参考資料 ガチリケジョ、VRMMOとタイムトラベルを斬る
以下、ハードSFとすることを断念した自作の一部を抜粋
【設定】
・2070年、葵は博士論文の検証の一環として、自室ベットで就寝中の周辺視野への明暗差刺激による脳活動をモニタリングしています。
※刺激アルゴリズムは自ら実装
※バイオセンサー、モーションセンサー
・以下、葵の夢の中の会話です。《》の部分がエミリと呼ぶことにした存在の発話、その他は葵です。
・《エミリ》と会話する葵は、会話を通じ仮説を立てはしますが、不要な断言は何一つしません。また、全ての断言は反証可能性に開かれていると葵は考えています。
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《さて、これで、葵は第三者の視点でエミリを見ました。既知の仮想現実機器が睡眠中の葵にこのように働きかける可能性はあるかしら?》
「ないわね」
即答する他はない。視覚刺激を介さずに仮想現実を見せることができる機器は存在しない。加えて、機器の介在を完全に意識外に置ける
《では、脳の中枢神経系の状態遷移についてNAIよりも精緻な観測手段が存在し、網膜への視覚刺激によらずに脳の中枢神経系に影響を与え続けられる手段が存在するとするならば》
「それらの手段が何なのかはブラックボックスだとしても、別種の映像世界を作り上げることは可能ね」
《人に限らず、一定程度以上に高等な動物が見る夢との相違は》
「私にとって奇妙な相違は、この現象が言語化されていることね」
《加えて、言語化に先んじて現実世界の方を体験していること》
《それは葵がブラックボックスとした存在が、葵が体験する現実世界の観測する手段を有しているということ》
数理情報工学の基礎として、量子観測の総和と量子ゆらぎの帰結かこの世界である、との量子情報理論を私は知っている。そして、量子情報を完成された計算手段の一つとして日常的に利用している。量子情報の総体の斜影が、この現実世界である、との理解の下に。
《そして、理論は、他の観測者が量子観測を行っている世界の存在を否定しない》
量子情報理論は、量子を素粒子とするこの世界がこの世界を解釈する時系列のヒルベルト空間の制約条件を提示し、計算対象を密度演算子等で
理論は既知の素粒子以外の量子も扱えるものである一方、量子以外の存在は対象としていない。
《そうね。そして、無限大に近づく次元を持つヒルベルト空間の量子ならば、トポロジカル表面符号のノイズ除去を無限に繰り返すことができる》
エミリの声は、量子情報理論の枠内にブラックボックスを戻した。
「つまりは、ブラックボックスの観測者は、私の脳を構成する量子の総体を処理できる次元数を持つヒルベルト空間の存在と解釈することができる」
《観測について相応の制限はあるのだけれど、私はそう考えているわ》
私=エミリのブラックボックスについての解釈は、一致を見た。
《この解釈に基づくと、葵にとってブラックボックスの観測者である私は、葵を観測している存在の私は、かつてエミリを観測していた存在の私だとの説明が可能となる》
「エミリ本人ではなくエミリの観測者が、私の観測者でもあるということね」
そのような観測者が存在するならば、人Aが人Bの中にいるかという状態の説明となる。
《私はエミリではない。同じく私は葵ではない。ただし、エミリの中の私と葵の中の私の在り方は異なっているの》
《エミリの中での私は、15歳からエミリであるかのように振る舞っていた。それは、エミリが世界の観測を私に委ねたため。エミリの自我はただ、私の振る舞いを断片的に観測していた。その意味では私は、あたかもエミリであるような私。私のことをエミリと呼び続けるかどうかは葵に任せるわ》
高次ヒルベルト空間の観測者を擬人的な名で呼ぶべきかどうかは本質的ではない。その観測者を私も観測していることが本質。
「エミリと呼ぶわ」
私はそう答えた。
《葵の中の私は、もうお分かりね。私のことも観測するようになった葵を私が観測し続けている。私が話しかけたことに応える葵を観測することも含めてね》
「なぜ、かつてのエミリと私なのかということを、今のエミリは説明できるの?」
高次ヒルベルト空間の観測者が特定の存在を観測することを意味づける、ということは、強い意味の人間原理の高次元版、いやエミリ版、となるだろうか。人間が観測するから宇宙がこのようにある、との人間原理に対し、エミリが観測するから私はこのようにある。
《エミリと葵が対象であることは、始めから知っていた。なぜ、かを説明できるだけの情報は持っていなかったのだけれど、NAIを用いた実験を葵が終えた後は理解できたわ。現時点の私は、私以外の観測者を必要としているの》
エミリであるかのように高次ヒルベルト空間の観測者が振る舞うことと、高次ヒルベルト空間の観測者を有意に観測可能であること。少なくともこの2つの情報を先の時間軸から予め受け取っていた、と。
《そういうことになるわね》
量子情報理論は未来の観測者が過去に情報を送信できるかどうかを対象としてはいないし、私は過去への情報送付についての理論を知らない。けれども、仮に未来の観測者が過去に情報を送信できるとしても、その情報量が過去から未来に伝わる情報量よりは極めて小さなものであることは想像できる。もちろん、未来の観測者が過去に送信できる情報量はゼロに等しいと考えてしまいたいという思いもある。
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