第6話 高シグマ世界の観測者オノケリス

カナダ安全情報局が……オノケリス確保に失敗したとの報は、その日のうちに、マリアーノ・ミリティア社の警護担当者にも共有された。

 

 要人警護を担う民間軍事会社であるマリアーノ・ミリティア社が要人に急迫不正の危機が迫った時にのみ実力行使に及ぶことを旨とするのに対し、カナダ安全情報局は国境を不正に超えてきた存在であることが確認できた時点で合法的に被疑者の身柄を確保できる。

 

 そのカナダ安全情報局が特殊部隊隊と共にベストを尽くした布陣で臨んだオノケリスへの実力行使が失敗に終わった。しかも、おそらくは科学法則では説明のつかないレベルの異能をオノケリスたちが行使した。仮にマリアーノ・ミリティア社とカナダ安全情報局との練度が同等であるとして、打ち手が多いのは明らかにカナダ安全情報局の方である。あおいと知人の未来みくの警護を担当し、安全を保障する立場にあるマリアーノ・ミリティア社は警戒レベルを最高度に引き上げた。

 予め行われていた協力依頼に基づき、米軍の輸送機が、軍用に分離されたモントリオール・セント・ロンゲール空港に飛来し、米国の民間軍事会社からの最新鋭の無人戦闘車両20両、垂直離着陸可能な無人戦闘ヘリ15機をマリアーノ・ミリティア社に届けた。マリアーノ・ミリティアの警備陣はこれらの無人機に先制殲滅攻撃を許可する設定を施し、24時間体制で、あおい未来みくが滞在するレゾ・サノー研究所の警護にあたらせた。

 カナダ安全情報局の報告に対し、セブンアイズは当然に即応した。カナダ首相の同意に基づき、米国陸軍の独立大隊がモントリオール近郊に展開し、即応体制を敷いた。また、モナコ王国の予めの要請を受けていたフランスも、超音速機でフランス対外治安総局と正規の外人部隊および無人からなる特別大隊をモントリオール国際空港付近に展開し、事態に備えを置いた。英国は、SIS(秘密情報機関)の中のロイヤルファミリー警護担当部署が割くことができる警護担当者の最大数を派遣し、英国大学に所属する学生であるロイヤルファミリーに縁をもつあおいの警護を支援する体制を敷いた。他の、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、イタリアの諜報機関は、モントリオール市内に展開し、情報収集の支援を担当している。

 当のカナダはというと、国軍特殊作戦群をモントリオール及び首都オタワの警護に投入すると共に、米軍の支援の下、陸軍の過半数をモントリオール及びオタワ近郊に展開する準備を進めた。

 

 カナダ政府は、(一要人の警護のレベルを超えた)歴史上初の国難にあるとの認識を持っての対応を開始した。同日、情報公開を旨とするカナダ首相は、緊急記者会見を開いた。内容は以下の通り。

 ……サイボーグ兵が目的は不明ながら、カナダのモントリオール及びオタワの近郊に一個大隊規模で展開していることが確認された。重装備の警察当局が(カナダ安全情報局の名はふせられた)確保を試みるも、サイボーグ兵たちは警察を強行突破した、と。サイボーグ兵の戦力は不明であり、カナダ市民の身に危険が及ぶおそれもあるため、カナダ国軍の動員を行うと共に、友好関係にある英国、米国、フランスの支援も受けて、警護にあたる、と。

 あおいの警護のためにモントリオールに展開された部隊は、三個大隊規模、2000名強。最重要都市モントリオールとオタワの防衛のため展開可能な体制を強いたカナダ国軍と米国の独立大隊は、計4万人強。さらに国境付近に待機を始めた米軍7万人ほどを合わせると、中国とロシアを除いたあらゆる国を攻略可能と思われる規模の軍事力が……むろん、カナダと国境を接する米国は、オノケリスが、国境を超え米国に侵入する可能性を考慮に入れた上での展開ではあるが。

 

 各国の軍上層部には、オノケリスが科学法則を超えた異能を行使する可能性がある旨が共有されている。それゆえ、オノケリスたちは……ではなく、未知の侵略者(エイリアン)との位置付けを与えられた。エイリアン対応のために動員されたのは、2069年時点での人類の最精鋭部隊のひとつ……

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