第45話「ルグル防衛戦-限界-」
ヨハンは掛け声と共に武道の構えを取り天啓を発動させた。
『――
ヨハンは自らの肉体を強化して突っ込んできた。
両の腕から繰り出される拳に反撃する間も無く剣で受け流すしか無かった。
(っ! なんだこの人! こっちは剣なのに臆する事なく飛び込んできやがった。事前に改変だけ掛けておいて正解だったな)
『どうした!? 守っているだけじゃ私は倒せないぞ?』
「くっ、言われなくて……もっ! だぁッ!!」
相手の攻撃を受け流した一瞬の隙をついて剣を振ったが即座にヨハンはバックステップで回避した。
攻撃の速さだけじゃなくて移動自体も俊敏だ。
(けど分かったぞ。この人の攻撃には一定のリズムがある。そこを上手くつければ)
『私の攻撃を受けながらよく反撃できたな! だが、まだ上がるぞ!――
ヨハンの体を黄色のオーラが纏い更に速度が上がった。
先程とは比較にならない速度で懐に飛び込まれ、みぞおち辺りに拳がめり込んだ。
「なっ、ぐっ! かはっ!」
(後方に飛んでダメージは抑えたつもりだったのにこの威力か……相手に近寄らせるのはマズい)
ヨハンは吹き飛んだ蓮を見て即座に攻撃を入れようと地面を蹴りこちらに向かってきた。
「――炎陣!」
『っと! それは何か嫌な匂いがしますね』
ヨハンは勢いを殺して攻撃を止めた。
『ただの炎ならそこまで怖くはありませんが、触れてはいけない気がしますね』
(くそっ! お見通しって訳か。そのまま突っ込んで来てくれればこの消えない炎を受けてくれると思ったんだが)
『少々早いですが、得体の知れない相手に戦闘を長引かせるのも怖いですしね――
『さてどう対応しますか? はぁっ!』
(おいおい、まだ強くなるのかよ)
そう考えて蓮は相手の突進を警戒して硬質化のスキルを使用した。それと同時に突如爆発音の様な音が聞こえてきた。
――ボォンッ
「なっ!? がぁぁぁっ!……一体なんだ?」
相手は10メートル程先にいて突っ込んで来たわけでも無い。ただ拳を前に突き出しただけに見えた。
事前に硬質化を使っていなかったらこの一撃でやられていただろう。
(これは……五十嵐がやってた技か。けど威力が比べものにならないぞ。これじゃ下手に近づけないし、距離を取って戦うわけにもいかない……)
相手に攻撃されるより前に攻撃を仕掛けるしか無いと判断して防御を捨てて両手の剣の改変効果をATKとAGIに書き換えた。
「カスタマイズ《改変》ATK +、AGI +を白剣、蒼白刀に付与!」
両手の剣を意識して即座に改変を掛け直した蓮は
相手の拳に合わせて凄い速さで飛び込んだ。
拳から放たれる空気の弾は直前に聞こえてくる一瞬の爆発音で判断して寸前のところで避けていく。
(よしっ! この距離なら当てれる!!)
「てぇぁぁぁっ!」
『――
ヨハンは最終段階の身体強化を発動し、拳を下ろした。
『無の境地――
ヨハンがこの戦いの中で唯一、技の名前を言葉にした瞬間、蓮の攻撃は当たる瞬間に何か膜の様なもので弾かれた。
その時、全身を何十発の拳で殴られた様な激しい痛みが襲った。
「がぁぁぁぁああっ!!!」
蓮は得体の知れない攻撃を受けると気絶してしまった。
『今のは危なかったですね。もう少し貴方の動きが早ければ技の発動が間に合いませんでした。と、気絶してしまいましたか……まあ良いでしょう。少しお話させて下さい』
『私が出した技はただの反撃技です。けれど普通の反撃と違ってその一瞬に全ての力を込めます。この技だけ発動前、集中する為に技名を言わないと思った効果が得られないのが難点なんですけどね』
ヨハンが長々と説明をしている中、蓮の意識はボンヤリとしており、ヨハンが話している内容は断片的にしか聞き取れなかった。
(俺は一体……何が起きたんだ? 確かに攻撃は当たったはずじゃ……)
遠のく意識の中で思考を巡らせるが考えがまとまらない。
『フフッ、苦戦していますね』
(っ!? この声は……?)
