理想の女
ドストレートエフスキー
第1話
ランプの魔神に自分の理想の女性を出してくれるように祈った男がいた。
絶世の美女を手に入れた男はこれで周囲を見返すことができると思って彼女を見せびらかした。
しかし周囲の反応は冷ややかだった。
皆そろいもそろって「釣り合っていない」「彼女が可哀想だ」などと男を侮辱したのだった。
理想の女を手に入れても尊敬されないことがわかった男は落胆し、理想の女性は男を励ますがただただ余計に男を傷つけるだけだった。
■
ある日理想の女は鏡を見ると自分が醜くなっていることに気がついた。
男の理想が「自分より弱くて性格にも問題があり劣った女であってほしい」というものに変わったからだ。
彼女は理想の女性なので男が自分が尊敬されないことがわかると自分が尊敬されるために必要のない彼女の美しさも優しさも皆失われてしまったのだった。
身も心も醜くなった彼女は半狂乱になって男に懇願した「こんな私を理想としないでほしい」と。
しかし男はこう言い放った。
「なんだ、お前自身の醜さを俺のせいにするのか。こんなによくしてやっているのに、言いがかりはよせ」
そういうと男は人を呼んで「妻が発狂して言いがかりをつけてくる」と言い広めていった。
人々は彼に同情し、美しくもなく性格が良いわけでもない貧しい女を献身的に看病する男を賞賛した。
一方で彼女は人前でよく失敗するようになり、誰の役にも立てなくなった。
誰も彼女の成功を喜ばなかったからだ。
男は女の顔をグイと持ち上げると「善人ぶって惨めな俺を庇って偉そうにするからだ。これで俺の気持ちがわかったか」と吐き捨てた。
多くの人に賞賛された男は次第に人の輪に入れられて自信がついたのか成果を出すようになり、好きな女性もできたようで、
なんの取り柄もなくなった理想の女と離縁し、新しい彼女と結婚した。
その後も男は「同情されるような病気や被害を受けているわけではないが、あくまで本人の弱さで自業自得で同情されない形で劣っているような、自分より弱い人間がいてほしい」という願いを消さなかった為、
理想の女は永久に醜く劣って同情もされず、
賞賛されるような大きな仕事はできないが、
みんながやりたくない上に成果を出しても尊敬されない仕事をさせられ、
誰からも賞賛されることもなく嘲笑されながら生きることを強いられることになったことに気が付き、悲鳴を上げた。
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