第142話 竜毒の壁



 竜毒って、たぶん、トーマス、前にそれにやられたから個性になったんだろうな。でも、今やるほどのことかな?


 巨人僧侶はハンマーをふるう。三メートルの身長をいかした高い位置からの渾身こんしんの一撃。

 まともに食らえば、当然、頭蓋骨がくだける。

 トーマスはミスリルの盾で、それをふせいだ。直撃はさけた。とは言え、トーマスは立ってるのがやっとのようだ。


 あれ? なんだろう。

 巨人僧侶の顔色が悪い。


「毒だな」と猛が言った。

「毒?」

「竜毒だ。猛毒だよ」

「さっき、トーマスが竜毒って言ってたよね。でも、あれって相手から毒攻撃受けないと効果ないんじゃないの?」

「よく見てみろよ。かーくん。竜毒ランク3は仲間が攻撃を受けると、相手を毒状態にするんだ。つまり、自分が攻撃を受けても効果がある」

「あっ、ほんとだ」


 よく読んでなかった。てへっ。


 猛毒だから、行動したり、ターン経過でもHPが減る。減少率がただの毒より高い。


「猛毒は一回で最大HPの20%減る。トーマスの攻撃力なら、通常攻撃より与えるダメージがデカイよ」


 たしかにそうだ。

 巨人僧侶のHPが1000だとしても、一回で200のダメージ。しかもターン経過でも減少するから、毒にかかったときとあわせて、この1ターンで400ダメージだ。


 巨人族は僧侶だから、次の自分の番に毒をなおすだろう。でも、それでターン終了する。HPまではなおせない。そして、その次のターンで攻撃に転じたとしても、また竜毒にかかる。このくりかえしだ。


「そっか。トーマスは竜毒の効果が切れないように気をつけてさえいれば、相手が勝手に自滅してくれるね。素早さ数値もクマりんと同じくらいだから、2ターンに一回は二度動けるだろうし、そのときHP回復もできる」


 自分の番が来たトーマスは『元気いっぱい』を使った。単体のHPを最大までなおしてくれる回復魔法。僕に呪文の唱えかた教えてくれただけあって、満面の笑みだ。


 さらに、身を守る。二回行動できるけど、ムダに攻撃はせず、毒の効果で相手が自滅するのを待つ作戦のようだ。


 僕はトーマスの勝利を確信した。

 ところがだ。

 次のターン、巨人僧侶は毒消しをしなかった。それどころかHP回復もなしだ。


 一回、二回、三回攻撃!

 これは、あばれるとか、猫パンチみたいな連打系の技だ。


 身を守るを使ってるから、トーマスの受けるダメージは半減する。だけど、三連打だ。2000攻撃力の相手が三連打。

 トーマスは失神した。


「ヴィクトリアパーティー中堅、勝利!」


 ああ、トーマスも負けちゃったかぁ。


「惜しかったなぁ。悪くない戦法だったよ。トーマス」

「だな。猛毒は行動のたびにHPが減る。三連打なら600減少したはずだ。つまり、あの巨人僧侶、最大HPが1001とか1002とかだ。減少する20%に加算されないていどに、ほんの少しだけ千をこえてる。三連続攻撃をしても、瀕死で立ってられると計算したわけだ」


 猛毒はHP0になるまで減少するからね。ターン内に相手を倒せなければ自分が戦闘不能になる。

 勝利への気迫ってところか。そんなギリギリの戦いを挑んだんだ。


「蘭さんたち二敗だ。あとがない」

「次は誰が出るのかな?」


 僕はあることを思いだしてガックリした。

 そうだった。試合前にメンバーをモリーからケロちゃんに交代してたっけ。モリーなら蘭さんに変身して、確実に勝てただろうに。


 蘭さん、どうするのかな?

 大将と副将、かわるのかな?

 いや、そのまま、ケロちゃんで行くようだ。


「では、副将戦、始めッ!」


 勝負は一瞬だった。

 開始直後に、ケロちゃんのターン始めに自動発動する技が炸裂さくれつする。


「ケロー!」


 石化舌だ。

 ケロちゃんの長い舌がビロンと伸びて、巨人魔法使いの顔をなめた。

 巨人魔法使いは石になった。


「副将戦、トーマスパーティーの勝利!」


 二勝二敗だ。

 大将戦ですべてが決まる!




 第三部『ヒノクニ武闘大会!』完

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