『もうお忘れですか? まあいいです。それよりそのスキルについて私が知らない間に随分使いこなしていますね。しかし、常識に縛られてはいけませんよ』
『してはいけない。やってはいけない。そうして制限を掛ける理由は何でだと思いますか? 出来ないから制限をかけているのではなくて制御出来なくなる事を危惧して制限をかけているのです』
(何を……言っているんだ? 意味が分からない。常識に縛られるな? 制限?)
『まだ理解出来ていないみたいなので最後にヒントを』
『貴方は力を、そして速さを欲する為に改変を使いますよね。それは限界ではありませんよ。貴方が勝手に限界を決めただけです』
(改変の限界? 同一装備へ同じ効果はかけれないから改変は2つが限……まさか……そういう事か。もしそうなら)
『うん、もう大丈夫みたいですね。精々頑張って下さい。貴方にはこんな所で倒れてもらうわけにはいかないですから。私から受け取ったものも有効活用して下さい』
(おい! お前は一体!? 受け取ったものって。今の声は管理者のへルンだったのか? でもあいつなら倒したはずじゃ……)
「うっ……」
蓮は謎の声が途切れると同時に意識を取り戻した。
『おや、まだ立てますか! 気絶していたみたいでまさにトドメをさそうとしていたんですよ。けどそんな体じゃ変わりないですね。そろそろ終わりにしましょう!』
「まだだ! こんな所で終われない」
(さっきの言葉を信じるしかないな。相手のさっきの技は多分カウンター技だ。葵も言っていたけどタイミングが難しいはず。だから技を出す前にそれ以上の速さで攻撃を叩き込めれば……)
「カスタマイズ《改変》AGI +を4つ付与!」
『ジッ、ジーッ、4箇所……以、以上の改、改変付与を確認』
『《神速》を発動――発動の代償として技終了後、体力の85%を損失』
(神速? てか代償がヤバすぎるだろ……けどやるしかない)
「いくぞ」
『その体でまだ立ち向かうとは素晴らしい精神力ですね! しかしどんな攻撃も効きませんよ?』
――シュンッ
『え……、なっ……? 消えた? どこに!?』
蓮はヨハンの後方に瞬時に現れるとドタッと音を立てて崩れ落ちた。
『驚かせないで下さい……私はなんともありませ……ん?』
ヨハンはふと自らの腹を見ると何十回も斬られた傷が広がっていた。そこからはおびただしい量の血が流れており、いくら手で押さえても止まることはなかった。
『一……体……なに……を』
ヨハンはそのまま絶命した。
蓮の攻撃は確かに当たっていたのだ。ヨハンも、そして周りから2人の戦いを見ていた兵士達もその誰もがただ後方に瞬時に移動しただけに見えていた。
神速は瞬身とは異なり、移動速度と攻撃速度の両方を極限まで上げる技であり、すれ違いざまに恐ろしい回数の攻撃を対象に与えていた。
その太刀筋も早すぎる為、相手が斬られている事を認識するのに少し時間が掛かるくらいだ。
「……ヨハン様……?」
「ボケっとするな! ヨハン様がやられたが相手も瀕死だ! トドメをさせっ!」
「ヨハン様の死を無駄にするなっ!」
蓮が技の反動で体力も残り僅かでまともに動くことも出来なかった所を最初の蓮の攻撃から逃れていた兵士達が襲う。
ルグルの兵士も止めに入るが、捨て身で突っ込んでくる相手兵士数名が蓮の目の前まで来てしまった。
「くたばれぇぇぇっ!」
兵士の剣が蓮の首元に入りそうになった時、突如光を放つ大きな盾が現れ、蓮を守った。
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