第56話 謎のペテン師
「村長、お世話になりました。明日の朝一番に出発します」
「おいおいおい、本当にその動く小屋で行くのか?! カナタが妙な真似するから貴族に目ぇ付けられたじゃないか!」
俺が別れの挨拶を涙ながらにしているというのに、村長のエゴンさんは文句を言ってくる。サウナカーで走っている所を討伐隊に見られてしまったらしい。
「これ小屋じゃなくてサウナなんですけど」
「どっちでもいい! もう何でもいいから早くどっか行ってくれ! こっちは貴族からそれ寄越せって言われて困ってるんだ!」
「常々思ってたんですけど、俺に対する態度冷たくないですか?」
「早くどっか行けや!」
わざわざ暗い夜に試運転をしたというのに、貴族に見つかってしまったらしい。村の代表として村長が問い詰められているという。
冒険者たちから報告があったのか、客室に結界が張られている事も知られてしまい、家を交換しろとも言われているそうだった。外観がボロボロのほうの客室じゃなくて、土に埋まっているほうの客室を差し出せと言われているとか。結界は村民の仕業ではないと言い張って逃げているらしいが、なんだか申し訳ない。
サウナカーの乗り降りの場面もバッチリ見られていたようで、ビアンカとアマーリエの存在についても質問されているらしい。
『湯浅先輩、村長さん困ってるみたいだし、旅立つ前にフォローしといたほうが良くないですか?』
「……うーん、じゃあ村人は関係がないことをアピールでもしてみようか。さてどうするか……」
「カナタがその小屋ごと出て行けば解決なんだがな?!」
怨霊の佐久間の提案に乗ることにする。村長の言う通りこのまま村を出て行けばいいんだろうけど、それだと俺たちの居なくなったあとも村長が質問攻めにあいそうだった。貴族からしたら村の代表に聞くのが手っ取り早いだろうし、民家は依然として土に埋まってるし。村長は早く出て行けとうるさいけれど、皆で相談した結果翌日の昼に一芝居うつことになった。
翌日、村長の家周辺に冒険者たちとようやく起きだしてきた貴族たちとそのお付きの人を集めてもらった。そこへサウナカーで颯爽と乗り付ける。動く物置小屋にどよめきが起きた。車が地球に誕生したころはこんな感じだったのだろうか。車と違って中が全く見えないあたり、こっちの方が不気味かもな。
フードを深く被りなおして、ビアンカとアマーリエを引き連れてサウナカーの外に出る。二人は顔を見られたくないと言って、フードを深く被りつつ長い髪の毛だけをフードの外に垂らして女性であることを強調している。金髪と銀髪であの悪徳商店との繋がりが露見しないか心配だ。店を辞めた時期が違うから大丈夫だとビアンカが言ってたけど本当かな。
「我は旅する謎の魔術師! 各地を巡りながら不思議な品を販売している者だ」
声色を変え、昔見た映画のように大げさなジェスチャーをしながら宣言する。ちょっとはずかしい。こんなことなら演劇部に入っておくんだった。でも自分で謎って言ってしまうのはどうかと思う。セリフを考えた佐久間は天に召されればいいと思う。
「森の中を彷徨っていたところ、この村に偶然流れ着いた。村民には数日であったが大変世話になったので、恩返しとして村の端に秘蔵の品を贈呈した。村の端の民家や、この動く小屋は我の扱う不思議な品だ。しかし、余所者に不届き者がいるようだ。我の品を無償で寄越せと命令されていると聞いた。実にけしからん!」
偉そうな感じで話すと、意外にも貴族たちは大人しく聞いてくれる。一部の貴族は気まずそうにしていた。魔術師だという俺の地位を測りかねているのかもしれない。謎の魔術師じゃなくてただの平民だとバレたら怒り出すんだろう。
貴族たちはビアンカとアマーリエの姿をチラチラと見ているから、これで二人が村民じゃなくて謎の魔術師の弟子だと認識してくれたら嬉しい。
「恩人に迷惑がかかるのは我の本意ではない。貴様らがそれを欲するのであれば、有償で売ってやらんこともない。村民に迷惑をかけないことが条件だがな。金額は、なに、小金貨二枚程度で良い」
小金貨二枚は二百万リブルだ。冒険者たちからは高すぎると野次が聞こえたが、貴族たちは余裕そうに笑っている。貧富の差の激しさを垣間見てしまった。ベネディクトも小金貨一枚をポンと出したし、やっぱり貴族って儲かるのかな。
