれるみたいだからさ」
「分かった」
忘れそうだからしっかりボードに書いておこうと決めた。
妹はそれだけだったらしく「おやすみ」と言ってリビングを去る。
こっちも早くお風呂に入って課題とかをやらなければならないから少し急いだ。
母はいるが、たまに遅くなるときがあるからちょっとあれかなと。
朝は自分がやると言ってあるから別に不満はないけども。
「ふぅ……」
兄妹で仲良くやれているのかが分からない。
母の前でだけ仲良しを演じる子というわけではないから、別に不仲というわけではないのかもしれない。
ただ、こっちが先程みたいに遅くなったりしたら文句を言われてしまうからなあと。
ずっと前からこれが僕にとっての当たり前ではあるが、中々に大変だったりもするわけで。
「ただいまぁ……」
「おかえり、ご飯温めるよ」
「ありがとぅ……」
というか、母と会話しているところを最近は見ていないから心配だ。
朝もそう、一緒の空間にいてもスマホをいじっているばかりで微妙だから。
「ぷはぁ! やっぱりお酒は最高っ」
「明日も仕事なのにいいの?」
平日に飲むのは少し意外だった。
これはもしかしたらなにか嫌なことがあったのかもしれない。
「明日はお休みになったんだ」
「そうなんだ? じゃあゆっくり休んでね」
「ありがとう! ……って、いつもやらせちゃってごめん」
「いいんだよ、これぐらい当然だよ」
子どもだからやってもらって当たり前、なんて思考では駄目なんだ。
小さい頃は仕事をやりながら家事も全部してくれているところを見てきたから、このままでは駄目だと考え直すきっかけになった。
最初はそれこそできないし、母からしたらひやひやするようなレベルだっただろうが、いまとなっては少しだけでも頑張ってくれている母のために動けることを嬉しく思っている。
なにか見返りが欲しくてしているわけではないからお金とかも貰っていないし、それが負担になっていることもないはずで。
「あ、お風呂もまだ温かいから」
「はーい」
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
まだまだ時間は一応あるから課題をゆっくりやっていく。
それで課題を終わらせたところで妹が部屋に入ってきた。
当たり前のようにベッドの端に座るとこっちを見てくる。
「
「特に理由はないよ、それにタイミングが合わないだけだし」
……妹の中ではそういうことになっているらしかった。
母からおはようと言われても無視するメンタルは真似できない。
真似なんかする必要もないけども。
「いまはどうして来たの?」
「寝るまで暇だったから、兄貴はまだまだ起きているだろうから相手をしてもらおうと思っただけだよ」
「そっか」
そこで僕に相手をしてもらおうとしている時点で不仲……ということはないのかな?
やっぱり家族なら、兄妹なら仲良くできていた方がいいに決まっている。
「それより友達って女の子だよね?」
「ん? いや、男子だけど」
「え、男の子がお弁当を作ってくれるの?」
「うん、上手な子なんだよ」
だったらそっちに頼りたくなるのも無理はないかと片付けられた。
僕のそれなんて我流でできる範囲でしかしていないから飽きられるだろうし。
王道な感じに仕上げているだけで新鮮味がないから仕方がないな。
「って、もう何度も食べさせてもらっている感じなの?」
「いや、調理実習のときに一緒の班だったからかな」
なるほど、確かにそれでなら効率のいいところとかも見ることができるか。
メインにやってくれたということなら味とかも分かりやすいだろうし。
妹は逆に作れるのかが分からないぐらいの実力だから格好良く見えるのかも。
「兄貴はどうなの? あの人とまだ仲良くしてるの?」
「それが残念ながらクラスが別々になってからまだ一度も話していないんだよ」
多分、この先も変わらないと思う。
その気があれば四月後半や、五月のテストが終わってからでも近づけるわけで。
でもまあ、仕方がないことだとこれも片付けられることだ。
誰と過ごそうが自由なんだからとやかく言われる謂れはないというやつだった。
「珍しいね、中学のときはずっと一緒にいたのに」
「そんなものだよ、あ、だけど全員が全員そうというわけじゃないからね? 葉はその男の子とか他の子と仲良くし続けられると思うよ」
「……そうかな?」
「うん、嘘をついたりしなければ絶対にいてくれるよ」
実はこっちのそれは僕が嘘をついて終わらせたようなものだから偉そうには言えない。
だけど、いちいちそんなことを言う必要はないからこれでよかった。
「おはよーさん」
「あ、おはよう」
結構早い時間に起きるのに登校時間は遅らせているからこれも珍しいことではなかった。
佐藤
別々のクラスで、あの子と同じクラスだからこれをきっかけになにかが変わりそうかと思えばそうではなく、あくまでずっとこんな感じだった。
「放課後になったら
「分かった、あ、久から言われた方が嬉しいだろうから言っておいて」
