リトル✧ミリタリカの世界線

「人類」の観測装置たち

第1話 小道具『観測衛星FdE』~ 人智の及ぶ範囲の観測行為のために。

 太陽系最外縁領域に達した観測衛星FdEが送信してきた、余剰次元サイズに関する測定データは、人々の物議を招いた。


 準惑星エリス、及びその衛星群への接近継続観測を終えたFdEは、太陽系外に向け再加速し、かつてエピック・オールトの雲と呼ばれていた太陽系の最外縁領域に到達した。この領域でのFdEの第一義的なミッションは、最外縁領域に多数存在するはず未知の天体を可能な限り発見し、接近を試み、各種の測定データを地球に送り届けること。


 観測衛星FdEは、太陽から1光年に至るまでミッションを継続することを目指している。最外縁領域に達した後に未知の天体を発見し、接近観測を試み続けるというミッションの目的は挑戦的だ。搭載された新型磁気プラズマエンジンをいかに効率的に微調整し、衛星の加速度ベクトルを最適制御し続けることがミッション達成の鍵となる。そのため、測定データの自律統合管理が可能な超省電力型の制御AIが21世紀後半の技術の粋を尽くして開発され、FdEに搭載されることとなった。

 長期に及ぶミッションの間、制御AIは加速度及び加加速度を継続的に測定する。測定データに誤差・較差が生じるものと予想されるため、複数種の測定機器が搭載されている。そうした機器の一つに、微小空間の重力を測定できる微小ねじれ秤があった。FdEの企画チームは、新型観測衛星の大型予算を欧州同盟議会で通すための材料としてこの振り子を用いて、観測衛星太陽系最外縁領域において余剰次元の検出を試みるというミッションを付け加えた。

 超弦理論をはじめとする力の統一理論では、余剰次元の次元数とサイズに関し、幾通りもの仮説が提唱されている。その中で余剰次元のサイズはナノメートルオーダーもしくはそれ以下で観測が難しいと考える学派には、太陽や惑星からの重力的影響が他の天体と同程度に極小化していく太陽系最外縁領域では既存の観測機器により、余剰次元の存在を確認できる可能性があるとの主張があった。余剰次元の存在が何らかのかたちで確証されることは、間違いなく大発見とされるであろうことを企画チームは議会で訴え、見事、FdEの予算化を勝ち取ったのである。

むろん、微小空間での余剰次元の実在を証明したという速報レベルのレポートは、これまでに何度も学会発表されている。だが……

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