第34話 露天風呂付客室
翌日の昼頃には完成するとクラウスから聞かされていた新居の為の穴掘りは、予想を大幅に超えて夕方までかかった。俺たちも穴掘りに参加したのでスピードアップできるはずが、作業途中にホーンラビットやキャタピラーが寄ってきて邪魔をしてきたのだ。見回りの村人たちは何をしているのか。これでは俺の幸せ同棲計画がいつになっても始まらないではないか。
「そもそも、あの家に私達三人が入ると手狭だから新しいものを建てるという話だったでしょう? なぜ彼女たち二人とカナタが同居する事になっているのでしょうか。私達三人と一緒に住む計画はどこに消えてしまったのでしょう。男三人で身を寄せ合って眠るのは可哀そうだとカナタも言っていたではありませんか。それにしてもこの寒さはしつこいですよね。例年であればもう暖かくなっていてもおかしくないというのに」
「あ、クラウス達は最初の内覧は遠慮してくれな。入ってくるようだったら弾くから」
「えええええそりゃないぜ! 俺たちがどんだけ楽しみにしてたか知ってるだろお?! あああもう、クラウスがぐちぐち言うからだからな!」
お高い物件だし部屋の中も広くて期待できそうだから、アマーリエとビアンカに格好つけたいんだ。彼女たちが驚く姿を見たいんだ。ティモは喜びこそすれ、何を見ても驚かなくなってしまったし。綺麗なお姉さん二人組か男三人組かを選ぶのならば、誰だって綺麗なお姉さんを選ぶだろう。一度に驚く人数が多いと面倒くさいのもある。
あと佐久間は断っても勝手にすり抜けて入って来るし、そこまで驚かないだろうから放置しておくことにする。佐久間は自らを浄化してくれる人を探しにこの村まで来たはずだったが、話の出来る人がやっと見つかったのと懐かしい日本製の家があることで、浄化について考えるのは後回しにして楽しむことに決めたらしい。温泉宿やスーパー銭湯で娯楽が増えるのではないかと期待しているとか。漫画については俺も気になる。
「さて、いよいよ浴槽設置するか! 佐久間、悪いんだけど現地見てきてくれるか? 設置する瞬間見たことなくて、音が出るかどうかとかどんなふうに出現するか知らないんだ。あっティモ、硬貨をタブレットにいれておいてくれ」
『了解です! 建物出たら先に中に入っておきますね!』
「いやまあ、いいんだけどさ……」
「アンタ何するの? 設置ってなんなの? それにその独り言やめてくれない?」
設置が夕食後になってしまったが、逆に夜の目立たないうちに設置できるほうが都合がいいかもしれない。村人たちは足湯に入れるから新居にも入ってこれるだろうし、不用意に入ってきてしまった村人たち全員を弾いてまた足湯に入れるようにするために手をつなぐのも嫌だ。
ティモが硬貨を入れ終わったタブレットを受け取りマップ画面を表示すると、家族風呂内には黒丸一つと青丸が三つ、家族風呂の裏手には灰色丸一つと青丸三つが表示されていた。村の中心辺りには青丸がうようよとうごめいている。確認していなかったけれど、アマーリエとビアンカは青丸で安全だった。家の裏手の青丸三つはクラウス達だろうし、佐久間は死んでるから灰色になるのか。
「タブレットさん、この前表示してた130万リブルの露天風呂付客室を設置したいんですけど」
俺がタブレットに向かって呟くと、マップに重なるように画面中央に大きな文字が表示される。
【露天風呂付客室・外湯一据え・内湯一据え 欧風メゾネットタイプ(白青) 大人二名・夕食あり(保護付き)を選択しました】
【どの位置に設置しますか?】
マップ上では俺たちの今いる家族風呂の三倍くらいの大きさの四角が点滅している。
「えっ?! 夕食付きなのか?! もしかして温泉まんじゅうみたいに一日一回復活するとか?! だからこんなにも高いのか……」
「まんじゅう?!」
「ねえ、さっきから何をやってるの?! 復活ってなんなのよ、説明しなさいよ!」
ビアンカが何やら喚いているが、それが耳に入らない程に集中していた。夕食が付いているとは思わなかった。
この場合の夕食はどのようなものが出てくるのだろうか。客室の夕食と聞いて想像するのは懐石料理のような豪華な和食だが、今回購入しようとしている客室は欧風だ。気取った感じのオシャレな料理とかが出てくる可能性もある。温泉まんじゅうの中身が選べないのと同じで、料理も選べない可能性が高い。大人二人と書いてあるし、料理はおそらく二人分だろう。和食であればテーブルに乗りきらない程の量が出ることが大概だが、洋食であれば大きなお皿にちまっと盛られているような、オシャレではあるが少々物足りない量が出てくるのではないか。女性二人と俺とティモで、二人分を分け合って足りるだろうか。
「動かなくなったわ……どうしたの? 何を考えてるの?」
「あ、ああ……えっと、今から俺のスキルで浴槽付の家を購入するんだが、それに料理が付いてくるみたいなんだ。それがたぶん二種類あって、どっちが出てくるかが分からん」
「料理? どういったものがあるの? アタシ達も食べていいのかしら? アタシは分けてもらえるのであれば何だって構わないわ」
アマーリエとビアンカを見てみると、怪訝そうな顔をしながらも俺のスキルに興味を持ってくれているようだった。
「予想に過ぎないんだが、片方は肉がメインでパンとサラダとスープが付くものかな。もう片方は魚がメインで米とみそ汁と漬物と……」
『あとは湯葉とかお刺身とかアワビとか蟹とか』
「ああ刺身かあぁ! わさび醤油で食べる刺身が懐かしい……ってなんで佐久間は戻ってきてるんだよ」
『遅かったんで見に来ちゃいました。でも湯浅先輩、和食だとこの二人には食べられない物とかあるんじゃないですか? 生の魚とか食べ慣れてないと嫌がられるかもしれませんよ?』
言われてみればそうかもしれない。海のある国出身のアマーリエなら生魚を使った料理に抵抗がないかもしれないが、内陸地出身のビアンカは生の魚介類を食べられない可能性がある。異世界もののアニメでそういった描写を見たことがあるし。ならば洋食のほうが都合がいいか。
「よし分かった。どっちが出てくるかは運に任せて、この客室を設置する事にしよう。二人が食べられないものがあったら、俺が食べる!」
「また独り言……例の女の幽霊が来てるのね? もう気にしない事にするわ」
気を取り直してタブレットにもう一度話しかける。すると先ほどと同じ文字が画面上に浮かんだ。
【露天風呂付客室・外湯一据え・内湯一据え 欧風メゾネットタイプ(白青) 大人二名・夕食あり(保護付き)を選択しました】
【どの位置に設置しますか?】
「この家族風呂の裏側の、一段低くなってるところにお願いします。あ、そこです」
所持金 0円 280,500リブル 【1,300,000リブルが使用されました】
【露天風呂付客室・外湯一据え・内湯一据え 欧風メゾネットタイプ(白青) 大人二名・夕食あり(保護付き)の設置が完了しました】
マップ上に大きな四角の図形が追加された。クラウスの掘った穴にちょうどおさまったようだった。四角の建物の外では青色の丸が三つウロウロと歩き回っているが中には入らないように気を付けているようだ。佐久間を示す灰色の丸はちゃっかり中に入り込んでいる。
残された所持金の額を見て、気持ちが沈む。また使い込んでしまった。
「うーん……ま、いいか。過去より未来に目を向けよう! じゃあお二人さん、新居にご案内しましょう!」
所持金 0円 280,500リブル (手持ち 0リブル)
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