「おう、それじゃあまた後でな」
極端な人間だから来るときは来るし、来ないときは来ない人間だ。
朝と放課後の二回だけ、あと、彼の場合は部活があるから会うにしても夜になる。
今日は母も休みだからこの前みたいに遅いとか言われることはないから安心かな。
何気に彼のことを気に入っているからきっと喜んでくれるはず。
あ、だけど仲のいい男の子がいるみたいだから分からないか。
そっちに意識が完全にいっていたら……。
「よう、いちいちここで待ってなくたってよかったのに」
「お母さんがいるから早く帰っても邪魔にしかならないからね」
とにかく、喜んでもらえるように行動するしかない。
だけどあれだ、いまこんなことを言ったけど十九時まで待っているというのも退屈だった。
ここまできてやっぱり行かない~なんてことにならなかったからまだよかったものの、もしそうなっていたら涙目でひとり帰ることになっていただろうなと。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
母や葉とはもう何年も関わりがあるから少し空気が読めないけど任せることにする。
こっちは制服から着替えたり、ご飯を食べたりすればいい。
遅れた場合は待たないでいいと言ってあるから問題にもならない。
「まだ兄貴といたんですね」
「当たり前だ、相当な理由がない限りはこのままだよ」
「でも、兄貴は久さんとは全然違うじゃないですか」
「そりゃまあ俺と陸は他人だからな、一緒だったら寧ろ怖いぞ」
妹は気に入らないから止めたいのか、彼が来ると毎回こういうことを言う。
その度に彼はこういう風に答えて、話題を無理やり変えるから彼的には言ってほしくないことなのかもしれない。
友達思いの人間だから嫌なのかもね。
それに、切るなら誰かに言われなくても自分で切るって考えているのかも。
「ごちそうさまでした」
母はどうやらもう寝てしまっているだから洗い物なんかもやってしまうことにする。
最後だからお風呂掃除もしてしまえばかなり楽になるから、悪いことばかりじゃない。
ただ、それをしてから戻ってきてもまだ家にいる彼は大丈夫なのだろうか?
部活をしてきたのなら尚更お腹とかも空くだろうし、彼のご両親も不安になるだろうから早く帰った方がいいと思う。
「久、まだ帰らなくていいの?」
「今日は泊まっていくわ、こういうときでもないと葉と喋れないからな」
「……私は別に求めていませんけどね」
「嘘つけ、顔に嬉しいって書いてあるぞ」
「どこの世界の私ですかそれは……」
んー、こうなるとごちゃごちゃになってくるなあと。
お弁当を作るぐらいの男の子と、多分その子よりも前からいた彼と。
受験生だから恋愛なんてしている場合じゃないだろうが、それでも、女の子としては魅力的な同級生や先輩なんかが気になることだろう。
……あ、いやまあ、妹のそんなことを気にして考えている自分は間違いなく気持ち悪いが。
「じゃ、僕はもう部屋に戻るから」
「おう、風呂とか入らせてもらうわ」
「あっ、さっき洗っちゃったんだよね……」
「あー……それだと使わせてもらうのは悪いよな」
「あ、いや、いいよ、どうせ僕が担当なんだからさ」
部屋に戻ってベッドに転んでから妹といることを避けているのかもしれないと気づいた。
毎回文句を言ってくるわけではないが、痛いところを突いてくることもあるから。
もちろん、それだけではなく空気を読んだところもある。
それが妹にとっていいことかは本人しか分からないことだが。
電気を点けずにそんなことをしていたせいで寝落ちしてしまった。
喉が乾いたから一階に下りてみたらまだ喋り声が聞こえてきて静かに戻った。
いつもだったら気にせずに入っているのだが、残念ながらできそうになかったからだ。
……だってあれは明らかに……。
「寝よう」
明日も早いし、またお弁当を作ったりしなければならなくなるから仕方がない。
元々夜ふかしをするような人間ではないから、特にそれ以外は不都合なことはなかった。
「いやでもこれはなあ……」
自分の妹と親友と言えるぐらいの存在がああいうことをするというのはなんとも……。
今朝だって話しかけられたのにいつも通り対応することができなかった。
泊まることは結構あったが、そのどれか、いや、どのときでもああいうことをしていたと考えるともうなんかごちゃごちゃしてくる。
いや、別に誰とそういうことをしようが自由だ。
お互いに好き同士なら間違いだとは言えない、言う権利もない。
そもそもあれは寝落ちなんかした自分が悪いという見方もできる。
だからってなあ、せめて完全にふたりきりのときだけにすればいいのに。
あ、まあ、やっていることはキス程度のことだが……。
「陸」
「……なに?」
「おいおい、朝からなんか冷たくねえか?」
「これが普通だよ普通」
目視したわけではないのが救いか。
もし目にしていたら間違いなく飛び出していた。
あまりに非現実なそれに文句も言っていたことだろう。
普段からもっと会いたいということならこちらも考えて行動するつもりでいる。