貴族の人がお付きの人に何やら指示すると、お付きの人が小金貨らしきものを持って俺の元へと歩いてきた。出会って五分の不審者に二百万渡すなんて、この人たちチョロすぎるな。近くにいたアマーリエが受け取り、そのままサウナカーに入ってタブレットに入金してくれる。出金は俺でなければ出来ないけれど、入金は誰でも出来るという守銭奴なタブレットだ。
「確かに受領した。ではそこの空き地に我の魔術で不思議な品を提供してやる! よく見ておくが良い!」
大げさなボディランゲージで高らかに宣言するとすぐにサウナカーに戻り、タブレットに話しかける。
「(タブレットさん、村の端に設置した平屋一階建て露天風呂付客室のバージョン違いを設置してもらえますか? 値段は前と同じでいいです。あっ、それでいいです。へえ、同じ広さのはずなのにずいぶん雰囲気違うなあ)」
「(アンタ、ゆっくり見てないで早く設置しなさいよ! みんな待ってるわよ!)」
「(そうだった。じゃあそれを村長の家の横にお願いします。これはボロい感じじゃなくてもいいです!)」
所持金 0円 2,490,500リブル 【2,100,000リブルが使用されました】
【露天風呂付客室・外湯一据え 団体用大広間・竹(和室) 大人十名・ビュッフェあり(保護付き)を設置しました】
貴族から受け取った小金貨二枚がそのまま露天風呂付客室に変わる。十万リブルは俺の自腹になってしまったけど、村のためにやってる事だし我慢した。小金貨二枚と大銀貨二枚をくれって言って、やけに細かいとか思われても嫌だし。
村の端に設置した平屋の露天風呂付客室は松だったけど、今回は竹と表示されている。梅もありそうだ。いつも購入時にしか詳細を見ないから、もう少しちゃんと見たほうが良さそうだな。
サウナカーから出ると、冒険者たちや貴族たちの表情と動きが固まっている。何もない空間に突如大きなボロい家が出現したんだから当たり前か。貴族たちもいきなり家が出てくるとは思わなかったようだ。
「驚いたか? これが我の秘蔵の不思議な品だ。誰でも自由に使うが良い。だが、村の西の端の家には今後一切手を出すな!」
俺の言葉に貴族のお付きの人達がさっそく建物内に入ろうとしはじめる。予想通り、扉を開けようとしているのに扉の取っ手を掴むことが出来ていない。そこでさも不思議そうな表情を作ってからお付きの人に話しかけてみる。
「おや? せっかく提供してやったのに中に入らぬのか? ……入れぬのか。何故だろうか。おいそこの若者、試しに入ってみろ」
村長のエゴンさんを指名したら裏工作を疑われるかと思い、寡黙に突っ立っていたペーターを指名する。ペーターは無言のまま建物の扉を開き、中へと入って行った。村長のエゴンさんが隅っこのほうで頭を抱えている。どうしたのかな、頭が痛いのかなあ。
「ほれ、入れるではないか……おおそうだ、思い出した。完全に忘れておったが、我の扱う品は“心の綺麗な人間”にしか触れない。今入ろうとしておった者どもはそうではないのだろう。まあ、そちらに固まっておる貴様らは問題なく利用できるだろうがな。貴様らは仮にも貴族を名乗っていると聞いている。人を統治する立場の者だ、まさか心が汚れているわけはないだろう」
俺の言葉に気をよくした貴族たちは、踏ん反りがえりながら新設の露天風呂付客室に近づいていく。やっぱりチョロいな。得意げな顔をした貴族は、建物に触れようと苦戦していたお付きの人に場所を譲れと言っている。今が潮時だな。
「触れなかった者は心を改めてから再度挑戦するが良い。念を押しておくが、我が恩を受けた村に迷惑をかけるのは許さない。そのような不本意な事が起きれば、我の不思議な品で成敗してくれる! 苦情があるなら我に直接言いに来ることだな。では、さらばだ!」
サウナカーにそそくさと乗り込むと、ビアンカとアマーリエも続いて乗り込んでくる。トランク部分の扉を閉めたら完了だ。運転席側にいるベネディクトの護衛に合図をすると、サウナカーがブォンと音を立てて急発進した。
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