第96話 兄弟の誓い



 とにかくさ。

 やっとギルドについたんで、ここはしっかり満喫しとかないと。このごろ、戦ってばっかで遊ぶヒマがなかった。


 まずは銀行。

「はい。六千億円貯金ね。こっちから入れると、ヒノクニの銀行に預けたことになるの?」


 銀行はたいてい、どこのギルドもおじさん。ここでは和服を着て、チョビヒゲを生やした人だ。僕のミャーコからザラザラととどまることなく金貨があふれだしてくるのを、ただ呆然とながめている。


「……たしかに六千億円。お預かりいたしまっせ。ちなみに通帳はボイクド側と共通でんな。ただし、お金はそれぞれの側の銀行が管理しとりますんや」

「なるほどねぇ。わかった。ところで、前にボイクドの銀行にお金預けると、記念品をもらえるキャンペーンやってたんだけど、こっちではないの?」

「うちもやっとりまっせ。ただし、キャンペーンはボイクドと共通やさかい、お客はんはもうしまいでんな」

「なんだ。そうなんだ。でもさぁ。前に僕の友達が代用のプレゼントでもらった、お預かりボックスって言うのがあって、僕もそれ欲しいんだよね。お金払ってもいいから、どうにかして、それ手に入らないかな?」


 今のボックスは蘭さんのを借りてるだけ。たまたま借りてたからよかったけど、そうじゃなかったら、エレキテル港を出たあと、音信不通になってたからね。僕用もぜひ欲しい。


「少々、お待ちくださりまっか? 上のもんと相談してまいりますわ」


 大阪弁のおじさんはどこかへ消えた。しばらくして、布をかけた盆を持って帰ってくる。


「百億円でならお譲りしてもええそうでっせ」

「百億円ね。はい」

「おおきに。ほな、これ」


 布をはぐと、お預かりボックスだ。しかもちょっと小型に改良されてて、持ち運びに便利。

 これで僕らのパーティーは僕、蘭さん、アンドーくんの一人ずつが預かりボックスを持った。ほんとはスズランも持ってるけどね。個別にバラバラになっても連絡をとりあえるぞ。


 そこで僕は気づいたね。

 猛に預かりボックス持たせておけば、また離れてしまっても、手紙のやりとりができるぞ。


「猛。百億円あげたよね?」

「ああ?」

「貯金しないの?」

「しないよ。兄ちゃんは欲しいものがあるんだ」

「そうなんだ。じゃあさ。一億円あげるから、これ、貯金して」

「えっ? いいのか?」

「いいよ。兄弟また離ればなれになるかもしれないから」

「かーくん……そんなに兄ちゃんのこと心配して……」

「心配はしてるけど、うっとうしいから、頬ずりしないでくれる?」


 しばらく兄が人前をかえりみず不審者そのものになっていたことは、ここには書かないよ……。


 というわけで、猛も冒険者登録して、銀行預金の粗品をもらった。プレゼントは一億円までだ。なので、猛も旅人の帽子や流星の腕輪を手に入れた。これでいつでも猛と会えるかな?


「じゃあさ、もしも何かあったらさ。旅人の帽子使って、二人とも飛べる場所で落ちあおうよ」

「そうだな。前に行った、山の上のマーダー神殿なんてどうだ?」

「いいね。じゃあ、そこで」


 まあ、猛はほんとの四天王じゃない。と僕は思ってる。

 ずっと前、まだ僕らがこの世界に召喚される前から、ユダは存在してたらしき痕跡があるからだ。

 なんか、ずっと前、裏切りのユダと義のホウレンは人間で、武闘大会にも出たことがあるってウワサを聞いた。


 だから、猛はなんかの間違いで、魔王軍側にまぎれこんでしまっただけなんだ。絶対、兄弟で戦うことになんてならない。僕は勇者の友達として。猛は四天王、裏切りのユダとして。

 そんなこと、あるわけないもんね。

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