恋はいちごの香り

Aris_Sherlock


「私の両手のどちらかにいちご飴が入っている。もしいちごの飴を当てることができたら、君の願いを一つだけなんでも聞こう。でももし、りんごの飴を選んでしまったら、残念、君の負け。何にもなしだ。」

観覧車に乗って早々、彼女は唐突にそんなことを言ってきた。

彼女と付き合ってもう2年になる。ひとつ年上で抜け目のない性格しているのに、俺はよくこんな子供遊びみたいな勝負に付き合わされてきた。

今日は彼女と遊園地に来た。ジェットコースターとかコーヒーカップとか色々なアトラクションに乗って遊んでいるうちに午後の6時半になってしまった。ここの遊園地は午後7時閉園だから最後のアトラクションになるだろう。

俺のポケットには三ヶ月分の給料――もとい、婚約指輪が入っている。いつ渡すかを一日中考えていたら最後のアトラクションになってしまった。

これはチャンスなのではないか。

いちごの飴を見事選び出し、「俺と付き合ってくれ。ゲームに勝ったんだ、拒否権ねーからな。」なんて言葉をかければ完璧(?)だろう。

よし、気合を入れて挑まなくては。今までは、軽くあしらっていたが今回はそんなふうにはいかない。

う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん………?

わからない。全くわからない。

どちらも同じ形の飴玉を持っているせいで、大きさでは判断できない。指の隙間から見える包み紙の色は、両方ともいちごとりんごの赤色で模様も同じだ。見分けもつかない。俺は匂いには敏感だが…流石に彼女の手の匂いを嗅ぐのはやめておこう。

困った。これじゃ、神様の言うとうりで選ぶしかないのか。

観覧車は頂上まで後、半分といったところ。

…まてよ、なにか違和感がある。


なぜ彼女が持ついちごとりんごの飴の包み紙は、同じなのか。

もし、彼女が持ってきた飴が“元から”一緒の色と模様の包み紙だとしたら、どちらにどちらの味が入っているかわからなくなってしまう。

他にも違和感がある。

彼女は俺が勝ったらなんでもひとつ願いを聞くと言った。しかし、負けてもこちらに損はない。つまり、彼女に得はないのだ。なぜ得が無いことを彼女はやるのか。

一つだけ考え得ることがある。

結論は出た。

後は、行動するだけだ。


僕は彼女の左手を選んだ。

彼女は何も言わず飴玉を差し出す。

僕は包みを開け、口に放り込む。

彼女も同じく残った飴の包みを開け口に入れる。

緊張で飴玉の味なんてしない。

でも僕はポケットに手を伸ばす。

「俺と、け、結婚してくれ。」

なんとも恥ずかしい限りの告白だ。

ちょうど頂上についた。顔を隠していた夕陽がこちらを覗く。

彼女は笑っている。夕陽に照らされた彼女の顔はとても綺麗だった。

「はい。」

僕は空いた彼女の左手の薬指に指輪をつけた。


観覧車ももうすぐ終わりに近づくとかなり緊張も解けて、口の中のいちご味も感じ取れるようになっていた。

「親も結婚しろ結婚しろってうるさかったからね。私がきっかけを与えてやったってわけ。君はポケット気にしすぎ。」

そんなことを笑いながら言っていた。

バレてたわけだ。彼女には一生勝てそうにない。

観覧車から降りる。その時は自然と彼女と手を繋いでいた。

彼女のその美しい唇から出る香りはいちごの香りがした。

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