第10話 告白と衝撃の報告

「え、うそ……え……? 本当に……?」

「本当だ」


 ユースさんも緊張しているのか、真っ赤な顔ではあったけど、真っすぐで綺麗な瞳を私に向けてきた。


 生まれて初めての告白。それもここまでストレートに気持ちを伝えられるとは思って無くて。嬉しくて……嬉しくて……愛おしくて。


 ――そんなの、はい以外の答えなんてない。


 でも……私はユースさんに隠し事をしている。それは……私はティア・ファルダーじゃなくて、ルイス・エクエス……元侯爵令嬢で、追放された身だという事を。それを知ったら、もしかしたら告白を撤回されてしまうかもしれないわ。


 隠したまま付き合う事は、確かに出来る。でも……将来はもしかしたら伴侶になるかもしれない男性に、隠し事をしたままなんてダメよね。


「嬉しいです……私もユースさんの事が好きです。出会った時は嫌いでしたが、いつの間にか好きになって……ううん、愛してました」

「ティア……」

「でも……私はユースさんに隠している事があります。それをお話しますから……それを聞いたうえで、もう一度ユースさんの気持ちを教えてください」

「隠していた事……か。わかった」

「ありがとうございます」


 すぅ……と大きく息を吸い、きっと大丈夫と覚悟を決めた私は、ゆっくりと自分の過去の事を話し始める。


 本当の名はルイス・エクエスで、ユースさんと出会った日の数日前に家を追放され、従者のマリーと一緒にあの家に住み始めた事。


 婚約者を亡くした妹に、私の婚約者を取られ、その婚約者も、私がニーナに嫌がらせをしたり悪評を流していたという無実の罪で責めてきた事。


 親に愛された事がなく、面倒事が起こらないように偽名を使えと言われた事……。


 他にも私の身に起こった事を話していたら、結構長くなってしまったけど、ユースさんは黙って私の話に耳を傾けてくれていたわ。


「そうか」

「そうか……って、驚かないんですか? 私、元貴族なんですよ?」

「知ってたからな」


 そっか、知ってたなら驚くはずもないわね……は? え、知っていた!?


「……え? えぇ!? どうして知ってるんですか!?」

「前にマリーと歩いているのを見かけた事があってな。その時のマリーの言動が、どうみても俺には従者にしか見えなかった。従者が付くほどの家……だが、ファルダー家なんて聞いた事がない。だから調べた。そうしたら、エクエス家の長女が追放されたという情報を手に入れたんだ」


 淡々と説明をするユースさんの事を、私はポカーンと口を開けたまま見つめる事しか出来なかった。


 えっと……そんなの調べられる事なのかしら? ユースさんって、実は私の想像以上に凄い人なんじゃないかしら……?


「正直な話、俺からしたらだからどうした? って話だな。追放されたからといって、ティアがやってきた努力が無くなる事もないし、変わる事もないし、俺の気持ちも変わらん」

「じゃあ……告白を撤回とかは……」

「する訳ないだろう。ティア・ファルダー……いや、ルイス・エクエスと呼んだ方がいいか?」

「いいえ。今の私はティアですから」

「わかった。ティア・ファルダー。もう一度言う。俺と付き合ってくれ」

「はいっ!!」


 改めてユースさんの口から出た愛の告白に、私は目から涙を零しつつも、満面の笑みで返事を返した。


 私の理想の王子様とは少し性格が違うけど……優しくてカッコイイ、私だけの本当の王子様。どうしよう、嬉しすぎて気持ちが抑えきれない。


「ふぅ……告白なんて生まれて初めての経験だったから……流石に緊張した……」

「あの、その……く、くっついてもいいでしょうか……」

「あ、ああ。もちろん」


 嬉しすぎてユースさんが何か言ってたのを完全に聞き逃してしまった私は、貰った花束をテーブルの上に置いてから立ち上がると、ユースさんも同様に立ち上がり――私の事を抱きしめてくれた。


 好きな人に好きって伝えて、くっついてるだけなのに、こんなに心も身体も暖かい……愛おしい……もう離れたくないよ……!


「ユースさん……大好き……!」



 ****



 ユースさんと結ばれてから半年が過ぎた。あれからユースさんは忙しくなってしまったのか、プライベートで数回食事をしたっきり会えていない。食事の時に聞いたところによると、私の本の売り上げがかなり好調らしく、その影響で増えた仕事に追われているそうだ。


 一方の私は、ユースさんと次回作の話ができていないため、新聞配達の仕事をこなしつつ、執筆のための勉強を続けている。


 はぁ……売れてるのは嬉しい事だけど……せっかく付き合いだしたのに、ほとんど会えないのは寂しい……会いたいなぁ。


「ティア様、今日も恋煩いですか?」

「もう、からかわないでよマリー」

「ふふっ。申し訳ございません。それにしても、ティア様は本当にユース様の事を愛しておられるのですね。前々からわかってはおりましたが」

「う~……」


 実は、マリーはかなり前から私がユースさんに想いを寄せていた事に気づいていたそうだ。どうやら私の書いてた小説を読んだ時に、いつの間にか王子様のキャラクターが、私から聞いた話を元に想像していたユースさんにそっくりになっていたとの事。


 本当、今思い出しても全身が火だるまになっちゃいそうなくらい恥ずかしいわ……いつの間にか、私の中の理想の王子様像が、魅惑の王子シリーズのキャラをベースにしたものから、ユースさんに変わっていたなんて。自分の事なのに、全く気付かなかったわ。


 ……きっとユースさんも気づいてたわよね……そう考えると、あれって遠回しなラブレターと一緒じゃない! あぁもう! 恥ずかしいぃぃぃ!!


「最初に出会った話を聞いた時は、本当に抹殺しようかと思いましたが……ティア様にとって良い方向に進んでくれて幸いでしたわ」

「わ、私もマリーが犯罪者にならなくてよかったわ……」


 冗談っぽく笑っているけど、マリーなら絶対にやらないと良い切れないのが怖いわ……本当に、ユースさんが実は優しくて良い人で良かった……色んな意味で。


「さてと、マリーも今日は休みだし、どこかに行きましょうか」

「いいですね。どこに行きましょうか」

「そうねぇ……」


 ドンドンドンッ!!


「きゃあ!? び、ビックリした……」

「どなたでしょうか。乱暴な方ですね……ティア様、お下がりを」

「え、ええ」


 突然玄関からノック音が聞こえてビックリした私は、いつ何が来てもいいようにフライパンを持って構えながら、マリーがドアを開けるのをじっと見守る。


 玄関のドアが鈍い音と共に開くと――そこには息を切らせたユースさんが立っていた。


「ユースさん!?」

「まあ、ユース様でしたか。随分と息を切らせていますが……」

「あ、ああ……すまない。全速力で来たものでな……」

「どうかしたんですか? それよりも、このハンカチで汗を拭いてください! あ、お水飲みますか?」

「いや、気持ちだけもらっておく。ありがとう、ティア」

「それで、どうしたんですか? 会えるのは嬉しいですけど……」


 ユースさんは最近忙しかったはず。なのに、こんなに息を切らせるまで全速力で走ってくるほどの用事……なにかしら。全く想像がつかないわ。


「いいか、落ち着いてよく聞け。ティアの出した本が――ベストセラーになった」

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