例えば時間を決めてくれればその間は外で過ごすとかそういう風に。
「それより眠たくないの? いつも朝練とかあるけど」
「好きだからな、全く気にならないぞ」
「すごいね。いまだから慣れているけど、僕なんてちょっとでも早起きしたら眠たくなっていたからね」
「まあでもそんなものだろ、俺だって最初の頃は睡魔に負けそうになったこともあるぞ」
少し寝すぎてちょっと怠かったからそれを利用して戻ってもらうことにした。
何度も言うが、相手が求めている状態でするのは自由だ。
妹が誰と恋をしようがそれもどうでもいい。
僕が言いたいのは家でやらないでほしいということだけ。
最悪、部屋でしてくれれば逃げられるからするのはそこでしてほしかった。
「村上君」
「ん……? え……」
顔を上げたら目の前に見慣れた顔が……。
あれだけ来ていなかったのにどうしてこうなったんだろうか。
「今日の放課後は予定を空けておいて」
「え、あ、忙しくて無理かな――」
「お買い物にも行かない日でしょう?」
「はい……分かりました」
そういうわけで放課後までそわそわしながら過ごすことになった。
苛められていたとかではないが、できる限りいたくないというのが正直なところ。
だって最後は泣かせてしまったし、叩かれてしまったから。
大嫌いとまで言われてしまったからあのときは自業自得とはいえかなりダメージを受けた。
「村上君」
「……もう煮るなり焼くなり好きにしたらいいよ」
「なにを言っているの? いいから来なさい」
で、僕らは何故か久が活動しているところを見ることになった。
もしかしたらこれは泥沼化の流れかもしれない。
だけどあのふたりはもう抱きしめ合ったり、キスをしたりする関係だ。
今更頑張ったところでどうにかなることではないし、流石に久は浮気をしたりする人間ではないから諦めた方が絶対にいい。
「佐藤君って元気よね」
「うん、だけど恋愛対象として見るのはやめた方がいいかと」
「え? あ、もしかしてこうしているから私がそういう風に見ていると思っているの?」
「うん、久はモテるからね」
告白を断っていたのもそういうことだったのかといまなら納得できる。
正直、葉より魅力的な子ばかりから告白されていたんだけどね。
ただ、彼の性格的にこの子! と決めていたらそれ以外には毅然と対応できるタイプだからおかしいことではなかった。
「それはないわ、確かに一緒にいる時間は長いけれどね」
「僕と同じぐらいでしょ?」
「違うわよ、あなたと一緒にいた時間の方が長いじゃない」
「……でもさ、こうして来なくなったわけだからなにもなかったってことでしょ」
「別にそういうことではないわ、ただ、自分のことで精一杯だったのよ。今日来たのは初めてのテストも終わってある程度の余裕ができたからね。それにあなたといると……話してばかりになってしまうじゃない」
そうかあ? いつもしっかりできる彼女がそんな風になるわけがない。
川口
理不尽な感じではなく、変えなければならないところを指摘してくれたから実は感謝していたりもするわけだが。
「だから、今日からまた前みたいに戻したいの、あなた的には大丈夫?」
「うん、問題ないどころか嬉しいぐらいだけど」
「そう、それなら今日からまたよろしく」
「よろしく」
それでも今日はここで解散になると思ってひとりで帰ろうとしたときのこと。
「葉ちゃんと話したいからお家に行ってもいい?」
「うん、葉ももう帰っているだろうから」
なんかそういうことになったから彼女を連れて帰った。
妹が悪い情報を流す可能性があったが、まあその悪い情報というやつは残念ながら事実だから仕方がないと片付けることしかできないのだ。
「ただいま」
「お邪魔します」
これもまた彼女に任せて部屋へ。
「うわ!? な、なんでここにいるのっ?」
何故か床に寝転がっていたから余計に驚いた。
心配になって触れてみたら「ここで寝てたの」と教えてくれたが……。
「昔はよくこうしていたから」
「そうだけどいまは彼氏がいるんだから……」
久的には例え兄が相手でもそういうことはしてほしくないだろう。
僕だって理不尽に怒られたくないから気をつけてもらいたい。
「彼氏? え、兄貴に?」
「違うよっ、久が彼氏なんでしょ! 昨日キスだってしてたじゃん!」
「えっ、キスなんてしてないけど!?」
そうか、隠しておきたいことだから嘘をつくと。
まあでも仕方がないのかもしれない。
兄の友達を好きになってしまったというのは兄には言いにくいのかも。
「……キスは勘違いかもしれないけど抱きしめられたりぐらいは――」
「されたことないよ! 寝ぼけてたんじゃないの!?」
あまりにも徹底していて逆に関心したぐらいだった。
とにかく、唯を待たせているからと制服から私服に着替えて一階へ。
少し怖いが、明日になったら久に聞いてみようと決めた。
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